ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ナムトゥン2ダム2>ラオス「持続的な開発のモデル」を検証する(4)
メコン河開発メールニュース2017年11月30日
ラオス中部のカムアン県に建設され、2010年に操業を開始したナムトゥン2ダム(以下、NT2)。ラオスの森、川、人々の暮らしに大きな影響をもたらしたこの事業では、ダムの貯水によってナカイ高原に暮らしていた6200人の移転住民と、ダムの水が転流されるセバンファイ川流域で漁業に従事する12万人以上の人たちが直接的な影響を受けることになりました。メコン・ウォチでは、ダム建設が始まった2006年から、断続的にその2か所を訪問し、推移を報告しています。
2006年の建設開始時、現地で移転管理事業に従事していたラオス政府職員は、貯水池付近は将来観光地になり、高原野菜などの商品作物を作る住民は販路ができるほか、事業で指導している小規模ビジネスで生活できる、と楽観的な予想をしていました。しかし、2008年に訪問した際には、道路がよくなったことで野菜の販路となるはずの町から、逆にタイ産の安い野菜が入りマーケットに溢れていたのを目撃しました。住民の商品作物栽培は失敗し、貯水池での漁業以外、目立った産業は育たず、今もナカイ高原は観光地にはなっていません。
セバンファイ川流域では予想通り漁業に影響が出ています。また、雨季と乾季の水位差を利用した河岸農業が盛んでしたが、事前にNGOや研究者が懸念した通り、ほとんどの場所でみられなくなりました。今、一部の村では河岸侵食も深刻です。
詳しくはこちらのページ、現地訪問報告をご覧ください。
2006年報告http://www.mekongwatch.org/PDF/nt2report2006.pdf
2008年4月報告http://www.mekongwatch.org/PDF/nt2report2008.pdf
2008年9月報告http://www.mekongwatch.org/PDF/NT2Fieldreport200809.pdf
2010年報告 http://www.mekongwatch.org/PDF/nt2report2010.pdf
2017年報告 http://www.mekongwatch.org/PDF/NT2FieldReportJan2017jp.pdf
世界銀行の職員との話し合いで、私たちが指摘した問題は、短期間で行われた調査ゆえの例外的なケースだったのだろうと反論されたこともあります。しかし、コンセッション契約(Concession Agreement = CA)を根拠に設置された、独立した立場で事業に意見を述べる国際環境社会専門家委員会(International Environmental and Social Panel of Experts = POE)が半年ごとに出している報告をみると、私たちとほぼ同様の指摘も見て取れます。
23rd Report of the International Environmental and Social Panel of Experts (POE). December 29, 2014 の4ページなど
http://documents.worldbank.org/curated/en/152281467991954642/pdf/96161-WP-P049290-P076445-PUBLIC-Box391439B-POE-23-Report-Final.pdf
これらの分析を元に、NGOと日本の財務相の間で日本の開発援助政策を議論するために設置された、財務省・NGO定期協議の第62回会合(2016年6月24日開催)でも、問題をしています。質問と議事録はこちらのページをご覧ください。
このように財務省とは、NT2について、長年の議論の経緯があります。次回では日本政府がなぜこの事業を支援したのか、振り返ってみたいと思います。
NT2のこれまでについては、次のページもご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_nt2.html
(文責/メコン・ウォッチ)