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【要請】メコン河下流本流ダム計画への日本政府の対応に関する要請

  >> メコン河下流本流ダム計画への日本政府の対応に関する要請(PDF)


2011年12月1日

外務大臣 玄葉光一郎殿

≪メコン河下流本流ダム計画への日本政府の対応に関する要請≫

私たちは、メコン河下流本流ダム計画がメコン河流域に住む何千万人もの人びと、とりわけ貧困層の生活を直撃し、流域の食糧および人間の安全保障を脅かし、さらには流域国の不安定化や国家間紛争の原因になりかねないことを深く懸念しています。こうした懸念から、メコン河委員会(MRC)の開発パートナーである日本政府/外務省に対して、下流本流ダム、特にサイヤブリダム計画の延期を働きかけていただきたく、この要請書を提出いたします。

1. 背景
現在、中国雲南省、ビルマ(ミャンマー)、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの六カ国を流れるメコン河では、本流下流域の11地点に水力発電所を建設する計画が進行中です[脚注1]。もっとも具体化したラオス国内のサイヤブリダムでは、昨年9月22日、すでにラオス政府が他の下流三カ国政府(タイ、カンボジア、ベトナム)とで構成するメコン河委員会(MRC)に対して計画を通知しました[脚注2]。これは1995年にMRC加盟四カ国が署名したメコン協定の「通知・事前協議・合意手続き(PNPCA)」にのっとった手順で、これによりサイヤブリダム計画はMRCの場で協議されることになりました。
ラオス政府の通知に対して、タイ、カンボジア、ベトナム政府はサイヤブリダム計画がもたらす甚大な影響や、情報・調査の不足に対する懸念を表明し、特にベトナム政府はMRCが委託した戦略的影響評価(SEA)の提言に基づき[脚注3]、下流本流ダム計画全体の延期を主張しました[脚注4]。このため、今年4月19日のMRC合同委員会はサイヤブリダム計画に関する判断を避け、決定を閣僚会合に委ねることとしました。12月7日からカンボジアで開催されるMRC評議会で判断が下されるものと思われます。
MRCの開発パートナーのうち米国政府は、昨年10月および今年7月、ヒラリー・クリントン国務長官が下流本流ダム計画延期への支持を表明し[脚注5]、一昨日11月29日にも上院外交委員会が計画延期の決議を採択しました[脚注6]。また、世界銀行もSEA公開直後に下流本流ダム計画を延期する提言に賛同する声明を発し[脚注7]、さらには、スウェーデン・フィンランド両政府がラオス政府に対して流域国への配慮を含めた慎重な対応を求めているとの報道もあります[脚注8]。一方、流域・世界各国の市民からもさまざまな形で下流本流/サイヤブリダム計画に対して反対や懸念の声があがっています[脚注9]。
2. 下流本流ダム計画の問題点
私たちがメコン河下流本流ダム計画に反対する主な理由は、以下の通りです。
1) 下流本流ダム全般にかかわる問題[脚注10]
a) 魚類への打撃による流域住民の生活の破壊:メコン河流域では世界最大規模の内水面漁業が行われ、6,000万人以上と云われる下流域住民の多くは漁業・農業・観光業を通して食物や生計を確保しているが、本流ダムは魚類の回遊・産卵・生息を妨げ、最大で42%を壊滅させる恐れがある。
b) トンレサップ湖とデルタ地帯への影響:本流ダムは流送土砂を50%以上も減少させ、リンや窒素などの栄養素の拡散を妨げ、カンボジア・トンレサップ湖とベトナム・デルタ地帯の内水漁業や農業の生産性を阻害する。また、土砂堆積の減少によって、すでに気候変動の影響が懸念されるデルタ地帯の浸食を加速させる。
c) 河岸農業への打撃:水没で失われる農業生産量は年間500万ドル以上、河岸農業の損失も年間2,100万ドル以上にのぼると云われる。また、栄養分がせき止められて肥料の使用量が増えることで、年間2,400万ドルの余分な支出が発生する。一方で、ダムによる灌漑整備がもたらす利益は年間1,500万ドル程度でしかない。
d) 効果のない緩和策:魚道をはじめ本流ダムが漁業に及ぼす影響を緩和できる技術は存在せず、貯水池養殖も原状の10分の1程度の収量を達成するに過ぎない。
e) 投資効果がマイナスの可能性:米国政府の委託で実施された投資効果の感度分析(benefit-cost sensitivity analysis)によると、本流ダムがもたらす投資効果が膨大なマイナス(最大で-2,740億ドル)に達する可能性がある[脚注11]。
f) 生物多様性への打撃:ダム建設は40種もの魚類を絶滅に追い込む可能性があるが、その中には世界10大淡水生物として名高い絶滅危惧種のメコン大ナマズやイラワジイルカが含まれる。

