ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ミャンマー・ティラワ経済特区> 活かされない異議申立ての経験(1)合意なき強制収用
メコン河開発メールニュース2020年2月28日
ミャンマーのティラワ経済特別区(SEZ)開発は、日本の官民がミャンマーの官民と連携して進めている国家事業で、ヤンゴン中心から南東約23kmに位置するティラワ地区の約2,400ヘクタール(ha)に、製造業用地域、商業用地域等を開発する計画です。事業の開始当初2013年1月には、移転地や補償もないまま14日以内の立退きを迫られる通知が行政機関から2,400 ha内の約900世帯に出され、国内外から批判の声があがりました。
その後、規模が縮小され実施に移された早期開発区域 (Zone A)400 haでは、開発主体で日緬の民間企業、および、政府機関による共同事業体であるミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント社(MJTD)が2013年11月から工事を開始しました。この際、十分かつ適切な準備の整わないまま移転させられ、生活再建がままならない世帯もあり、住民からは、2014年6月に事業を支援する国際協力機構(JICA)に対し、異議申し立てが行われています。その後も、移転当初の借金返済に苦しむ世帯は残っており、生活再建の問題は解決途上です。
今月、この事業で新たな問題が発生しました。現在、開発は「移転区域2-2西部」という区域で行われています(Zone Bフェーズ4の場所に相当)。メコン・ウォッチが2月15日にティラワを訪問し、ここに住むタミル系の影響住民に聞き取りしたところ、少なくとも13世帯が移転・補償内容に合意していないことがわかりました。しかし、彼らの家屋や利用してきた農地の周囲では、土地造成作業が本格的に始まっており、トラックやブルドーザーなどが行き交っています。家屋や農地のすぐ目と鼻の先でトラックの荷台から土が降ろされ、粉塵もひどく、住民は健康被害と事故を懸念しながら生活していました。
更に、13世帯中1世帯には、今年2月6日と2月11日付でティラワSEZ管理委員会から、「土地はすでにティラワSEZ管理委員会に移譲されているものなので、今後、同土地での作業はしないこと」、「2020年2月18日以降、もし土地での作業を行なったら、あなたを訴える」といった内容の通知書が届いていました。2月18日にも影響住民の合意のないまま、強制的に農地での土地造成が開始されることが懸念されたため、私たちは、2月17日、JICAが以下を実施するよう要請しました。
・移転区域2-2西部における上述した影響住民の移転・補償交渉について、ミャンマー政府当局に事実関係を確認すること。
・影響住民の移転・補償合意がないまま、強制的な農地収用や家屋取壊し、強制退去が行なわれることのないよう、ミャンマー政府当局に申し入れること。
・影響住民との移転・補償交渉や合意取付けが強制的な形で行なわれることがないよう(補償金の受取りの強要も含む)、ミャンマー政府当局に申し入れること。
・影響住民との移転・補償交渉や合意取付けのプロセスにおいて、訴訟の可能性に言及するなど、脅迫的な発言・行為を慎むよう、ミャンマー政府当局に申し入れること。
・移転・補償合意を依然していない複数の世帯の居住地域周辺で、すでに土地造成作業が本格的に始められていることから、当該工事に係るトラックや重機の往来等によって、影響住民、特に女性や子どもに被害が及ぶことのないよう安全面やアクセスの確保を徹底するとともに、土埃や騒音などによる生活・健康リスクを回避すべく最大限の配慮を行なうよう、ミャンマー政府当局に申し入れること。
・上記に係る事項は、貴機構の環境社会配慮ガイドラインにおいても重要な規定(「移転住民の適切な参加」や「社会的弱者への適切な配慮」等)の遵守に関わることをミャンマー政府当局に再度注意喚起すること。
現状は、JICAが定める環境社会配慮ガイドラインに抵触する状況です。
要請に対し、JICAやMJTDは、すぐに現場での事実確認を行なうとともに、ミャンマー政府に対し対話を通じた国際水準による移転・補償の実施を求め、事態は一旦落ち着いたかのように見えました。しかし、驚くべきことに26日になって、移転・補償内容に合意していない住民が利用してきた農地にブルドーザーが入り、作業を始めるという事態になりました。
(文責/メコン・ウォッチ)