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ゲンコイ第2複合火力発電所

ゲンコイ第2複合火力発電所は、タイ・サラブリ県で建設が進められている天然ガスを燃料とする複合火力発電所です。すでに汚染の激しい工業地帯の中に位置しており、周辺住民は環境影響、とりわけ水質汚染を懸念していますが、事業者が十分な情報公開と住民との協議を経ていないにも関わらず、国際協力銀行は2005年11月、800億円以上もの融資を決定しました。

プロジェクト名
ゲンコイ第2複合火力発電所 (Kaeng Khoi Combined Cycle Gas Turbine Power Generation Project)
(国際協力銀行は、「カエンコイU天然ガス焚き複合火力発電事業」と呼称)
所在地
タイ・サラブリ県ゲンコイ(カエンコイ)地区
実施機関
ガルフ・パワー社。同社の100%親会社であるガルフ・エレクトリック社に対しては、電源開発株式会社が49%、三井物産の関連会社Mitsiam社が1%を出資。
三井物産が発電所設備一式を設計・建設・試運転を含むフルターンキー契約で約1000億円で受注。
資金供与
ガルフ・パワー社の資本金の他、国際協力銀行が約7億1300万ドルをみずほコーポレート銀行・東京三菱銀行などと協調融資。
状況
2004年12月に地元の反対を無視し建設開始。事業者は、2007年に1号機、2008年に2号機の運転開始を目指している。

ゲンコイ第2複合火力発電所とは?

ゲンコイ第2複合火力発電所建設現場
建設現場。すでに地ならしは終わっている。(2005年8月)

タイ中部サラブリ県ゲンコイ地区に建設中で、天然ガスを主燃料とする総出力1468メガワットの火力発電所です。天然ガスでタービンを運転して発電した後、廃熱を利用してもう一度発電を行うことから「複合火力発電所」と呼ばれています。すでに2004年12月に建設が始まっており、2007年に734メガワットの第1号基が、翌2008年に同じく734メガワットの第2号機が発電を開始する予定です。

ゲンコイ第2複合火力発電所を推進するのは、「独立系発電事業体」ガルフパワー社です。独立系発電事業体とは、タイ政府が電力部門で規制緩和を進めた結果生まれた、自前で発電設備を建設・運営しながら電力を販売する事業体のことです。ガルフパワー社は、当初タイ南部のプラチュアップキリカン県ボーノーク地区に石炭火力発電所を建設する計画を立てていました。しかし、この計画は地元住民の熾烈な反対闘争にあい2002年に白紙撤回を余儀なくされます。そこで今度は燃料を石炭から天然ガスに変更し、工業化の進むサラブリ県ゲンコイ地区をあらたな建設地に選んだのです。

環境汚染の限界を懸念する地元住民


パサック川をのぞむ。雨季にもかかわらず水位が低い。
(2005年8月)


ゲンコイ地区はバンコクから北東に車で二時間足らずのところに位置し、この地の利を活かそうとセメント会社などの進出が盛んです。商店街や住宅地のそばに大きな工場が建つなど、住民は工業との共存を強いられてきました。地区を貫流するパサック川は進出企業に不可欠な工業用水を提供しつつ、排水先としても利用されており、いまや環境汚染の象徴的な存在になっています。ゲンコイ地区の人々は川辺に立ち、「かつてはここで魚をつかまえ遊んだものだ」とため息まじりに語ります。

ゲンコイ第2複合火力発電所の誘致を知って住民たちが最も心配したのは、ゲンコイ地区の環境がますます悪化し、ついには住民生活に大きな被害が及ぶかも知れない点です。ガルフパワー社が準備した環境影響評価(EIA)報告には、発電所がパサック川の水を冷却や洗浄の目的で日量54400立方メートルも使用すると書いてあります。一方で発電所からの排水量は日量14400立方メートルと見込まれているため、パサック川の水量が激減する事態が予想されます。また、排水の温度が川の温度と比して高いため、魚をはじめとする水生生物への影響も気になります。さらに住民は、大気汚染が進行し呼吸器疾患が増加するのではないかと不安に感じています。

封じられた声


パサック川では両岸で操業する工場の排水などで
汚染が進行する。 (2005年8月)

住民のこうした懸念は、今日に至るまでまったく解消されていません。2004年6月以来数ヶ月にわたってガルフパワー社が地元で開いた説明会に参加した住民たちは、「きちんとした資料や情報をもらえなかった」、「発電所建設のプラス面ばかりを強調して、マイナス面には触れなかった」、「質問しても会社側がきちんと答えてくれなかった」、「参加者名簿に名前を書いただけなのに、発電所建設に賛成していることにされた」など、説明会のまずさに憤懣やるかたなしといった様子です。

環境汚染に対してこれまであまり関心を示さなかったゲンコイ住民たちが今回ばかりは危機感を抱き、2004年7月には「ゲンコイ保全クラブ」を結成することになりました。クラブの活動の第一歩は、独自の情報収集です。例えば、2003年から2005年の過去2年間にサラブリ県環境室が行った検査では、パサック川の水が48ヶ所中31ヶ所でレベル5(「消費には不適切」)を測定したとの結果が現れていました。ゲンコイ地区住民には呼吸系疾患が多いとの調査結果も見つかりました。ゲンコイ地区の環境汚染が限界に達しつつあるという住民の懸念が裏付けられた格好です。このようにゲンコイ第2複合火力発電所に懸念を抱く住民は、地元に数百名の単位で存在すると言われています。

