ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >メコン本流ダム>パクベンダム>事前協議を延長すべきと市民ネットワークが声明
メコン河開発メールニュース2018年5月29日
中国より下流のメコン河本流部分でも、ラオス国内でサイヤブリダムとドンサホンダムの建設が始まっています。今、3番目のダムになるパクベンダムの計画も動き始めました。このダムはラオス北部ウドムサイ県にあるパクベンという町から7キロ上流に位置し、設備容量は912MWで、毎年4,700GWhの発電が見込まれています。タイへの売電が主な目的です。
2017年6月、メコン・ウォッチも参加する市民のネットワーク、セーブ・ザ・メコン連合が、事業の進行を懸念し公開声明を出しました。この中では、パクベンダムの事前協議過程の期間を、メコン河委員会の加盟国が評価を行えるよう延長し、質の高い科学的調査と、本流でのダム建設による越境・累積影響に関する幅広い認識と理解に基づいて、地域としての意思決定が実現することを求めました。
残念ながら、その後、協議は進められてしまいましたが、別の理由でこのダム建設が見直される可能性も出てきました。次回では最近の状況についてお知らせします。
以下、声明を和訳してご紹介します。
パクベンダムについてはこちらも御覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/tb/Pakben.html
2017年6月16日
6月19日(月)、メコン河委員会(MRC)の合同委員会は、パクベンダムの事前協議プロセス、及び、正式な返答書に記されたメコン河委員会の加盟各国の立場に関して話し合うために、特別会合を開く。この会合は、パクベンダム事業に関する事前協議プロセスの最初の6ヶ月間の終了と重なる。
同事業によるメコン河への環境・社会影響を査定し、理解するために事前協議中に使用された研究や情報の質には重大な特筆すべき懸念がある。これには、事業によるタイや他の近隣諸国における国境を越えた影響や、メコン河流域における既存及び計画中の水力発電事業との累積影響も含まれている。加えて、事前協議プロセスにおいて、国内で行われた協議や市民参加の質にも懸念が持たれている。
事前協議にもっと時間が必要だ。開発事業者によってさらなるベースライン調査が実施され、パクベンダムの予測される影響について意味ある評価をするためのさらなる情報が加盟国に提供されるために。1995年のメコン協約と「告知、事前協議、合意手続き(PNPCA)」に基づけば、事前協議期間を延長することは合同委員会の権限でできる。また、事前協議のプロセスの中で生じた懸念に対応することも、合同委員会の責任だ。
環境影響評価(EIA)や事業資料などのメコン河委員会のパクベンダム事業に関する文書についてのテクニカル・レビューのドラフト版は、漁業、水文学、堆積物のデータに大きな相違があり、同事業の国境を越えた影響が十分に評価されていないと結論した。International Rivers(訳者注:米国に本部を置くNGO)の委託で行われたパクベンダムのEIAの独立専門家レビューも、開発事業者から提供された情報は、影響の全容を評価するには不十分であり、したがって、提案されている影響緩和策の効果を評価するのにも不十分であると結論づけている。(事業の)越境・累積的影響評価を分析したところ、調査における意味ある市民参加が欠如しており、事業により影響を受けるであろう住民との協議を行っていないことが発覚した。
国レベルでは、カンボジア、タイ、ベトナムで開かれた協議会に制限があったことに対して、強い懸念が市民社会や現地コミュニティから挙げられた。これらの協議会は、提示される事業の情報や協議の範囲が限られていたことに加え、参加の欠如、特に被影響住民の代表者がいないというのが特徴であった。国内の協議会には開発事業者が参加せず、よって、参加者からの質問は応答されなかった。タイでは、パクベンダムの国境を越える影響と、国内の協議と情報共有の脆弱さへの懸念から、タイのメコン河沿いの住民たちが、タイの行政裁判所において、タイの国内メコン河委員会に対する訴訟を起こすこととなった。
タイの住民は、パクベンダムの国境を越えた影響に非常に懸念を抱いている。事業地がタイとの国境に近いことを考えると、ダムの国境を越える影響に対して適切な評価をすることが緊急で必要とされている。さらに、決定がなされる際には、パクベンダムにより生活や食糧が脅かされるであろう現地住民の参加が必要である。これには、メコン河に依存した生活を営み、ダム建設により危険にさらされるメコン河下流域に暮らす住民も含まれる。
メコン河委員会事務局は、事前協議を、パクベンダムによる悪影響を緩和し、最小化する手順に焦点を当てたものだと位置付けた。しかし、十分なベースライン・データや適切な影響評価がなければ、特にメコン河のように複雑な生態系では、実行可能で、状況に応じた具体的な緩和策を立案することは不可能である。サイヤブリダムとドンサホンダムの建設は、双方とも必要なベースライン調査がないまま開始された。事業が進んでも、実施中の調査の進行状況や影響モニタリングに関する情報はほとんど公開されていない。
パクベンダムは、サイヤブリダムやドンサホンダムと同じ道を辿ってはいけない。メコン圏の政府は、ダム建設を進める決定がなされる前に、事業の合意がなされダム建設が始まる前に、適切な事業調査が行われるよう求めるべきである。
パクベンダムの事前協議過程の期間は、更新された調査結果についてメコン河委員会の加盟国が評価を実施できるよう、延長されなければならない。これには、2017年12月に完了予定の、メコン河委員会評議会調査の最終結果の検討も含まれるべきである。質の高い科学的調査と、メコン河本流でのダム建設による越境・累積影響に関する幅広い認識と理解に基づいた、共有された、地域としての意思決定が緊急に求められている。
声明原文(英語)
https://savethemekong.net/2017/06/16/248/
(文責・翻訳:メコン・ウォッチ、翻訳協力:メコン・ウォッチ インターン)