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ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > J-Power発電所>住民と裁判官の長い一日(2)

J-Power発電所>住民と裁判官の長い一日(2)

メコン河開発メールニュース2010年10月7日

日本の電力卸会社大手のJ-Power(電源開発株式会社)はタイで2つのガス火力発電所の建設を計画しています。しかし、住民の強い反対でチャチュンサオ県サメッタイ地区の事業地の移転が決まりました。また、サラブリ県ノンセン地区の発電所は、行政裁判で予定地の土地利用の適正さが争われています。

J-Power発電所についてはこちらご参照ください。

この問題について第5回では4回目に続いて、裁判官の現地視察の模様を伝えるバンコクポスト紙の記事の翻訳をお届けします。裁判官一行は、企業の案内で同じサラブリ県内にあるゲンコイ第2複合火力発電所を見学し、地域住民の間に起きている鋭い対立を目にすることになりました。このゲンコイ発電所には、タイ企業ガルフ・パワー社にJ-Powerが出資している他、旧国際協力銀行がみずほコーポレート銀行、東京三菱銀行などと約7億1300万ドルの協調融資を行っています。

ゲンコイ第2複合火力発電所についてはこちらをご覧ください。

第5回:住民と裁判官の長い一日(2)

発電所論争:ノンセンでコメ農家と発電所推進派の争いがこう着

2010年7月29日
Vasana Chinvarakorn
バンコクポスト紙

<前回からの続き>原告の一人であるThongkham Saengyantは、2年周期で集中的に米作を行うことができれば、5回の収穫のうち、3回分を家族の食料にし、2回分を地主への賃料に充てることができるという。

53歳のThongkhamは言う。「農業を貧困と結びつける意見もありますが、私はそんなふうに考えたことがありません。私は、3人の子供たちが小さいときからコメの作り方をきちんと教えてきました。子供たちは、今でも時間があれば私を手伝いに来てくれます。自分の都合に合わせて、働いたり休んだりできるような職業なのです」。

(ノンドン郡とドンプート郡の一部地区を含む)この地域には物理的・社会的特徴があり、そのために土木・都市計画局の県事務所もこの地域を農業保全地域に指定する価値があると考えたのだろう。裁判官の訪問に先立って行われた公聴会では、県の都市計画担当官Koonsak Ratchaneekornが、指定は、主に農業に適した現存のインフラと住民たちに多い職業を考慮して行われたと説明した。

しかし、5年以上が経過した今でも、そのような考慮は書類上のものでしかない。別の機会に行われた環境ジャーナリストクラブのインタビューでは、同じ担当官が、自分の仕事は草案を作成して県の公聴会で承認を得ることであり、それはもう完了したと主張した。また、問題の核心は、すでにバンコクの法制委員会事務局に移ったとも述べた。バンコクの担当者たちは、山ほどの書類、地図、道路名、固有名詞を扱い、多くの機関と確認を交わしているため、大きな遅れが出ているに違いない。その担当者たちに、いったい誰が早くしろと命令できるだろうか、と同担当官は言う。

同担当官はまた、サラブリはタイに70以上ある県の一つであり、県全体の都市計画が実施された県はまだ一つもないと述べる。(皮肉なことに、都市計画の有効期間は5年間なので、当初の予定どおり2005年に実施が行われていたら、2010年末には期限切れとなっていた。)

Koonsakは、都市計画案が、ノンセンの発電所建設計画が持ち上がる前に作成されたものだと指摘する。その一方で、土地利用を規制する法律がない限り、あらゆる者が平等にあらゆる権利を行使することができると述べる。他の法律と同様、都市計画も遡及しない。

「行政裁判所は、私たちに対し、都市計画案を実施したいかと聞くのです」と言って、Koonsakは少し間を置いた。「あえて言えば、都市計画を行う者であれば、誰だって法制化を望むと思います。私たちは各地域を慎重に見て、その地域が持つ可能性を最大限実現するにはどうすればよいかを考えてきました。私たちがしてきたことすべてに理由があるのです」。

「発電所建設後に都市計画が実施されたら、どう思うかですって?それは、子供に良い子に育ってほしいから周到な準備をしたのに、突然転んで流産するようなものですよ。そういう気持ちになると思います」。

ノンセンの農民たちの懸念は、より明白で差し迫ったものだ。農民たちは、発電所推進派のように数字を処理する能力を持っていないとしても、天然ガス火力発電所が再三言われているほど安全なのかということに関し、多くの疑問や不安を抱いている。

