ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ミャンマー >ミンアンフライン国軍総司令官の家族と通信業社の秘密取引
メコン河開発メールニュース2021年6月7日
国軍のビジネスの実態を暴いてきた活動家のグループ、ジャスティス・フォー・ミャンマー(JFM)の情報から、ミンアンフライン国軍総司令官のファミリー・ビジネスについて、ダーティー・シークレットと題された一連の記事の一つを紹介します。
以下は、司令官の娘と通信事業者マイテルの関係を解説したものです。JFMは、「ミンアウンフラインの家族が国の資産へのアクセスから利益を得ている様子が明らかになる。スターハイ(国軍系企業MECが設立した企業)は政府がマイテルに持つ儲かる株式を与えられていたが、残虐で違法なクーデターが起きる前は議会の監視を免れていた。キンティリテッモンのマイテルとスターハイとの取引は、国軍の財閥全体に見られる利益相反の明らかな例である」としています。
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ダーティー・シークレット#3 ミンアウンフラインの娘がマイテルと秘密取引
ジャスティス・フォー・ミャンマー(2021年4月21日)
ミャンマー最大の国際犯罪人の娘が、国軍が支配するモバイル通信業社のテレコム・インターナショナル・ミャンマー(マイテル)と重大な商取引を行なっていたことが、新たにリークされDDoSecretsが入手した文書によって明らかになった。これは重大な利益相反に該当する。
違法クーデターの指導者であるミンアウンフライン上級大将の娘、キンティリテッモンは、2月1日に父親が違法クーデターを起こしたときにまだピナクル・アジア社の取締役であり、株主でもあった。ピナクル・アジアはマイテルのために携帯電話基地局を建てた企業である。
キンティリテッモンは米国財務省に制裁を科された直後の3月17日にようやくピナクル・アジアから退いた。この制裁は凶悪な国軍支配体制に抵抗する非武装の民間人が暴力で攻撃されていることに対して科されたものである。
マイテルとミンアウンフライン
マイテルは国軍が代理政府を通じてミャンマーを支配していたころに設立された。この政府は国軍が後援する連邦団結発展党(USDP)が率いていた。
政府が持つ28パーセントのマイテル株はスターハイ社が管理している。スターハイは、ミンアウンフラインが支配する国軍複合企業のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)によって設立された。スターハイの業務は国軍のマイテルへの出資金を保持することであるらしい。ミンアウンフラインの家族が国営企業へのアクセスから利益を得ていることになり、重大な利益相反となる。
ミンアウンフライン自身もマイテルの設立にあたり重大な役割を果たし、ベトナム軍との幾度にもわたる交渉を率い(訳注:ベトナム国防省所有のベトテル社がマイテルを49%所有)、マイテルの立ち上げを取り仕切った。
ピナクルとマイテル
ピナクル・アジアは当初からマイテルと提携していたようである。ピナクル・アジアは2016年に設立された。同年、国軍はミャンマーで4番手のモバイル通信業社であるマイテルの株を与えられた。
その後ピナクル・アジアはスターハイと取引を始め、マイテルのために携帯電話基地局を建てた。またリンクトインのプロフィールによれば、別のモバイル通信業社であるオレドーとも契約を結んでいる。
ピナクル・アジアの取締役社長はサオ・ソーム・ザイというオーストラリア人で、3人目の取締役はミャーミツーである。2人ともシンガポール法人であるピナクル・ミャンマーの取締役でもある。ピナクル・ミャンマーについてはほとんど情報がないが、ミャンマーでジョーンズ・ザ・グローサーのフランチャイズを設立するためにミャンマー・インベストコーというシンガポールの上場企業とも提携していた。この取引は2018年に中止された。
ヨーマ銀行の関与
キンティリテッモンが2021年3月まで所有していた携帯電話基地局事業には、国際的に名前を知られたミャンマーの銀行が出資している。このため、株主にとっては人権や汚職についての懸念が持ち上がる。