2) サイヤブリダム単体にかかわる問題
a) 過剰なタイの電力需要予測:サイヤブリダムの電力を輸入するタイでは、電力需要が大幅に過剰予測されている。現実的な需要予測を基に、需要管理、熱電併給(co-generation)、再生可能エネルギーを充実させれば、将来的な電力需要にも十分に対応が可能である[脚注12]。
b) 大規模な住民移転:ラオス国内だけで2,000人以上の住民が移転を迫られる。住民はすでにわずかな補償金で立退きを強制されているとの現地取材報道がある[脚注13]。
c) 追加調査の問題点:今年4月のMRC合同委員会での判断延期後にラオス政府が委託した追加調査は、ラオス政府によるPNPCAの一方的打切りを正当化し、1995年のメコン協定に反している。一方で、サイヤブリダムが国境を越えてもたらす環境社会影響は未調査のままである。
d) 不十分な情報公開:本流ダム計画の10年間延期を提言したSEAが公開されたのはサイヤブリダム計画をめぐるPNPCAが始まった後であり、SEAの知見が十分に活かされていない。流域住民との「公聴会」が開催された時点でサイヤブリダムの実行可能性調査、環境・社会影響評価は公開されていなかった。上記のラオス政府の委託追加調査も未公開のままである。

3. 要請
日本政府はこれまでMRCの開発パートナーとして諸会合に出席し、開発パートナー声明にも署名しています。私たちは、日本政府/外務省に対して、MRC加盟国および開発パートナーからも懸念の声があがっている事実を十分に考慮した上で、12月7日から開催されるMRCの諸会合の場で、開発パートナー声明を含むあらゆる機会を活用し、サイヤブリダムをはじめとするメコン河下流本流ダム計画を延期するよう関係各国/機関に働きかけていただきたく、ここに要請いたします。

 

【脚注】
1. 下流本流ダム計画

2.サイヤブリダム計画

3.SEA

4.各国政府の見解(2011年4月):
  カンボジア:http://www.mrcmekong.org/assets/Consultations/2010-Xayaburi/Cambodia-Reply-Form.pdf
タイ:http://www.mrcmekong.org/assets/Consultations/2010-Xayaburi/Thailand-Reply-Form.pdf
ベトナム:http://www.mrcmekong.org/assets/Consultations/2010-Xayaburi/Viet-Nam-Reply-Form.pdf

5.ベトナム外務大臣との共同会見でのクリントン国務長官の発言(2010年10月30日)
http://blogs.state.gov/index.php/site/entry/travel_diary_secretary_remarks_vietnamese_foreign_minister 

米国-下流メコン大臣会合でのクリントン国務長官の発言(2011年7月22日)
http://www.state.gov/secretary/rm/2011/07/168948.htm

6 米国上院外交委決議(2011年11月29日)http://webb.senate.gov/newsroom/pressreleases/2011-11-29-03.cfm?renderforprint=1
7 世界銀行の声明(2010年10月22日)http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/COUNTRIES/EASTASIAPACIFICEXT/CAMBODIAEXTN/0,,contentMDK:22740418~menuPK:293875~pagePK:2865066~piPK:2865079~theSitePK:293856,00.html

8 Sweden and Finland oppose new dam at the Mekong River(ScandAsia.com、2011年9月21日)http://www.scandasia.com/viewNews.php?coun_code=fi&news_id=9499

9 セーブザメコン・キャンペーン http://www.savethemekong.org/

10 e)以外はSEAによる。
11 Executive Summary of Planning Approaches for Water Resources Development in the Lower Mekong Basin (Institute for Sustainable Solutions、2011年7月)
http://web.pdx.edu/~kub/publicfiles/Mekong/LMB_Report_ExecutiveSummary.pdf

12 ナムトゥン2ダムは必要か?〜タイのエネルギー政策から問う(ウィトゥーン・パームポンサチャロン、『フォーラムMekong』、2011年3月)。例えば、2009年のタイの電力設備容量28,479MWに対するピーク時需要は22,044MWで、約6,500MWの供給過多だった。これはサイヤブリダム(1,260MW)5基分以上の電力に匹敵する。

13 Xayaburi dam work begins on sly(Bangkok Post、2011年4月17日)
http://www.bangkokpost.com/news/local/232239/xayaburi-dam-work-begins-on-sly

 

本件に対する連絡先

メコン・ウォッチ(担当:土井利幸)
電話:03-3832-5034 ファクス:03-3832-5039

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