そこから2、3キロ離れたゲンコイ2発電所の会議室では、涼しいほどエアコンがきいていた。しかし、裁判官たちの質問は、午前中と同様に熱気を帯びていた。自らの団体名であるAnurak Withee Kasettakam(農村生活を守る会)をプリントした緑色のTシャツを着た発電所反対派は、ここでは明らかに少数派だった。発電所推進派は大挙して集まっていた。ガルフ・パワー・ジェネレーション社は、2人の裁判官に対し、ノンセンの後にゲンコイ2発電所を訪問するよう事前に申し入れていたのである。同社は、発電所がコミュニティーと共存できるということを示したいと願っており、裁判官たちはその申し入れを受け入れた。

部屋の前方では、ガルフJP社の地域社会に向けた広報を担当するMarut Kaew-ngarmが、ポジティブな統計をすらすらと読み上げ、天然ガス火力発電所は人間の生活に対して何ら危険をもたらすものではないと説明していた。発電所は、たしかに有毒ガスを発生させるし、大量の水も使う。しかし、最先端の技術により、悪影響は一定の範囲内に留まるから安全であると。

次に、同じく発電所推進派であるバンパーの地域副代表Chalee Meechartが立ち上がり、自分はトウモロコシを栽培しているが、発電所の建設前後で生活は変わっていないと証言した。もちろん一部住民から反対の声が多少あがっているが、ガルフJP社は住民の理解を得るために数回のキャンペーン活動を行った。さまざまなコミュニティーの支援を目的とした2、3百万バーツの基金や、発電所が環境に与える影響を定期的に調査する住民の団体も設立された。

これに対し、Chaleeの楽観的な考え方に同意しないゲンコイ住民が、反論を集中砲火のように浴びせた。発電所から700メートルの地点に家をもつPrasit Intachoteは、発電所の建設計画は密室で進められたもので、住民たちの実質的な参加はまったくなかったと述べた。基金については、2,3人のリーダーに利益をもたらしただけで、住民たちの役に立っていないと主張した。しかも、この基金に金を払っているのは、毎月の電気代を支払ってしまっている住民自身ではないか、と疑問を呈した。

より重要な点として、Prasitは、パーサック川からむやみに水を引く工場が多すぎ、そのために懸念すべき影響が出ていることを指摘した。現在起こっている干ばつのせいもあり、農民たちは、水を節約するために乾季の米作をやめるように言われているという。同氏は、当局が発電所側に同様の要求をしたことがあるのか、と訴えた。

Prasitの他にも、近隣の発電所に対する積年の恨みを裁判官に語るという稀な機会に発言しようとする者が2,3名いた。Sawek Sirilappananontは、水、騒音、空気の汚染について、複数の政府機関に何度か苦情を持ち込んだ。Sawekに対する返答の書簡には、その後の調査で会社側が環境に関するいくつかの条件を満たしていないことが判明したため、発電所側に改善を求めたと記されていた。

発電に関する政策と計画は、共通の利害関係をもつ少数の者たちのグループの手中にあり、大部分の人々は蚊帳の外のようである。Sunant Prommayarakは地元の環境保全活動団体のメンバーだが、彼女の団体が会社側に情報を求めると、いつも見下すような態度で応じてくると嘆く。Sunantによれば、ゲンコイ2発電所の操業を監視する「住民委員会」は4つあるが、これは会社側と政府機関が仕組んだ茶番にすぎない。彼女の発言に対し、発電所支持者たちから、あからさまなヤジが浴びせられた。

住民たちがいつまでも発電所について口論を続けるという光景が、将来、ノンセンでも繰り返されるのだろうか。反対派リーダーのひとりであるTee Trairattanamaneeは、すでにそのような分裂が起きており、状況は悪化しているという。彼が率いるグループは、過去2年間、暴行罪から往来妨害罪や騒乱罪まで、少なくとも10件の容疑をかけられた。先週、サラブリ裁判所は、暴行罪で起訴されていた農民3人を無罪としたが、他の事件は未解決に終わるかもしれず、解決するとしてもあと2,3年はかかる見込みである。

午後7時、2人の裁判官はその日の調査を終了した。歩き、話し、意見を聞いた長い一日だった。外では、空が暗くなりつつあった。ただ、巨大な鉄の建築物であるゲンコイ2発電所だけが、夜通し電灯で明るく光っていた。

ノンセン都市計画に関する次の公聴会は、8月3日にバンコクの行政裁判所で開かれる予定である。

(文責 木口由香/メコン・ウォッチ 翻訳 草部志のぶ)

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