2020年2月、ミャンマーのヨーマ銀行が、マイテルとの携帯電話基地局建設契約を担保としてピナクル・アジアに融資を行なった。キンティリテッモンは保証人として融資契約に署名した。融資契約には、返済が終わるまではマイテルからの収入がヨーマ銀行に送られることが明記されていた。この融資はスターハイとマイテルの両方によって承認された。のちに、ふたたびマイテルの携帯電話基地局を担保とする融資が行なわれた。
海外の株主への影響
ヨーマ銀行がミンアウンフラインの家族と取引をし、マイテルの携帯電話基地局に出資していたにもかかわらず、ノルウェー開発途上国投資基金(ノルファンド)とシンガポールのGICがヨーマ銀行の株式を購入した。これは2020年4月に発表された。世銀の一部である国際金融公社(IFC)も、以前行なったヨーマ銀行への融資を5パーセントの株式保有に転換した。ノルファンドとGICとIFCはヨーマ銀行のマイテルとミンアウンフライン上級大将の家族との取引から利益を得ることになり、これらの融資に絡む汚職や人権侵害に対する批判を受ける可能性がある。
政商テーザーが所有するAGD銀行は2020年7月、ピナクル・アジアとのプロジェクトファイナンス契約を発表した。金額は非公表だが、2021年までに携帯電話基地局の所有数を400まで増やす内容だった。テーザーはタンシュエの側近で、国軍との親密な個人的関係に基づく優遇措置を通じて自身の事業を構築した人物である。
国連の事実調査団は2019年8月、国軍はその経済的権益によって残虐な犯罪を犯すことが可能になっているとの結論を出した。調査団は「ミャンマーで活動する、またはミャンマーでの事業に投資する企業は、ミャンマーの治安部隊、とくに国軍あるいは国軍が所有または支配する事業とのいかなる商業関係にも入る、またはとどまるべきではない」と提言し、国軍幹部の家族と商取引をしないよう警告した。そのような商取引は国軍と関連づけられるか、国軍を支える場合があるからである。ヨーマ銀行とAGD銀行はこれらの提言を無視した。
ファミリー・ビジネス
キンティリテッモンのマイテルとの取引からは、ミンアウンフラインの家族が国の資産へのアクセスから利益を得ている様子が明らかになる。スターハイは政府がマイテルに持つ儲かる株式を与えられていたが、残虐で違法なクーデターが起きる前は議会の監視を免れていた。キンティリテッモンのマイテルとスターハイとの取引は、国軍の財閥全体に見られる利益相反の明らかな例である。
クーデター以降、国軍は49人の子どもを含む700人以上を故意に襲い、殺している。最年少の犠牲者は7歳の少女で、殺される直前には自宅に押し入ってきた警官が父親と兄を殴るのを見て怖がっていた。国軍は殺すことだけを目的に殺傷力の高い武器を使っており、これは人道に対する罪に相当する。最近ではカレン民族やカチン民族の人びとに対して無差別の空爆を行なっている。これは数十年前からミャンマー国軍が民族集団に対して継続的に犯してきた戦争犯罪や人道に対する罪の一環である。クーデターから利益を得ようとしているミンアウンフラインと軍体制の幹部に対する責任追及と、これらの犯罪を犯した者の訴追が行なわれるべきである。
キンティリテッモンをはじめとする国軍最高幹部の子どもたちは長らく、ミャンマーの人びとを犠牲にして、ミャンマー国軍の体系的な腐敗から利益を得てきた。国軍が権力を保持している限りこの腐敗は続くだろう。ミンアウンフラインの家族は汚職について取り調べを受けるべきであり、盗まれた資産はすべてミャンマーの人びとに返還されるべきである。国軍財閥は解体されなければならない。
原文
Dirty Secrets #3: Min Aung Hlaing’s Daughter in Secret Deal with Mytel
https://www.justiceformyanmar.org/stories/dirty-secrets-3-min-aung-hlaings-daughter-in-secret-deal-with-mytel
マイテルについてもっと詳しい情報はジャスティス・フォー・ミャンマーによる報告書を参照:
Nodes of Corruption, Lines of Abuse(2020年12月20日)
https://www.justiceformyanmar.org/stories/nodes-of-corruption-lines-of-abuse-how-mytel-viettel-and-a-global-network-of-businesses-support-the-international-crimes-of-the-myanmar-military
(文責:メコン・ウォッチ)