ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ラオス > セピアンセナムノイダム > ラオス>セピアン・セナムノイダム決壊事故(7):ラオスのダム投資に流れる世界の資金
メコン河開発メールニュース2019年5月15日
初回でみたように、セピアン・セナムノイ・ダム事業(XPXNN)は、タイと韓国の企業、ラオスの国営企業による合弁会社が実施しています。総事業費は10億2千万USドル(*1)、事業には、タイ輸出入銀行、タイ国営クルンタイ銀行、(クルンシィ・)アユタヤ銀行、タナチャート銀行が、その7割に対し融資を行なっています。4行の融資比率は同等です。
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XPXNNは実施面だけで見るとタイと韓国の事業ですが、資金面を見ると日本企業も関連しています。合弁会社に協調融資するタイ銀行団のうちアユタヤ銀行は、株式の76.88%を三菱UFJ銀行が保有、三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下にあります(*2)。融資決定は統合前となりますが、現経営陣には最高経営責任者(CEO)をはじめ多数の日本人が加わっています(*3)。
XPXNNの建設を担っていた韓国企業のSK Engineering and Construction (SK建設)は非上場企業ですが、その最大株主は持ち株会社のSK ホールディングス社で上場企業です。事故後、同社の株は6.2%も下落したことが報じられています(*4)。日本の年金積立金の管理・運用業務を担う機関として設立された年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、このSK ホールディングス社の株式を時価総額83億6305万336円保有しています(2019年3月末時点)(*5)。XPXNNに直接投資されたものではありませんが、このような事態を引き起こした企業に私たちの年金が投じられているのが現状です。裏を返せば、人権や環境に大きな問題を引き起こす企業に資金が投じられていれば、事故後の株価の下落に見られるように、私たちの年金も打撃を受ける可能性があるということです。
もちろん、これは日本だけの問題ではありません。SK ホールディングス社には、欧米の年金基金も投じられているようです。事業の関連企業を持ち株会社や親会社まで見ていくと、世界各国から資金が投じられていることが分かります。世界では今、化石燃料関連企業からお金を引き揚げるダイベストメント運動をはじめとする、人権や環境に悪影響のある金融の流れにストップをかけるための市民の様々な活動があります。また全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準として、「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で承認されるなど、企業活動が倫理的であることも強く求められています。日本も含め、各国がXPXNNの事故に関心を払うべき理由があります。
また、日本を始め、米国などが主導する国際機関もラオスのダム開発には電力開発のマスタープラン作成やナムトゥン2ダムの建設などで深い関わりを持ってきました。
メコン・ウォッチは今回のXPXNN事故後に以下の声明を発出しています。
ラオス南部のダム決壊で甚大な被害 開発には日本からの資金も
〜援助国/機関は政府の対企業補償請求に協力しつつ、ダム建設に頼る援助政策の見直しを〜
ここでは、以下のような指摘をしています。
「ラオスの人びとには、豊かな自然を生かした観光産業や、環境負荷の低い農業を発展させるといった独自の開発を実現させる潜在力があります。その潜在力を十分に活かすことなく、大規模ダム開発を後押しし続けてきた援助国・機関は、今回の事故の遠因を作り出したと言えるでしょう。援助国・機関は、ラオス政府が関連企業に適切な補償を求める際に全面的に協力することはもとより、ダムに依存する開発政策の見直しをラオス政府に提言すべきです。なかでも、昨今の予測不能な天候に対応できない可能性の高い既存のダムは運営の停止を、環境・社会影響に比して収益の見合わないダム計画については中止を検討するよう求めることです。そして、大規模ダム建設を推進する対ラオス開発援助政策自体をあらためるべきだと考えます。」
今回の事故調査報告書は3月に公開されるはずが、未だに公になっていません。実は、ラオス政府がこれを公開するかはまだ分かりません。しかし、ラオスの人たちが生活や命をダムに脅かされず暮らしていけるためには、開かれた議論が必要です。援助国・機関には、ラオス政府に情報公開を働きかけ、被害者への救済に積極的な役割を果たすことが強く求められます。
*注)
1) https://www.power-technology.com/projects/xe-pian-xe-namnoy-hydroelectric-power-project/ (4月8日閲覧)
2) https://www.krungsri.com/bank/en/Other/AboutUs/Overview.html
3) https://www.krungsri.com/bank/en/Other/AboutUs/ExecutiveOfficers.html(4月8日閲覧)
4) Nikkei Asia Review. Share in top SK E&C shareholders fall after Laos dam collapse (2018年7月25日)
https://asia.nikkei.com/Business/Markets/Shares-in-top-SK-E-C-shareholders-fall-after-Laos-dam-collapse (4月8日閲覧)
5) GPIFウェブサイト掲載のファイル「保有全銘柄について(2017年度末)」参照。
https://www.gpif.go.jp/operation/last-years-results.html (4月8日閲覧)
(文責:メコン・ウォッチ)