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 メコン下流本流ダム>迫りくる、サイヤブリダム建設をめぐる判断

メコン河開発メールニュース2011年3月3日

ラオス国内部分を流れるメコン河本流に、長さ810m・高さ32mのサイヤブリダム(発電量1,260MW)が建設されようとしています。中国領内を除いては、現在、メコン河本流にダムは存在しません。したがって、サイヤブリダムが中国領外で初めてメコン河の本流の流れを遮ることになるかも知れません。その重要な決定が今月末にも下される可能性があります。

サイヤブリダムをめぐっては、さまざまな課題があり、今後もメールニュースなどを通してご紹介します。今回のメールニュースでは、ベトナムの英字紙の記事を日本語訳しました。長めの報道ですが、サイヤブリダムをめぐる最近の動きがまとめられていますので、ぜひご一読下さい。

 サイヤブリダムのサイトはこちら、 下流本流ダムのサイトはこちらをご覧ください。

ダムとの対峙

Thanh Nien News
2011年2月25日

ラオス北部で計画されている破壊的なサイヤブリ水力発電所の建設を止めるために、タイが地域で最後の希望を握っているようである。環境保全団体は、山岳地帯のサイヤブリ県で、この巨大な水力発電所を建設しようとしているラオス政府に、タイ政府が待ったをかけるものと期待している。一方で、東南アジアでこの事業に反対する政府はないのではと心配する意見もある。サイヤブリダムの建設は、メコン河とメコン河に生活の糧を依存する何百万人もの人びとに、回復不可能な悪影響をもたらす。

昨年(2010年)9月、ラオス政府は、2011年4月22日を期限に、ベトナム、カンボジア、タイの各国政府が、サイヤブリダム建設事業に対する公式見解をメコン河委員会(MRC)に提出することができると発表した。MRCは、これら4ヶ国が加盟する政府間諮問機関である。その3週間後(2010年10月)には、MRCが委託した独立調査の結果が公表されたが、この調査は、メコン河下流域に計画されているすべてのダム事業をむこう10年間停止するよう呼びかけていた。調査は、メコン河下流に計画されている12ヶ所のダムがもたらす深刻な環境・経済上の影響を強調したのである。

しかし、こうした結果にもかかわらず、貧困国であり同時に急速に経済成長する内陸国ラオスは、サイヤブリダムの建設推進を心に決めているようである。サイヤブリダムは12ヶ所のダム計画の中で最大規模であり、もっとも進展している事業である。建設に向けた支援として、タイの企業や銀行も準備を整えている。

「(意思決定の)期限を延長する必要はまったくない」と、2月14日、カンボジアで開催されたMRC代表団の会議の席で、ラオス代表は発言した。「すべての国から同意がいただけるものと思っている」。ラオス政府は、かりにサイヤブリダム事業に反対する国があった場合どうするかについては明言しなかった。しかし、やんわりと反対するだけでは、ラオス政府の事業への意気込みを止められそうにはない。「(サイヤブリダム)事業計画の今後の進展にかかわる決断は、当然のことながらラオス政府のみに帰するものである」と代表は述べた。

正義の味方か悪役か

ラオス政府が建設停止の提言を無視したことに対して、地域内で慎重に批判の声をあげる者がいる一方で、もっとも激しい批判をぶつけているのはタイである。ところが、事業への経済上の関与がもっとも深いのもタイなのである。サイヤブリダムが発電する電力の95%を購入するのはタイ電力公社である。そして、タイの銀行4行も事業に融資するが、現在までのところ、コメントを求めても応じてくれた銀行は1行もない。

「建設業者と(4銀行の)資金提供者がともにタイ資本であることから、私たちはサイヤブリダム事業に非常に深く『関わって』いると言える」と、メコン河開発上院小委員会のPrasarn Marukpita委員長は述べた。Marukpita上院議員は、サイヤブリダムの影響が広範囲におよび、6,000万人以上の人びとの生計に悪影響を与えるという専門家の度重なる警告にとりあわないラオス政府を痛烈に批判した。「ラオスはしびれをきらしており、メコン河を自分の河だと思っているようだ」と、Marukpita上院議員は語った。

サイヤブリダムはラオス北部の山間(やまあい)に建設が予定されており、メコン河本流下流に計画されている12ヶ所の大規模ダムの中でもっとも進展している事業である。これらの本流ダムは、メコン河に長期にわたって回復不可能な生態系上の変化をもたらすことになる。また、昨年10月に公表されたMRCの委託調査によれば、漁業や農業を支える微妙なバランスや季節ごとに巡る変化を乱してしまう。

