ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >カンボジア・セサン下流2>移転を拒み続ける住民に、逮捕の恐れ
メコン河開発メールニュース2017年9月6日
7月に始まった試運転後についてお知らせしてきたセサン下流2ダムの続報です。
この事業は中国、ベトナム、カンボジアの企業の投資で建設が進んでいますが、現在の国際水準ではありえない状況に陥っています。少数民族である住民との合意形成なしに建設を進め、住民が移転を拒んでいるのに貯水を開始しています。
事業とこれまでの経緯についてはこちら
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/LowerSesan2.html
村につながる橋には、試運転の貯水時に撤去されたものもあり、住民は移動が制限された状態です。さらに、居住地区は再び水没する可能性が高く、環境的に危険な状態にあります。加えて住民たちは司法からの圧力も受けています。フォーラムMekong』PDF版 第9号 (2017年6月発行)で紹介したように、カンボジアの司法は政府から独立しているとは言い難いものです。
「カンボジア-長期政権の裏側で:選挙・土地収奪・人々の抵抗」
http://www.mekongwatch.org/PDF/FM-PDF-9.pdf
以下、「プノンペン・ポスト」の記事【1】を和訳してお伝えします。
カンボジアでは、8月後半に、米国資本のVoice of America, Radio Free Asiaの地方局が閉鎖されました。また、民主化支援を行ってきた米国系のNGOも活動停止処分を受け、外国人スタッフは国外退去となっています。9月3日の未明、野党党首のケム・ソカー氏が外国と協力し国家の転覆を計画した容疑で逮捕されました。さらに、現政権への批判も報道する独立系の英字紙Cambodia Dailyは、過去に遡り6億円以上を課税され、9月4日に廃刊に追い込まれました。これらは、来年の国政選挙に向けた動きです。この状況では、選挙は形式的となり、与党人民党の独裁的な体制が強まる一方です。
これまでの国際機関や各国のカンボジアへの援助の効果が、問われる状況ではないでしょうか。
2017年8月31日
Phnom Penh Post
Phak Seangly記者
先月、ストゥン・トレンで行われたデモにおける役割を問われ召喚された抗議者3人は、その捜査を、セサン下流2ダムへの批判を諦めさせるために仕組まれた脅しだとした。
Koeng Ban氏(45歳)と弟のDam Samnang氏(32歳)、彼女の娘Choeun Sreymom氏(26歳)は、セサン郡のクバールロミア村の住民だが、先週、ストゥン・トレン地方裁判所に来月出頭するよう召喚状を渡された。
召喚状はKim Hongsan副検事がサインしており、3人を、9月12日に開かれる「犯罪を誘発する扇動」についての尋問対象としている。
Ban氏は、「村の人は、私に行くのはやめろと言うので、行きません」と述べた。「もし私が行くなら、村人全員が同行します。行けば、私を逮捕・投獄しやすいでしょうが、もし私を村で逮捕することになれば見栄えは悪くなるでしょう。」
Ban氏は、落成式が9月25日と間近に迫った[セサン下流2]ダムによる移転を引き続き拒んでいる、クバールロミア村の58家族と[隣の]スレコー村の117家族のうちの一人である。
3人は、そのほとんどがクバールロミア村民だった、先月の100人以上のデモ抗議に参加していた。軍警察と州警察が、地元住民との連帯を表明するために伝統的な祈りの儀式と家屋建設に参加しようと、ダムに向かっていた[他地域からの]村人グループを拘束するという出来事を受け、国道78号線で行われたデモ行進だった。
抗議行動の権利はカンボジアの法で謳われており、3人が、他の参加者が何の罪を犯すのを扇動したのか、今は明快ではないが、不鮮明な容疑での告訴というのは、政治的な色合いを持つケースの場合にしばしば用いられる。
Hongsan検察官は、召喚状を発したことを認めたが、それ以上の詳細は多忙を理由に述べられないとした。
「私の令状であり、呼んだのは3人だけだ」とHongsan氏は述べた。「告訴人は地方当局だ。」
ストゥン・トレン州議会のMen Kong報道官は、この案件について知らないので何もコメントできないと述べた。
来月のダムの落成式は、フンセン首相により執り行われる予定だ。
人権グループAdhocの地方コーディネーター、Hou Sam Ol氏は、捜査は村人たちを怖がらせる狙いのもので、両者は裁判ではなく調停によって紛争を解決すべきだと述べた。
Ban氏の娘Sreymom氏は、自分はダム建設の被害者であり、自分の抗議は処罰されるべきではない、と述べた。彼女は来月裁判所に出頭すべきかどうか、助言してくれる弁護士を探している、と付け加えた。
Sreymom氏は、「尋問されるのは構わないが、村人は私を行かせないだろう」と言い、村人は彼女が逮捕されるのを恐れている、とも述べた。
註
【1】原文(英語)
http://www.phnompenhpost.com/national/lower-sesan-ii-dam-protesters-summonsed
(文責・翻訳/メコン・ウォッチ)