ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ビルマ > サルウィン川ダム開発 >一転して見直しか
メコン河開発メールニュース 2006年11月11日
軍事クーデターが起きたタイで暫定政権が発足して1ヶ月あまりが過ぎました。最近のニュースでは、タクシン政権時代の事業の見直しが報じられています。
その1つ、ビルマとタイが共同して進めているサルウィン川ダム開発について、メコン・ウォッチの秋元由紀の解説と翻訳ニュースです。
なお、サルウィン川のダム問題については サルウィン川ダム開発 を参照下さい。
2006年9月21日付のメールニュースでは、タイ発電公社(EGAT)関係者が「ビルマへの内政干渉を避けるため、(開発地点の一つ)ハッジーダムの環境・社会影響調査は行われないだろう」と述べたことをお伝えしました。
その後、タイではクーデターがあり、10月9日に暫定政権が発足。様々な面でタクシン前政権の問題を指摘し、政策や事業の見直しを進めようとしている暫定政権ですが、タクシン政権が始めた海外でのエネルギー開発事業の必要性についても調査をしなおすよう指示があったようです。
文中にも登場するピヤサワット・エネルギー大臣が最近、サルウィン川ダム開発を見直す発言をしたとの報道が数件ありました。発言の真偽や詳細は不明ですが、クーデターによる政権交代を契機として同川ダム開発の是非を再評価したり、本論説が述べるように適切な社会・環境影響調査を行ったりすることを求める声が出ています。
バンコク・ポスト(社説)
2006年10月15日
タイのスラユット暫定首相は新閣僚全員に対し、タクシン前政権が始めた事業を調べた上でそれらの事業を続行するかどうかを決めるよう指示した。事業のひとつに、ビルマ国内を流れるサルウィン川のハッジーでタイ発電公社(EGAT)と中国国営のシノハイドロとが共同で水力発電ダム(1000メガワット)を建設する計画があるが、この事業の見直しを求める大きな声がピヤサワット・エネルギー大臣に寄せられるのは必至と見られる。
クーデターの2週間前には、EGAT関係者が「ビルマへの内政干渉を避けるため、ハッジーダムの環境・社会影響調査は行われないだろう」と述べたことを本紙が報じたばかりだった。
ダムはすべてが悪いわけではなく、化石燃料を使わないという点で水力発電は魅力的であることは認めるべきだ。しかしタイは、ハッジーダム建設が始まる前に念入りに調査をする必要があることも認める必要がある。
興味深いことに、ピヤサワット氏は大臣に就任する前は環境のためのエネルギー財団長だったが、タクシン内閣に対し「近隣国でエネルギー開発を行う際には人権問題も考慮に入れるべきだ」と要請したことが上記の記事でも言及されている。
タクシン政権はビルマ軍政と、サルウィン川の5か所でダムを建設する計画をしていた。ハッジーダムについては2006年2月にEGATとビルマの電力省とが建設する合意を交わしていた。
同川でのダム建設について適切な環境・社会影響調査は行われていない。環境保護家や人権保護団体などは10年以上も前から、メコン地域でダムのない川としては唯一のサルウィン川の生態系がダム建設によって破壊されると主張し、建設に反対する運動をしてきた。
なぜ「ビルマの内政に干渉」して環境・社会影響調査を行うべきか。もっともな理由の一つに、ビルマ軍がカレン民族住民への軍事攻撃を強めた背景にダム建設があるらしい、ということがある[訳注:ダム建設を進めるために、現在は国軍の支配が比較的弱い建設現場周辺で国軍の支配を確立させたいという事情がビルマ軍政にある、ということ]。攻撃の影響で、タイとの国境周辺にはすでに12万人ものカレン人難民が暮らしており、さらに数十万人がビルマ側の水没地域周辺に暮らしている。
もう一つの大きな理由は、今ビルマ軍政とパートナーを組んで事業を行うことが国際社会の目にどう写るかということだ。
プミポン国王は最近、国際社会でクーデター後のタイのイメージアップを図る必要があると述べた。国連、EU、米国はビルマに民主主義を回復しアウンサンスーチー氏を解放するよう強く求めている。
タイ人の中には、現在のビルマとタイとの状況には根本的なちがいがないと考えている人もいる。どちらの国でも民主的に選ばれた政府が転覆されたからだ。
しかし、ビルマでは民主化運動が暴力によって弾圧されたのに対し、タイのクーデターは無血で、民主化団体の多くは新しい暫定政府を強く支持していることを指摘したい。
ビルマ軍政は15年以上も前に掌握した権力を手放す気配をまったく見せていない。タイの国家治安評議会は1年以内に完全な文民政権を回復させると約束している。どうなるかを見極めるには待つしかない。
その間、暫定政府はある事業が行われるのが国内か近隣国かにかかわらず、人権や環境問題を前面に打ち出し、ビルマ軍政とはちがうということを示すことができるし、そう示すべきである。
出典: “Insist on impact assessments,” The Bangkok Post (Editorial), 15 October 2006.