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メコン河開発メールニュース2022年10月24日
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2022年9月21日、ミャンマーに関する事実調査団(以下、「調査団」)が2019年の報告書(”The economic interests of the Myanmar military”)で出した勧告の遵守状況などについて調査・確認した新たな報告書を発表しました。
2019年の報告書と今回のOHCHRの主な内容は以下の通りです。
■背景:ミャンマーに関する事実調査団による報告書
“Economic interests of the Myanmar military”(2019年8月5日)
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/MyanmarFFM/Pages/EconomicInterestsMyanmarMilitary.aspx
2019年の報告書で調査団は、ミャンマー国軍が国内外の商取引から得る収入が、同軍が深刻な人権侵害を行う能力を高めており、国軍が所有するミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)やミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)などが外国企業との取引を利用して少数民族に対する残虐な軍事作戦を支えている実態を詳しく明らかにしました。 調査団は国軍を経済的に孤立させる必要があるとし、国際社会には国軍高官や国軍所有企業に対する制裁のほか、武器禁輸、人権デューデリジェンスなどを実施するよう勧告しました。調査団また、特に重要な勧告として、ミャンマー企業との取引やミャンマー企業への投資をしている外国の企業は、国軍または国軍が所有、支配する企業といかなる形の取引関係を持つべきではない、と述べました。 報告書の付録には、ミャンマー国軍とその活動に貢献する、またはそれらから利益を得ている国軍関係の企業やミャンマー国内外の企業の一覧があり、キリンホールディングスなど複数の日本の企業も掲載されています。 この報告書については、メコン・ウォッチでも2021年2月24日に以下の記事で紹介しています。
クーデター前、2019年に国連が国軍の経済的利益について報告書
(メコン河開発メールニュース2021年2月24日)
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20210224_01.html
■国連人権高等弁務官事務所の報告書 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による報告書(2022年9月21日)
"Progress made and remaining challenges with regard to the recommendations of the independent international fact-finding mission on Myanmar"(このページのA/HRC/51/41)
今回発表されたOHCHRの報告書は、調査団の報告書発表以降、調査団の勧告に関して遂げられた前進や、いまだに残る課題を明らかにするもので、国連人権理事会の要請により作成されました。
報告書は、調査団による勧告内容の実施については大きな課題が残ると述べています。特にクーデター以降の国家統治評議会(SAC)の政策により、レントシーキング活動や汚職の増加、貿易や投資の認可の支配、恣意的な規制などが引き起こされる危険を指摘しています。
国軍または国軍系企業との関係を持つべきではないとの調査団の勧告に関しては、調査団の報告書の発表後、数社の企業が撤退または国軍系企業等との関係を見直すと表明したものの、大多数は何も行動を取らなかったと述べています。しかし報告書によれば、2021年2月のクーデター後は、市民社会団体によるボイコットの呼びかけがあったこともあり、複数の企業が事業からの撤退や国軍系企業への支払い停止などの措置を講じました。国軍系企業との関係解消が容易ではないことを示す例として、キリンホールディングスがミャンマーでの事業を売却するまでの経緯が詳述されています。
ミャンマーの最大の外貨収入源であり、SACへの支払いを停止するべきだとの市民社会からの運動の標的となってきた石油ガス分野では、イェタグン・ガス事業が大きく取り上げられています。OHCHRは、ペトロナス、PTTEP、JXミャンマー石油開発が同事業から撤退する意向を表明したものの、ガス生産の終了後に廃坑がどのように行われるかは不明であることを指摘し、事業から利益を得た諸企業に対して市民社会団体が責任ある撤退を求めていることにも言及しています。
OHCHRの報告書は、国軍によるミャンマーの人びとに対する攻撃を止め、国際犯罪についての責任を追及するためには、国軍を経済的に孤立させるためにいっそうの行動が必要であると結論づけています。各国政府への勧告には、ミャンマー石油ガス公社(MOGE)など国軍に外貨収入を与えうる事業体に対象限定制裁を科すこと、市民社会団体との協議のうえでSACの収入を減らすための行動を検討することなどが挙げられています。またミャンマーへの投資やミャンマーとの貿易、またミャンマーでの事業を行っている企業に対しては、国軍や、子会社を含めて国軍が所有・支配する事業体とのいっさいの取引関係を持たず、継続もしないためにデューデリジェンスを行うべきだと勧告しています。
参考
メコン・ウォッチ イェタグン・ガス田開発についてのページ
http://www.mekongwatch.org/report/burma/gas.html
(文責 メコン・ウォッチ)