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ラオス「持続的な開発のモデル」を検証する(3)

ナムトゥン2ダム:事業前に指摘された問題の数々

メコン河開発メールニュース2017年11月20日


ラオスの開発モデルであるナムトゥン2ダム(以下、NT2)は、平均で年8,000万ドルの収入をラオスにもたらし、貧困削減に貢献すると言われています。一方で、東洋のガラパゴスと呼ばれた自然豊かな森を有するナカイ平原を、450平方キロメートルの面積に渡って水没させました。事前に世界銀行(世銀)やアジア開発銀行(ADB)は、万全の環境対策をとりそれがラオス政府の今後の環境保全能力の向上にも貢献する、と主張してきました。

しかし、ナカイ高原の森林では、NT2の環境・社会影響評価が行われる前に、ラオス国軍設立の山岳開発公社によって大規模伐採が行われました。伐採が本格化したのは1993年か94年の乾季から。その後に行われた調査は、公社による森林伐採があったことを無視し、この地域の森林劣化の原因を住民による定住地の拡大や焼畑だと認定し、議論を呼びました。

森での林産物の採取は住民の重要な生活手段でしたが、それを奪われ、かつダムの水没予定地であるため援助も入らず、住民は困窮しました。選択肢のない状態に置かれた人たちは、補償を得ようとダム建設賛成に傾いていきます。NT2に対する反対の声が地元からなかったのは、ラオスの言論の自由が制限されていることに加えて、このような要素があったのです。

事業では、ナカイ高原に住んでいた約6200人の住民が移転しました。住民は少数民族で、水田だけでなく、広い面積が必要な移動焼畑で米作りをしていました。また、様々な林産物を生活で利用し、森や稲刈りあとの水田での放牧も組み合わせ、自給自足に近い生活を営んでいました。移転住民は土壌が悪く狭い移転地に移されましたが、政府と企業は、商品作物栽培などの収入での生活再建計画を立て、大量の資金と国内外の農業専門家を投入しています。

また、NT2はナムトゥン川の水を導水し発電しますが、発電後の水は別のメコンの支流、セバンファイ川に流しています。魚が豊富なセバンファイ川で、ダムによる不自然な増水があれば生態系に影響し、漁業資源を減少させることも懸念されていました。セバンファイ川の漁業人口は流域125村に住んでいる5万人だけでなく、その支流で生活を営む人も含みます。結果としてこの事業は12〜15万人に影響を及ぼすことが、以下の調査で明らかとなっています。

Shoemaker, Bruce, Ian G. Baird and Monsiri Baird (2002) "The People and Their River: A Survey of River-Based Livelihoods in the Xe Bang Fai River Basin in Central Lao PDR", November 2002

報告書はこちらからダウンロード可能です。
https://www.internationalrivers.org/resources/the-people-and-their-river-2620

また、ナカイ高原にはアジア象、ハジロモリガモ、また、20世紀に初めて確認された大型哺乳動物のサオラーといった、稀少で絶滅が危惧される動物の生息地でした。そこを琵琶湖の2/3にあたる規模で水没させてしまったのです。NT2は生物多様性へも多大な影響を与えました。

ダム建設後、社会的弱者である少数民族の影響住民の生活と、川の環境がどうなっていったか、次回にご紹介したいと思います。

NT2のこれまでについては、次のページもご覧ください。

http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_nt2.html

(文責/メコン・ウォッチ)

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