メニューを飛ばして本文へ移動。

    English site

[メコン・ウォッチ]

ホーム | お問い合わせ | メールニュース登録 | ご支援のお願い


イベント | メコン河とは? | 活動紹介 | 追跡事業一覧 | 資料・出版物 | ギャラリー | メコン・ウォッチについて

ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ナムトゥン2ダム2>未解決の環境社会影響を残したまま世界銀行の事業が終了

ラオス・ナムトゥン2ダム

未解決の環境社会影響を残したまま世界銀行の事業が終了

メコン河開発メールニュース2018年6月22日


ナムトゥン2水力発電事業(以下、NT2)(※1)は、実施前から環境社会影響の大きさをめぐって国際的な論議を巻き起こしてきました。しかし、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、同事業を「貧困削減のためのダム」、「持続可能なダム開発のモデル」として推進してきました。昨年、未解決の環境社会影響を残したまま、世銀の事業が終了し、世銀やADB、その開発を支持した日本を含むドナーの責任が問われています。

NT2は、タイへの売電による外貨獲得を主な目的とし、ラオス中部に建設された水力発電事業です。売電収入による貧困削減への貢献を掲げてきましたが、約6200人の移転住民の生計回復の難しさ、ダム下流の水量の変化による洪水悪化や河岸農業・漁業などの生計手段への悪影響、アジア象など絶滅危惧種を含む希少な生態系の破壊など、多くの環境社会影響を引き起こしてきました。2005年の世銀・ADBの同事業への支援決定に際しては、世銀・ADBの最大のドナーである米国が、理事会での採決を棄権するなか、世銀にとっては第2の出資国、ADBにとっては米国と並んで最大の出資国である日本政府は賛成票を投じています。

今年1月、世界銀行は「ナムトゥン2環境社会プロジェクト」が2017年12月31日付で終了したと発表しました。しかし、事業終了の重要な判断材料であったはずの外部専門家による調査報告書が最終化・公開されておらず、移転実施期間終了後の2018年2月に、メコン・ウォッチとインターナショナル・リバーズ(以下、IR)(※2)が共同で行なった現地調査では、移転住民の生計回復のためのアクション・プランの複数の項目が達成されていないままであることが確認されています。

以下、メコン・ウォッチとIRのプレスリリースの抄訳です。

ナムトゥン2:事業の成果に疑問を残したまま、世界銀行が撤退

メコン・ウォッチ、インターナショナル・リバーズ 2018年6月19日


世界銀行は、2017年12月に「ナムトゥン2環境社会プロジェクト(ESP)」の終了を宣言した(※3)。今後、NT2事業の環境社会影響への対応の責任は、ラオス政府、事業主体であるナムトゥン2電力会社(NTPC)、フランス開発庁(Agence Française de Développement.:AFD)に引き継がれる。

世銀は、声明の中で事業の成功を強調しているが、以下のように、持続的な開発目標の達成には、大きな疑問が残っている。

 

〇事業終了のプロセスに関する疑問

当初の計画では、ESPは2015年末に終了することになっていたが、事業のコンセッション契約を根拠に、独立した立場で見解を述べる国際環境社会専門家委員会(International Environmental and Social Panel of Experts: POE)が、生計回復の目標が達成されていないと指摘し、移転実施期間の延長を提言したことを受けて、2017年末まで2年間延長されていた。POEは2017年11月に現地調査を実施しており、本来であれば、この調査を受けた第27次POE報告書が公開され、そのなかで事業の目標達成が確認されて初めて、移転実施期間およびESPの終了が決定されるべきであった。しかし、現実には、今日に至るまでPOEの第27次報告書は公開されておらず、少なくとも2018年5月末時点で最終化もされていない。

 

〇移転実施期間終了後の現地の状況

メコン・ウォッチとIRは、同事業の移転実施期間終了後の2018年2月にナカイ高原の移転村とダム下流のセバンファイ川沿いの影響村を訪問した。調査では、長期的な生計回復の見通しが立たず、将来に不安を抱える影響住民の声が聞かれた。また、第26次POE報告書(※4)で挙げられた移転実施期間の終了に向けた包括的アクション・プランのうち、追加の土地分配や土地利用権の付与といった複数の優先項目が未達成のまま、移転実施期間が終了したことが明らかになった。

このように長期的な生計回復を達成しないまま、移転実施期間を終了した世銀とNTPCは無責任であると言わざるを得ない。また、世銀はESP終了の声明のなかで、同事業によるラオスの環境・社会政策への貢献を強調しているが、同事業の準備として作られた環境・社会政策については、実施が伴わなかったり、無効となったりしている。

NT2ダムは世銀等によって「持続的な水力発電事業のモデル」として推進されてきたが、同事業が移転住民の生計回復や下流の影響の回避・緩和・補償に失敗し、情報公開の透明性や説明責任を果たせなかったという負の遺産が残されたことを考えれば、NT2が複製可能な開発モデルとして使われることがあってはならない。

===

メコン・ウォッチとIRの共同声明の原文(英語)

Report l Nam Theun 2: World Bank Withdrawal Leaves Major Concerns Over Project Outcomes はこちら

メコン・ウォッチとIRの共同現地訪問(2018年2月)の報告書はこちら:
英語版(インターナショナルリバーズのサイト):
https://www.internationalrivers.org/sites/default/files/attached-files/nt2_field_report_2018_formatted.pdf

日本語版:
http://www.mekongwatch.org/PDF/NT2FieldReportJune2018_j.pdf

(※1)詳しい情報はこちら→http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_nt2.html
(※2)米国に本部を置く環境・人権NGO https://www.internationalrivers.org
(※3)The World Bank “Statement on the Closure of the World Bank-funded Nam Theun 2 Social and Environment Project” (January 30, 2018).
http://www.worldbank.org/en/news/press-release/2018/01/30/statement-on-the-closure-of-the-world-bank-funded-nam-theun-2-social-and-environment-project
(※4)26th Report of POE. June, 2017.
http://documents.worldbank.org/curated/en/856631502900462112/pdf/118758-WP-P049290-PUBLIC-POEReportPartAWebVersion.pdf

(文責/メコン・ウォッチ)

このページの先頭へ

サイトマップ
特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ
〒110-0016 東京都台東区台東1-12-11 青木ビル3F(地図
電話:03-3832-5034 Fax:03-3832-5039 
info@mekongwatch.org
© Mekong Watch. All rights reserved.