ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ミャンマー >官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第5回)
メコン河開発メールニュース2025年4月9日
メコン・ウォッチは、国土交通大臣がメコン・ウォッチに対し、令和5年(2023年)8月8日付でした行政文書一部開示決定(国総海推第73号)のうち、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)のミャンマー事業(Yコンプレックス事業)における環境社会配慮に関する部分の不開示取り消しを求め、2025年2月20日、東京地方裁判所に国土交通省を提訴しました。提訴に至る経緯をご説明するため、メコン・ウォッチがJOINに関し国土交通省に対して行った働きかけや、情報公開請求とその結果について、全5回のシリーズでお伝えしています。
<前回>官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第4回)
前回お伝えしたとおり、環境社会配慮の情報は、「本来公表されることのない法人の内部情報」や「公にすることにより法人の正当な利益が害される恐れがある」ものとは考えられません。「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるもの」とも言えません。既に、多くの国が環境アセスメントに関する法をもち、市民に対して情報開示をおこなっています。メコン・ウォッチは不服申し立てを行いましたが、審査で認められなかったことから、提訴に至っています。
最後に、JOINの検証を行った有識者会議についてまとめます。
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不十分な国土交通省の検証
海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)は、海外の交通や都市開発等のインフラ事業を行う日本企業の海外市場への参入促進、日本経済の持続的な成長への寄与を目的に、2014年に設立されたインフラファンドです。メコン・ウォッチでは、JOINがミャンマーで軍の土地で進められているヤンゴン市内都市開発(通称Yコンプレックス)という複合不動産事業に出資・債務保証していることを、ミャンマー軍を利する事業として問題視してきました(※10)。
2024年6月末、JOINは2024年3月期決算で約799億円の損失を計上したことを、資料をホームページに掲載する形で公表しました。所管する国土交通省は有識者委員会を設置、委員会が、損失を出した経緯の検証と経営改善策等を検討すると発表しました(※11)。
メコン・ウォッチはこれを受け、国際環境NGO FoE Japanと共に以下の声明を発出し、Yコンプレックスからの出資引き上げ、有識者会議の議論の公開などが必要であると指摘しました。
メコン・ウォッチ, FoE Japan.【声明】ミャンマーで軍を利する問題事業に出資する官民ファンド、損失を公表~問われる監督官庁の国土交通省の人権擁護の責任(2024.6.28)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20240628.pdf
また、「海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の役割、在り方、経営改善策等に関する有識者委員会」が設置された後、以下の要請書を5団体で発出し、国土交通省と有識者会議に、JOINの情報公開と人権配慮に関する制度整備を求めています。
メコン・ウォッチ他.【要請書】 株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)に関する 情報公開と人権配慮に関する制度整備を求めます (2024.8.22)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20240822.pdf
この有識者会議では、ミャンマーの事業に関しての検証も行われました。
海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の役割、在り方、経営改善策等に関する有識者委員会.(第3回 令和6年10月3日(木))資料6
https://www.mlit.go.jp/kokusai/content/001766358.pdf
公表された損失にはミャンマーの3都市開発事業、総額179億円が含まれました(※12)。うち、約109億円がYコンプレックスのものです。しかし、ミャンマーの事業については「現地情勢が回復すれば、JOINとしては、共同出資者たる日本企業とともに、状況を見ながら事業の実現や事業価値の向上に取り組む」とし、Yコンプレックスがミャンマー軍を利するという指摘に対し、何ら振り返りをしていない記載となっています。
これを受けて、以下の声明を7団体共同で発出しました。この声明では、改めてJOINがミャンマーで軍を利する事業を通し人権侵害に関係していること、責任ある撤退をすることなどを訴えました。
メコン・ウォッチ他.【声明】海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)のミャンマー軍を利するYコンプレックス事業での損失が109億円に上ることが明らかに-JOINは、ミャンマーの問題事業から責任ある撤退をすべき (2024.11.28)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20241128.pdf
残念なことに、有識者委員会の最終報告書は、人権問題には全く触れていません。
海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の役割、在り方、経営改善策等に関する有識者委員会. 最終報告(2024年12月)
https://www.mlit.go.jp/kokusai/content/001851231.pdf
JOINは存続が決まりましたが、ミャンマーで人権侵害に加担する事業への出資が続いていること、事業の情報開示体制が不備であることなどの課題を抱えたままです。JOINのあり方に多くの方が関心を持たない限り、改善はなされないでしょう。国土交通省に対し、様々な方がそれぞれの視点から情報開示の請求を行うことや、JOINのあり方につき国会での更なる議論を求めることも必要です。
注
※10 メコン・ウォッチ. 「ヤンゴン市内都市開発(通称Y Complex事業)」
http://www.mekongwatch.org/report/burma/ycomplex.html
※11 朝日新聞.「官民ファンド、955億円損失 海外インフラ支援 投資失敗続く 民間出資は2%のみ」(2024/6/26)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15967313.html
※12 JOIN. 「補足資料:2023年度決算について」.
https://www.join-future.co.jp/about/financial-statements/pdf/about-the-settlement_2023.pdf
第1-4回
官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第1回)
官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第2回)
官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第3回)
官民ファンドJOIN事業の環境社会配慮情報の不開示取り消しを求め、国土交通省を提訴(第4回)
(文責:メコン・ウォッチ)