ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ラオス > セピアンセナムノイダム > ラオス>セピアン・セナムノイダム決壊事故(2):人災として事故を検証する
メコン河開発メールニュース2019年4月19日
2018年7月23日にラオス南部で発生したセコン川水系に建設中のセピアン・セナムノイ水力発電ダム(以下XPXNN)について、これまで公表された情報と現地訪問で得られた情報を、7回にわたってお伝えするシリーズの2回目です。
遅れた避難
XPXNNの建設は韓国企業のSK Engineering and Construction (SK建設)が、韓国西部発電が運営管理を担当していました。
韓国中央日報によると、韓国西部発電のキム・ビョンスク社長は、国会の産業通商資源中小企業ベンチャー企業委員会で、「7月20日、セナムノイ貯水池造成のために築造した5つの補助ダムの一つが豪雨で11センチ沈下した」と発言しています。その2日後の22日、ダム上段部10カ所に沈下が拡大し、復旧装備を手配したものの、翌日の23日午前11時にはダム上段部が1メートルほど沈下。この時から事業を実施する合弁会社、Xe-Pian Xe-Namnoy Power Company (PNPC) が、アッタプー県に協力を要請し、住民の避難が始まった、といいます(*1)。
つまり、企業がラオス政府機関に住民避難への協力を要請したのは、事故の当日です。
私たちのラオスでの経験から考えると、その時点で村に連絡が届いても、住民全員をすぐ避難させるのは不可能だと思われます。雨季、ラオスの農民は、家を離れて水田に建てた仮の住居で寝起きすることが多く、村から離れ分散して暮らしています。実際、話を聞いたターセンチャン村では、この日村長が水田におり、県からの連絡が村に届くまで時間がかかったそうです。最近は村にも携帯電話で連絡がつくようになりましたが、ラオスでは、携帯電話に落雷すると考える人が多く、雨が降ると電源を切ってしまうので、特に雨季は連絡がつきにくくなります。事実上避難できなかったターセンチャン村では、128世帯527名のうち、事故時に子供9名を含む18名が亡くなっています。うち6名はまだご遺体が見つかっていません。水が来た時は、夕食の団欒時。家が倒壊した人たちは木や電線に捕まり、流されないよう夜通し支え合いました。子供を助けようとして、溺れてしまった方もいるそうです。
政府と企業のリスク・コミュニケーションも問題でした。洪水になると知らせを受けとった住民も、家財を2階に上げ逃げなかった、と言います。この地域の洪水は、川から水が徐々に溢れてくるので、土石流を含むような洪水は誰も体験したことがありません。また、事業の本体のダムは、村とは離れた位置にあり、村人はサドルダムというものが村の上流に作られたことすら知らず、ダムの決壊を伝え聞いても、事故状況をイメージできなかったようです。ターセンチャン村ではさらに、人口の9割以上が少数民族で、特に女性には公用語のラオス語が不得意な人が多くいます。
事故の日は大雨でしたが、せめて前日に連絡が村に届き、企業とラオス政府が念のため住民を高台に避難させる、という措置を事故当日朝からとっていたら、少なくとも人命の多くは失われなかったはずです。また、家財の一部、特に現金収入の少ない村人にとって重要な資産である乗り物(村人が移動にも使う耕運機やバイク)も被害を免れ、損害をより減らすことができました。
事故原因は設計変更?
避難の問題だけをみても被害発生の原因は、大雨の影響だけにあるとは言えません。ダムの建設・管理の不備による人災で、特に建設企業の責任は重大です。
韓国のメディア、ハンギョレは、韓国の国会議員による監査で明らかになった資料をもとに、SK建設が建設予算をカットしていたと報じました。また、SK建設はダムの形式などの設計変更を通じ、過度な利益を得ようとした、とあります。今回崩壊したサドルダムDを含め、SK建設が担当した補助ダムの高さは、文書に含まれた基本設計図面より平均6.5メートルずつ低くなっていたといいます。また韓国のODA資金も投じられているこの事業は、当時国会の予算審議を経ておらず、前政権がSK建設に無理やり収益を与えた形になった、とも指摘しています(*2)。この変更が事故にどう関係したのか検証し、関係する企業と機関の責任をさらに問う必要があります。
ラオス政府も、ダムが決壊した原因は自然災害ではなく、ダムの建設・管理の不備による人災だと考え、事故原因の技術調査と関係者の汚職について調査を行う他、既存・建設中のダムの安全を確認し、新規の水力発電事業を中断し、今後の水力発電戦略を見直し今後の方向性を検討する、と発表しました(*3)。ところが、ラオス政府はメコン河本流ダムの事業の手続きを進めるなど、実際には新規事業を中断させてはおらず(*4)、事故原因と汚職に関する調査結果も、まだ発表されていません。現状、事実関係が公開されるのか、予断を許さない状況です。
(文責:メコン・ウォッチ)
1) 中央日報 韓国企業側「ラオスのダム決壊、事故4日前の11センチ沈下」7月25日
http://japanese.joins.com/article/483/243483.html(2018年7月30日閲覧)
2) ハンギョレ.「ラオスダム崩壊、SK建設が利潤増やすために設計変更した疑い」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/31861.html
3) Vientiane Times. Govt to inspect all dam standards, shelve new hydro projects
(http://www.nationmultimedia.com/detail/asean-plus/30351705 Vientiane Timesのサイトからは削除されたため、タイNationに転載された版のリンク)
4) The Guardian. Laos dam collapse: work continues on huge projects despite promised halt