ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > カンボジア立退き問題 > 援助国が立退き停止を求める声明、日本政府は署名せず
メコン河開発メールニュース2009年10月13日
カンボジアで強制立退きが頻発している事態については、9月29日の開発メールニュースでもお伝えしたとおりです。
事態は深刻で、7月16日には、カンボジアを支援する援助国・機関も「都市貧困層への立退きの停止を求める」と題する声明を発表しました(訳注)。声明は、カンボジア政府に対して、「プノンペンをはじめとする国内の土地紛争地域での強制立退きを停止し、紛争解決のための公正で透明な手続きを導入し、包括的な移転政策を策定するよう」呼びかけ、援助国・機関の側に「立退きや移転が適切な法手続きに沿い、被影響住民に公正な補償が提供されるよう、国家政策やガイドラインの確立に向けて協力する準備がある」と述べています。
アメリカ合衆国、オーストラリア、ドイツをはじめとする各国在カンボジア大使館、国連、そして日本政府が多額を出資するアジア開発銀行(ADB)や世界銀行も署名した今回の援助国・機関声明、しかし、なぜか日本大使館の名前が見えません。そればかりか、声明発表から2週間後にあたる7月30日、日本大使館・政府は、大規模な住民移転をともなう(したがってカンボジア政府が住民移転・補償を適切に実施する能力が問われる)国道1号線改修事業第3期無償資金協力の交換公文に調印しました。
昨今の強制立退きの激化については、ADBや世銀にも責任がないわけではなく、両機関ともこれまで、道路改修などインフラ整備への経済支援を優先させ、カンボジアの土地登録・住民移転・紛争解決に必要な制度や政策の整備では、十分な成果をあげてきませんでした。
ADBや世銀が今回の声明に署名したことは評価できます。問題は、両機関がこれまでの経験を教訓化し、今後、声明が指摘する課題にどのように取り組んでいくのか、とりわけ両機関に大きな影響力を持つ日本政府がADBや世銀にどのように働きかけるのか、だと思います。
私たちは、二国間・多国間援助の両方を通して、日本政府が強制立退き問題にどう対応し、その教訓を対カンボジア援助政策にどう反映させてゆくのか、今後も注視していきたいと思います。
以下では、7月16日の支援国・機関声明をメコン・ウォッチの日本語訳で紹介します。
2009年7月16日
開発パートナーは、カンボジア王国政府に対して、土地紛争を解決する公平で透明な手続きが確立され、包括的な移転政策が整備されるまで、プノンペンおよび国内の他の紛争場所での強制立退きを停止するよう呼びかける。
開発パートナーは、土地問題がカンボジアの開発における目下の課題である点を認識し、政府に対して、すべての市民の平等な権利を認めかつ保護する、公平で透明な土地権制度を、都市部も含めて整備するよう促す。開発パートナーは、立退きや移転が適切な法的手続きにのっとり、被影響住民に公正な補償を提供することを確実とする国家政策や手続きの確立に向けて協力する準備がある。
世界銀行をはじめとする多くの開発パートナーは、カンボジアでの土地権の確立を目指して政府と緊密に協力してきた。政府が100万件以上の土地権を発行したことは賞賛に値する。というのも、土地権の発行が成長を助け、貧困を削減する機会を提供するからだ。
しかし、カンボジア都市部の土地価格の急上昇と投機的な土地売買の状況下で、住民は高額物件の開発を可能にするため立退かされる恐れに直面している。これがプノンペンをはじめとして急速に成長するカンボジア都市部で大きな問題となり、都市の紛争地域に住む数多くの貧困層の生計を不安定にし、危機にさらしている。これは、紛争解決や住民移転における国際的なグッドプラクティスを反映せず、カンボジアの現行法にある手続きや制度を効率的に活用していない政策や慣行がもたらした結果である。
国際社会の経験からも、土地権の保障が経済成長や貧困削減を確実にするために重要で、公正で着実に実施される移転手続きが効果的な土地権・登録制度、すべての人々の権利保護にとって鍵となる点がはっきりしている。開発パートナーは、公平かつ公正に土地問題に取り組み、すべての人々の権利が保護・尊重されるよう、カンボジア政府に協力する意思のあることを再度強調する。
署名:オーストラリア大使館、ブルガリア大使館、ドイツ大使館、英国大使館、アメリカ合衆国大使館、デンマーク大使館/デンマーク国際開発援助庁(DANIDA)、スウェーデン国際開発援助庁(SIDA)、アジア開発銀行、欧州委員会代表、国際連合、世界銀行
連絡先:世界銀行Saroeun Bou 電話855 23 21 7301 電子メールsbou@worldbank.org
訳注:原文(英語)は、Development Partners Call for Halt to Evictions of Cambodia’s
Urban Poor.
ADBのHP http://www.adb.org/documents/news/carm/2009/carm200903.aspで閲覧可能
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)