「サイヤブリダムに向けた動きに関して言えば、私たちは、ラオス政府の対応を非常に懸念している」と、バンコクに本拠を置く非営利団体、生態回復財団のプレムルディー・ダオルォン(Premrudee Daoroung)共同代表は語った。「サイヤブリダムが『ラオスだけの事業』だなんてとんでもない」。

サイは投げられた

2007年半ば、サイヤブリダムを建設するタイのチョー・カンチャーン社が、ラオス政府との間で事業の実行可能性調査を行う覚書に署名した。事業の推進が発表されて以来、ラオス政府とMRCは、ダムの環境・生態系への影響についてほとんど情報が提供されていないと主張する人びとから、ごうごうたる非難を浴びてきた。

米国を本拠とする環境団体インターナショナルリバーズのエイミ・トランデム(Ame Trandem)キャンペーン担当は、MRCが、サイヤブリダム事業に関わる特定の重要文書を握ったままであったり、その他の文書についても現地語に翻訳しなかったりと、自らの科学的な知見を効果的に公開せず、公開をずるずると引き延ばしてきた責任を追及している。さらに、トランデム氏は、MRCによる協議会の設定が遅かった点を批判し、サイヤブリダム個別事業の環境影響評価(EIA)がいまだに公開されていない点を指摘した。「2011年1月になってようやくMRCは、いつ協議会が開催されるかを明らかにした」と、トランデム氏は語った。

一方、MRCのジェラミー・バード(Jeremy Bird)最高経営責任者は、あらゆる関連情報は国別協議会の席で参加者に提供したと反論した。「先ごろ、ラオスの国家メコン河委員会から、サイヤブリダムの実行可能性調査が事業者のウェブサイト(www.xayaburi.com)で閲覧可能になっていると連絡を受けた」と、バード氏は述べた。

これに対して、インターナショナルリバーズのトランデム氏は、こうした調査の結果を地元のさまざまな言語に翻訳して提供するのでなければ、結局MRCは、サイヤブリダム建設でもっとも影響を受ける人びとを排除していることになると述べた。

「サイヤブリダムから本当に損失を被るのが誰で、利益を得るのは誰なのか。今のところ、私としては、私たちはダムに絶対反対すると言うしかない」と、2月10日、タイで開催された協議会の席で、サコンナコン県から参加したタイの農民Lamlek Nilnuan氏が述べた。「わたしたちはサイヤブリダムについて何も知らない。タイ企業も含めて、『関係者』とやらが、事業を始める前に、事業の真相について説明してくれるのだろうか」。

火曜日(2月22日)、ベトナム北部のクアンニン(Quang Ninh)省で開催された協議会でも、ベトナムの専門家や政府関係者が、情報不足を根拠にサイヤブリダム事業の中止を提案した。

最後のチャンス

タイの人びとがますますダム反対の声を強めることから、専門家たちは、反対運動が効果を上げるためには、タイが地域で最後の希望だと感じている。Marukpita上院議員も、サイヤブリダム建設反対運動が勢いを増していると確信の口調で語った。「タイのNGOはタイ政府に対して、サイヤブリダムから電気を購入することを再考するよう要求するだろう」と、上院議員は指摘した。さらに、上院議員は、政府がラオスとの取引を再考しなければ、議会が紛糾する可能性が高いとし、「(買電については)『タイ国土に影響が生じる契約に署名する際には国会の事前承認が必要』とする憲法190条に抵触する可能性がある」と述べた。

また、Marukpita上院議員は、サイヤブリダム事業の命運を決める際にタイが決定的な役割を果たすことを認めつつ、他方で、タイをこの闘いの中で孤立させるべきではないと言った。「ベトナムもそろそろ声を強めるだろうと思う」と上院議員は述べた。「カンボジアも加わるだろうが、ベトナムやタイほどにはっきりとものを言わないかも知れない」。

生態回復財団のダオルォン共同代表は、サイヤブリダムに対する運動から、すべての人びとが教訓を学び取ることを願っているとした。「この地域には、まだ11もダム事業があって、中国、タイ、ベトナム、マレーシアやフランスまでもが建設を計画している」とダオルォン氏は語った。「ここで、わたしたちの中に『地域』(としての意識)が芽生えなければ、そして地域の政府と人びとが協働できなければ、今後10年間、一人ひとりの生活に非常に大きな影響や変化がおよぶこ
とになる」。

(文責/翻訳 メコン・ウォッチ)

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