ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ミャンマー >日本の官民ファンド・企業のメディア事業、撤退に関する情報は不透明なまま
メコン河開発メールニュース2025年8月5日
6月2日付で、メコン・ウォッチを含む国内外7団体(※)は、「ドリーム・ビジョン社出資における貴社のシュエタンルイン・メディア社との提携に関する質問状」を、官民ファンドの株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)、株式会社海外通信・放送・ 郵便事業支援機構(JICT)、NHK子会社の株式会社日本国際放送(JIB)に送付しました。3社は、ミャンマーのドリーム・ビジョン社(DVC)に出資していましたが、同社には、ミャンマーの大手メディア企業シュエタンルイン・メディア社(STLM)とミャンマー・ビジネス・セントラル社が出資しています。STLMは、国連のミャンマーに関する独立調査団の報告書に、ミャンマー軍と密接な関係にあるクローニー(政商)企業であると記載されているシュエタンルイン・グループ(Shwe Than Lwin Group)の子会社です。同グループは、2017 年 8 月にラカイン州北部でロヒンギャ住民に対して始まったミャンマー軍の「掃討作戦」を支援するため、軍の求めに応じて寄付をした企業の一つであると指摘されています。
6月末に3社から回答が届き、同時に発行されたクールジャパン機構とJICTのプレスリリースから、3社が事業からの撤退を完了していたことが明らかになりました。しかし、2021年の未遂クーデター後に人権デューデリジェンスが行われたのか、またドリーム・ビジョンがミャンマー軍のプロパガンダを支えていた可能性を検討したのかについての言及がありませんでした。
詳細はこちらのプレスリリースをご覧ください。
プレスリリース「日本の出資者3社がシュエタンルインとの関係を断つ 日本の官民ファンドとJIBはミャンマー軍のクローニー企業と関係するメディア事業からの撤退に際して透明性を確保し責任を果たすべき」(2025年7月8日)
http://www.mekongwatch.org/PDF/pr_20250708.pdf
そのため7団体は再度、3社に対し、
・人権デュー・ディリジェンスを実施したのか、実施した場合はそれにミャンマー軍によるプロパガンダの制作と普及への直接・間接の協力についての評価が含まれていたのか
・撤退にあたり、DVCに日本側3社が保有する株式をすべて譲渡したのか
・スタジオなどの放送設備は、撤退時にSTLMとミャンマー・ビジネス・セントラル社に譲渡したのか
を7月8日付で質問しました。
7月28日とした期日までに3社からは、以下のような回答が届きました。
クールジャパン機構は、「当機構は、人権問題も考慮要素の一つとして、総合的な判断を行い、22年4月から、ミャンマー側とEXITに向けた本格的な交渉を開始し、23年1月にミャンマー側と合意しました」、「考慮要素としての人権問題や当機構が全株式を譲渡した際のDVCが保有する設備等の詳細については回答を差し控えさせていただきます」と回答し、JICTは「人権も含む自由な放送番組制作に対する様々な影響を考慮し、事業への関与のあり方について関係者間で繰り返し議論を行った上で事業からの撤退を決定しております」、「DVC社への出資を通じてカメラなど放送番組制作に必要な機材については提供しております」と回答しました。またJIBは、2018年の民主化が進んでいたミャンマーでDVCを設立し、コンテンツ提供や番組制作支援を行っていたと説明し「その後、コロナ禍やミャンマー情勢の変化等を受けて、総合的な検討を行い、弊社は2024年12月にすべての株式を譲渡しました」と回答しました。
7月8日付の3社への市民グループからの質問状:
海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)
質問状
海外通信・放送・ 郵便事業支援機構(JICT)
質問状
日本国際放送(JIB)
質問状
7月28日の3社からの回答:
海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)
回答
海外通信・放送・ 郵便事業支援機構(JICT)
回答
日本国際放送(JIB)
回答
これらの回答からは、クーデター後1年以上が経過してから撤退の検討が始まったことが推察されます。また、3社とも最終的にクローニー企業グループの一部であるSTLMを利する形で撤退したのか明言を避けています。現状、ミャンマー投資委員会の承認案件は公開されず、DVCの現在の資本構成などを知る手段はありません。日本側が提供した機材などは、STLMに利用されていく可能性があります。
官民ファンドは日本政府の財政投融資特別会計で管理される産業投資の資金から出資金90%以上の提供を受けており、実質的な主要株主は日本国民です。また、JIBの主要な株主は日本放送協会(NHK)で、公共放送のNHKの主な財源は受信料であることから、こちらも公共性が高い企業であり、一般民間企業よりも重い説明責任を日本国民と国際社会に対して負っているはずです。しかし、7月8日に7団体で発行したプレスリリースで指摘したように、3社が責任ある撤退をしたかは不透明なままです。
また、そもそも官民ファンドがミャンマーのような国に投資を行う際、人権に十分な配慮をするための仕組みも不十分であると考えられます。メコン・ウォッチでは、クールジャパン機構を所管する経済産業省、JICTを所管する総務省に対し、投資と撤退を決定した際に参照した資料につき、情報開示請求を行っています。経済産業省からは、開示に数ヶ月を要するとの連絡が既にありました。この結果については、またメールニュース等でお知らせいたします。
※ 7団体は、メコン・ウォッチ、アーユス仏教国際協力ネットワーク、アジア太平洋資料センター(PARC)、国際環境NGO FoE Japan、ジャスティス・フォー・ミャンマー、日本国際ボランティアセンター(JVC)、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)
(文責:メコン・ウォッチ)