ゲンコイ保全クラブのメンバーは、自分たちの調査結果を使ってゲンコイ地区の人びとに呼びかけ、クラブの活動に賛同を得ようと行動を開始しました。ところが、その矢先、クラブの中心メンバーが「1992年国家環境基準強化保護法101条(汚染源に関する虚偽情報流布の禁止)」違反の容疑で2005年6月に5人、7月にはさらに2人が逮捕されてしまいます。全員すぐに保釈が実現し、起訴にまでは至っていませんが、事業に対する不信はますます募り、保全クラブとガルフパワー社との間で話合いは行われていません。住民の逮捕については、表現の自由の侵害や他地域の住民運動に与える打撃を懸念する声が、市民活動家や大学関係者の間であがっています。

深い日系企業の関わり

ゲンコイ第2複合火力発電所に日系企業が深く関与している点を見逃すことはできません。まずガルフパワー社の親会社には、電源開発株式会社が49%、三井系タイ現地会社が1%をそれぞれ出資しています。また三井物産は、ガスタービンをはじめとする発電所全体の設計から建設・試運転、さらには長期メンテナンスを約1000億円で請負っています。これは発電所の総事業費1084億円の大半に当たります。

日系企業の関与を背景にガルフパワー社は国際協力銀行(JBIC)に対して事業への融資を要請します。JBICにとって日系企業の経済活動を支援する国際金融業務は非常に重要な活動です。2005年1月にはJBICのホームページにゲンコイ第2複合火力発電所のカテゴリ分類が公表されました。あらたに火力発電所を建設し環境に重大な影響を及ぼす可能性のあるこの事業はカテゴリAに分類され、JBICの融資審査が始まりました。

新環境社会ガイドラインは守られたか?

JBICは2003年10月に新環境社会配慮ガイドラインを施行しました。このガイドラインによってJBICには事業者が十分な環境社会配慮を実施しているかどうかを確認する義務が生じます。例えば、ガイドラインの第2部(12-13ページ)では、「プロジェクトを実施するにあたっては…代替案や緩和策を検討し、その結果をプロジェクト計画に反映しなければならない」といった要件に加えて、「プロジェクトは、それが計画されている国、地域において社会的に適切な方法で合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならない。特に、環境に与える影響が大きいと考えられるプロジェクトについては、プロジェクトの計画の代替案を検討する早期の段階から、情報が公開された上で、地域住民等のステークホルダーとの十分な協議を経て、その結果がプロジェクト内容に反映されていることが必要である」といった点が明記されています(強調はメコンウォッチによる)。

JBICの関与を知ったゲンコイ住民たちは、2005年4月20日に篠沢恭助総裁に対して、ゲンコイ第2複合火力発電所に関わる問題点を列挙した書簡を多数の添付資料とともに提出しました。1ヶ月が経過した5月25日、JBICはバンコク事務所首席が署名した回答で「適切な環境社会配慮が事業者により検討されるよう確認する」、「融資決定の際に住民から寄せられた情報を留意する」と述べていますが、今日に至るまでゲンコイ地区を訪問して住民の声に直接耳を傾けるなど具体的な行動はとっていません。

そして2005年11月11日、JBICはガルフパワー社を相手に、約7億1300万米ドル(約840億円)を限度にゲンコイ第2複合火力発電所事業に融資を実行する契約に調印しました。協調融資を実行する金融機関にはみずほコーポレート銀行、東京三菱銀行なども加わり、ゲンコイ第2複合火力発電所への日本の関与はいっそう深くなりました。

今回の融資決定に際してJBICははたして新環境社会配慮ガイドラインを遵守しているでしょうか。ガルフパワー社によって「社会的に適切な方法で合意が得られるよう十分な調整が図られ」たことをJBICは確認できたのでしょうか。「早期の段階から、情報が公開された上で、地域住民等のステークホルダーとの十分な協議を経て、その結果がプロジェクト内容に反映されている」といった点はどうだったのでしょうか。JBICが融資契約に調印した時点でホームページに公表した環境レビュー結果はこうした疑問に具体的な形ではまったく答えてくれていません。メコンウォッチはこれらの点を中心にJBICに対して説明責任(アカウンタビリティー)を求めていくつもりです。

年表

2002年 5月 タイ政府「電力量は少なくとも2007年まで十分である」と発表。ボーノーク石炭火力発電所建設計画の事実上の中止。
2004年 7月 ゲンコイ第2複合火力発電所計画反対住民がゲンコイ保護クラブを結成。
  11月 ガルフパワー社がEGAT(タイ発電公社=当時)と100%の売電契約、PTT(タイ石油公社)と天然ガス購入契約、三井・アルストム(フランス)と工事・調達契約を結ぶ。ガルフパワー社などが13の銀行と355億バーツ(約1065億円)の融資契約を結ぶ。
  12月 タイ政府がEIA(環境影響評価)を承認。建設工事着工。
2005年 2月 上院社会開発・人間の安全保障委員会が現地調査。
  3月 産業事業課がサラブリ県知事に工事の停止を要請。灌漑局が発電所によるパサック川の水使用許可書を無効とする(後に再発行)。反対派住民200名が県庁前で集会、賛成派住民との間で対立。
  5月 発電所事業者側が反対派住民を1992年国家環境基準強化保護法101条違反(汚染源に関する虚偽情報流布の禁止)で告訴。
  6月 反対派住民5人逮捕(後に釈放)。
  7月 反対派住民さらに2人逮捕(後に釈放)。
  11月 JBICが融資契約に署名。
2007年 3月 1号機運転開始予定。
2008年 3月 2号機運転開始予定。

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