ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >カンボジア・セサン下流2>正式に発電を開始-顧みられないメコン河流域への影響
メコン河開発メールニュース2019年1月8日
昨年末12月17日、カンボジア北東部に建設されたセサン下流第2ダム(LS2)が正式に発電を開始しました。同ダムは、中国の大手企業ハイドロ・ランチャン国際エネルギーが中心となって推進する合弁事業です。
LS2の建設にあたって移転を余儀なくされた約1,000世帯の多くは、河川、森林、土地などの自然資源を長年にわたって利用しながら暮らしてきた先住・少数民族です。こうした人びとが移転することで自然環境がかえって劣化し、自然資源を活用する知恵が失われ、先住・少数民族自体も貧困・弱体化する懸念が高まります。
また、メコン・ウォッチが独自に得た情報では、ダムの下流に位置するクラティエ州で建設工事の開始と同時期に漁獲量が激減したとのことです。LS2の影響は、すでに広範囲に及んでいる可能性があります。
LS2はメコン河の支流に位置するため、カンボジアの国内問題と捉えられがちです。しかし、ダムがさえぎるセサン川は、スレポック川、セコン川とともに広大な支流域を形成し、メコン河流域全体の魚類の回遊や産卵にとって非常に重要な役割を果たすと考えられています。そのため、今後、さらに広域かつ甚大な影響が顕在化しそうです。
以下では、現地紙の報道【注】を通して、12月17日の開業式典に出席したLS2推進側の要人の発言を紹介します。こうした発言を読むかぎりでは、推進側には流域全体や流域国にもたらす影響への認識がありません。また、国内の電力不足の解消を強調する発言が目立ちますが、LS2のある北東部の農村では、電化が遅れた分、かえって多くの住民が自前で200〜1,000米ドルの太陽光パネルを設置し、電気を利用しています。
なお、LS2に関する詳細は、以下をご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/LowerSesan2.html
2018年12月18日
Khmer Times
May Kunmakara記者
12月17日、8億米ドル(約890億円)を投じたセサン下流第2ダムが約4年の建設工事を経て、正式に発電を開始した。同ダムは国内最大で、カンボジアの総発電量の20%にあたる電力を生む。中国のハイドロ・ランチャン国際エネルギー(出資比率51%)、国内大手ロイヤル・グループ(同39%)、ベトナム国際電力公社(同10%)の合弁事業で、国内では七番目の水力発電ダムとなる。北東部ストゥン・トレン州セサン郡に位置し、カンボジア政府から45年間の土地使用権(コンセッション)を得ている。
開業式典では、世界の電力トップ500社にランクインするハイドロ・ランチャン国際エネルギーの代表が、「セサン下流第2ダムはカンボジアの電力セクターの発展を象徴するとともに、中国の一帯一路構想(BRI)の大きな成果である。カンボジア政府が支援して実現した旗艦事業で、2014年2月の工事開始以来いくつか課題にも直面したが、総じて円滑に進み成功を収めた。このダムはカンボジア最大の発電事業で、国内の電力不足を解消し、電気料金を引き下げ、カンボジアの社会開発に寄与する。わが社はクリーンで安全な電力を提供することに努力する」と語った。
また、カンボジア政府のSuy Sem鉱山エネルギー相も、「2007年、カンボジア政府がベトナム国際電力公社に、カンボジア電力会社と共同で実行可能性調査を実施する許可を与え、その後ロイヤル・グループが参加し、最後にハイドロ・ランチャン社をパートナーとして迎えた。今日の開業は、政府が国内の電力需要を満たすために発電能力の増強に力を入れていることを示している」と述べ、カンボジアの発電能力が1998年の150メガワットから2018年の2,648メガワットに、すなわち20年間で約18倍に激増し、国内全村落の約87%にあたる12,305村が電化された点を紹介した。
さらに、フン・セン首相は、「このような巨大事業に国内企業から投資を受けたのは初めてで、ロイヤル・グループ社長のKith Meng氏は水力発電事業に投資した最初の人物だ。私は、『もし、セサン下流第2ダムが失敗に終わったらどうなる? 電力セクターや経済はどうなる?』と自問し、合弁事業による投資となった。このダムはストゥン・トレン州を電化するだけでなく、カンボジア全土の発展に寄与する。家庭だけでなく、農業、産業、サービス業に従事する企業にも電気を提供する」と述べ、「2019年1月から、家庭用、業務用ともに電力料金をキロワットあたり最低100リエル(約2.7円)引き下げる。また、2021年以降も2025年まで継続的に電力料金を引き下げるため調査をするようカンボジア電力会社と鉱山エネルギー省に命じた。2019年からは電力を大量に消費する裕福な家庭はより多く電気料金を支払い、少量しか使わない貧困家庭の電気料金は安くなる。こうして生産性を向上し、サービス業の競争力を上げる」と付け加えた。
【注】
原文(英語)は、May Kunmakara、”Dam in Sesan begins operations”(Khmer Times、2018年12月18日)。以下で閲覧可能
https://www.khmertimeskh.com/50560364/dam-in-sesan-begins-operations/
(文責・翻訳/メコン・ウォッチ)