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メコン河開発メールニュース 2005年5月30日
メコン河とチベット高原を源流としている大河に長江とサルウィン川(中国語名は怒江)があります。サルウィン川は中国・雲南省からビルマ・タイ国境を流れ、アンダマン海に注ぐ国際河川です。この怒江の上流・中国部分に連続ダムを建設する計画があります。 以前のメールニュースでお伝えしましたように、中国の市民社会の力で一時は中断に追い込みましたが、ここに来て規模を縮小した上で推進する方向に舵がとられたようです。 以下、メコン・ウォッチの大澤香織による解説と中国の経済紙のニュースの翻訳です。なお、脚注の原文は香港のNGOスタッフの李育成氏によるものです。
怒江(サルウィン河上流)の連続ダム開発については昨年2月、中国の温首相により計画の暫定停止と見直しが命じられました。しかし水力発電開発は必要、との中国政府の基本姿勢は変わらず、怒江ダム推進派もこれまで計画再開に向けて様々な動きを見せています。以下の記事のタイトルは計画見直しを評価するものですが、そのことはまた同時に、怒江ダムが計画見直しの結果スケールダウンをして再開される可能性を示唆しています。
2005年4月23日 経済観察報
4月21日午前、長江流域水資源保護局[注1]局長の翁利達(ウェン・リダ)氏は、雲南省の大理へ向かっていた。午後には水利部副部長の索麗生(スオ・リシェン)氏が何名かの職員と共に怒江の視察を行った。翁(ウェン)氏によれば、今回の視察の後おそらく6月までに、水利部は発展改革委員会と国務院に対し報告書を提出する。
この視察の4日前、第一回「長江論壇」の閉幕に近づいた際、水利部部長の汪恕城(ワン・シュチェン)氏は会場の外で、ノルウェー大使館環境参事官に向かって言った。「どうして一日半もかかる会議に我々全員が参加しなければならないかって?これは今後、盲目的な水力発電プロジェクトは抑制していく、という彼らへのシグナルなのだ!」
「長江論壇」は水利部の下部組織である長江水利委員会(以下、「長江委」)が主催している。今回、会場には雲南、四川等を含む全ての水力発電開発プロジェクト重点地区の指導者たちが集まっていた。
会議の席上、最後の発言者となった長江委エンジニア長の馬健華(マ・チエンホ ワ)は長江の問題については特に何も発言せず、かわりに「保護と開発の関係を
めぐる適切な対処について・怒江流域水力エネルギー資源の合理的開発」をタイ トルに発言した。なぜ彼は「長江論壇」上で怒江の問題を話したのか?馬(マ)
氏は、長江委も怒江開発の主管部門であるし、自らの見解がある、と語った。
怒江の問題について、水利部はもはや開発は行わない、とまでは言わないが、「二庫十三級[注2]」というこれまでの開発計画についてもそのまま認めることはない。また「保護における開発、開発における保護」という原則を打ち出した。
一部河川は開発すべきではない
二庫十三級の開発計画は2003年8月に提出された。しかし、環境保護、移転住民 への懸念から、大きな論争にはまり込み、計画は未だ実施に至っていない。
馬(マ)氏は発言の中で、水力発電専門計画により制定された当計画は、連続ダムの繋がりを重視し、負の影響が出ないように調整と改善を進めなければならない、と指摘した。
「おそらく最終的には目玉となる2つのダムも最終的には1つに減るであろうし、 13級など絶対に無理だ」と翁(ウェン)氏は言う。
長江委の提案によれば、いくつかの発電所開発計画は計画を見直し、中流の開発 においては魚類保護を考慮し、あわせて怒江の中で最も代表的な河川の一部を選
び、開発の延期か中止について考慮しなければならない、としている。
光坡(クアンポー)ダム(※訳者注:怒江最下流に計画されているダム)など各連続ダムについては、小黒山(シャオヘイシャン)自然保護区に影響を与え、野生の稲が分布する区域を水没させる恐れがあり、開発は延期か中止とされるべきだ。
六庫(リウク)発電所が先行
長江委の意見では、現地の電力需要を満たすために怒江流域総合計画が承認される前であっても、六庫(リウク)発電所はできるだけ早急に建設が始められるべき、とのことだ。彼らは六庫(リウク)発電所を通じ、怒江水力発電開発の住民移転や生態環境保護などについて経験を蓄積できる、という。
六庫(リウク)発電所は"怒江一期四級開発方案[注3]"に含まれる発電所のひと つだ。翁利達(ウェン・リダ)氏は、環境保護総局はすでに一期四級開発方案の
