ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ミャンマー >心からの深い悲しみを込めて(作家マ・ティダーの呼びかけ)
メコン河開発メールニュース2021年8月6日
今日は広島に原爆が投下されてから76年という節目の日です。世界が平和になるまでの遠い道のりを思うと気が遠くなるものの、世界で多くの人たちが核兵器廃絶に取り組んでいることが希望です。この日にちなみ、研究者のご協力で翻訳した、ミャンマーの医師で作家のマ・ティダーさんの国際社会に向けた言葉をお届けします。みなさまが、それぞれの場で少しずつでも彼女の訴えに応えていただけることを願っております。
彼女は、軍事政権下で民主化運動に関わったことで、病に苦しみながら6年近くも獄中生活を送り、生還した方です。2017年に来日した際のこちらの講演録に詳しいご経歴などがあります。
「良心の囚人—独房から心を解き放つ—」(国際交流基金アジアセンターのページ)
https://jfac.jp/culture/features/f-ah-ma-thida/
以下の言葉は、8月2日に開催した、【#ミャンマー国軍の資金源を断て】クーデターから半年。ミャンマー追悼と希望の集い〜自由と未来と民主主義のために!でも読み上げられています。
ライブ映像の録画(Facebook):
https://www.facebook.com/events/856872165226092/
***
心からの深い悲しみを込めて、次の言葉を書きます。どうか私たちの声を聞いてください。
ミャンマーの人々は、国軍の圧制と攻撃、そして新型コロナウィルスの感染爆発という二重の苦難に挟まれて、身動きできない状態にあります。現在、生命、生活、生計手段だけでなく、人間的信頼までをも失うという危険にさらされています。クーデターの初期から今日に至るまで、断固とした決意を持って、全国各地で日常的に行われている数多くの抗議と不服従運動を通じて、人々は国軍に「私たちの意志なしに統治させはしない」と抵抗の声をあげてきました。
しかし今、新型コロナウィルスの感染爆発第3波が国を深刻に襲っており、民間人の酸素へのアクセスが強制的に制限され、一部の地域のドラッグストアが閉鎖を余儀なくされることに直面しています。第1波、第2波の感染爆発の時に、コロナの犠牲者と家族を助けるために奔走したボランティアたちは、今日、軍隊によって逮捕されるに至っており、国民はどんな援助、救助も受けられないと感じるようになっています。この状況下で、人々は「私たちには私たちがいる、あきらめないで」と言って互いに励まし合っています。
しかしこの言葉は、国民の精神に、次第にゆっくりではあるが、深刻な変化が起きていることを示しています。 人口5400万人のミャンマーの人々は、「大きな機関からの援助」に対する信頼を失いました。 まず最初に、彼らは国連の安全保障理事会の決定を待ち望みました。次にASEANの介入が起こることを。そして国際社会からのいずれかの方法による実行可能な支援を待っていました。 それらの世界の機関から連続して無視された後、人々は「私たちには私たちがいる」と言い始めたのです。 もちろん、これらの言葉は互いに励まし合うために非常に必要ですが、同時に「あらゆる機関からの支援」への信頼をどれだけ失ったかも反映しています。
実際、ミャンマーの軍隊は、国家レベルを代表する機関として一度たりとも存在したことはありませんでした。 それはいつも非道を極めたテロリストの一集団のようでした。それゆえ、この機関はミャンマーの人々の信頼をすでに失っています。 機関としての軍隊に対するこの信頼の喪失は、今日、地の底に落ちました。 軍隊は今や沈没間際の船のようです。 その機関全体を救助することはもはや不可能です。私たちが救えるのはその機関に所属する、個々の人々であることがやっとです。そのため、一部の将校や下士官が市民的不服従運動に参加するようになっています。 彼らは沈没間際の船から飛び降りて丘に上がった人に似ています。 国の機関への信頼を失うことは、大きな悪影響を残します。その機関自体に対しても、その機関による統治能力に対しても、またその中にいる一人一人の職員に対しても。ひとたび信頼が失われると、回復するのに何年もかかります。 それは誰にとっても良いことではありません。
同様に、ミャンマーの人々は国連やASEANのような機関への信頼を失い始めています。ここでも、彼らは「私たちには私たちしかいない」と言っています。これは私には本当に懸念すべき声に聞こえます。膨大な数の人口がいずれかの機関への信頼を失った場合、それは多くの悪い帰結をもたらすでしょう。かなりの長期間マイナスの影響が感じられ、回復は大きな課題となるでしょう。
なぜ国際社会は、私たちミャンマーの人々を救うために、効果的な行動をとることができないのですか?この問は私たちの心の中で何度も繰り返されている問です。それは私たちが耐えねばならない他の残虐行為にもまさる苦痛です。最も深刻な傷は、弾丸で作られたものではなく、「信頼の喪失」から来ています。
したがって、 私が恐れているのは、「私たちだけがいる」と言うことで、ミャンマーの人々は地球上の制度を捨てることをいとわないということです。たぶん、国際社会の機関や地域機関、国連やASEANのような機関は、ミャンマー軍のように沈みゆく船ではありません。しかし、私たちの窮状を無視したり、リップサービスで慰めたりすることが続けば、それらも私たちの信頼を完全に失う他ありません。私たち5400万人の民衆は、軍の残虐な圧制のもと、新型コロナウィルス感染爆発の致命的な襲来で息もできず、誰からも見捨てられたと感じています。 国際機関である国連からも見捨てられ、アセアンのような地域内の機関からも放置され、私たちの隣国によっても見放されました。豊かな民主主義国に見捨てられ、強力な非民主主義国に利用され悪用されたと感じています。
私たちは希望を失い、信頼を失っています。 国全体がそうなのです。これほど恐ろしいシナリオがあるでしょうか。
国際社会に切にお願いします。 どうか私たちの声を聞いてください。 私たちは、世界のすべての国がパンデミックにより困難な時代を経験していることを理解しています。 私たちの国の機関の一つである国軍が、テロリストの集団であるために、私たちのことも凶悪だとあなたの目に映っているかもしれません。 しかし、私たちミャンマーの人々は、あなた方の国軍に対する効果的なアクションと介入によって救われるに値する人々です。 どうか聞いてください。 私たちはあなたの助けを切実に必要としています。 すべての機関への信頼を失わずにすむようご協力ください。本当に私たちは多くのことに耐えてきましたが、民主主義への希望を失ったことはなく、私たちの国が、平和で正常な発展途上の国として、また善良で友好的な隣人として、国際社会の尊厳あるメンバーになるという可能性を失ったことはありません。 今、私たちを国際社会、地域の機関という船から放り出さないでください。 地球上には、人道的な機関があると信じ続けさせてください。 どうか、今すぐできる限りの方法で、ミャンマーの人々を救ってください。
Ma Thida (Sanchaung) [マ・ティダー(サンジャウン)]2021/7/15
(英文・緬文より和訳 原田正美氏 文責:メコン・ウォッチ)