環境影響評価と評価の審査に関わっている、と言う。現在までのところ、この方 案はまだ環境影響評価を通過していない。怒江上のすべての水力発電開発プロジェ
クトは今に至るまで一つも環境影響評価(EIA)を経ていない。 しかし、一旦、環境影響評価(EIA)を通過しさえすれば、六庫(リウク)は
怒江で最初に工事が始められる発電所となる可能性が高い。 「六庫(リウク)発電所は主に2つの問題を解決しなければならない。1つは魚
のための施設、魚道を作ること;2つ目は、怒江周辺の土地への負荷が大きくな り過ぎることが予想されるため、住民移転をセットバック方式にしないことだ。
移転する住民は必ずダム区の外に移り出なければならない。六庫(リウク)の移 転住民数は非常に少なく、最も多く見積もってせいぜい1000人程度[注4]だ」、
翁利達(ウェン・リダ)氏は言う。
先に歩き出す
怒江開発計画に関する様々な意見の中で、これらの意見は何も目新しいものではないだろう。昨年10月、怒江開発を行っている中国華電(ホワデン)グループ副総理の程念高(チェン・ニェンガォ)氏は、国家環境保護局の求めに従い、怒江計画を調整した後、13の発電計画は、おそらく丙中洛(ビンジョンルオ)と光坡(クアンポー)の2つを白紙とし、同時にいくつかのダムについて高さの調整を行う、とした。
しかし水利部が怒江開発について行った提案は、一見、比較的中庸なようで、実 は巧妙に隠された意図があった。「まず彼らは六庫(リウク)発電所の建設を始
めるだろう。その間、われわれは少なくとも彼らの開発のペースを遅らすために、 更なる研究と計画を行う時間が得られる!」、汪(ワン)氏は「長江論壇」中で 語った。
中国のエネルギー不足という文脈をみれば、水力発電開発が絶対に必要である。「この問題を考えるに当たって中国の国情を離れて考えることは出来ない」、翁(ウェン)氏は言う。
中国政府の出してきたエネルギー源についての話は確かに難問だ。しかし世界自然基金(WWF)などの環境保護組織は依然として怒江開発を進めることに疑問を投げかけている。
「われわれは急がなくてもよいのか?DMS(電力の需要サイド管理)は必要では ないのか?現在、既にこれほど多くの水力発電所を開発していながら、これらの
多くはさらに多くのエネルギー、さらに多くの電力を消費する方向に向かってい る。果たしてこれが我国の産業開発の方向なのだろうか?」、世界自然基金
(WWF)中国「淡水と海洋プロジェクト」の担当者、李利峰(リ・リフォン)氏 は疑問を投げかけた[注5]。
また李利峰(リ・リフォン)氏は、怒江水力発電開発が始まってても、運輸コス トが高くつくことが予想され、誰がそんな高い電力を買うのか、と質問した。こ れに対して翁利達(ウェン・リダ)氏は怒江開発の中の一部分は国外に売られる、 と答えた。
[1] 長江流域水資源保護局は、長江水利委員会とならび水利局と環境保護局にま たがった部門である。
[2] 二庫十三級ののダム計画とは、2つの目玉となるダム;松塔(ソンタ)と馬吉(マチ)を含む13のダム計画;松塔(ソンタ)、丙中洛(ビンジョンルオ)、馬吉(マチ)、鹿馬登(ルマダン)、福貢(フコン)、碧江(ビジャン)亜碧羅(ヤビルルオ)、濾水(ルシュイ)および六庫(リウク)、石頭寨(シトウジャイ)、賽格(サイガ)、岩桑樹(ヤンサンシュ)および光坡(グアンポ)を指している。
[3] 2004年12月に発行された今後の見通しに関する雑誌記事では、馬吉(マチ)、 亜碧羅(ヤビルオ)、六庫(リウク)と、賽格(サイガ) が四つの連続ダムと なる予定。しかし、最近の岩桑樹(ヤンサンシュ)での仕事は事態を複雑にして いる。 中国語の情報は以下: http://www.hwcc.com.cn/newsdisplay/newsdisplay.asp?Id=117973
[4] Dore and Yu によれば六庫ダムではわずか411人が移転するに過ぎない。詳細については: Dore, J and Yu Xiaogang (2004) Yunnan Hydropower Expansion: Update on China's energy industry reforms and the Nu, Lancang and Jinsha hydropower dams (PDFファイル)
[5] 世界自然基金中国(WWF-China)はフォーラムのサポーターのうちのひとつ