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メコン下流本流ダム>サイヤブリダムの行方(その3)〜タイ社会からあがる懸念の声 

メコン河開発メールニュース2011年4月16日

ラオス北部に建設が計画され、メコン河本流の下流部分をはじめて遮ることになるかも知れないサイヤブリダムについて、今回はタイ社会からあがっている懸念の声を紹介します。

サイヤブリダムがメコン河の漁業に及ぼす影響は甚大ですが、メコン河には、絶滅危惧種であるメコンオオナマズのほかにも、重さ600キロにもなる淡水エイや大型のコイ、犬食いナマズなど、世界の巨大淡水魚トップ10のうち4種類が生息しています。メコン河本流を遮るダムは、オオナマズの回遊・産卵行動を妨げるなど、流域の生態系を破壊し、地元の人びとの暮らしに不可欠な生物を絶滅に追い込みます。

タイの農民や漁民、環境問題に取り組むNGO関係者は、これまで自国内で建設されてきたダムがしばしばもたらしてきた甚大な被害の経験から、ダムの問題点を熟知し、サイヤブリダム建設計画に対しても非常に大きな危機感を持っています。

また、サイヤブリダムの場合、これまで日本やオーストラリアといった工業先進国や、世界銀行・アジア開発銀行(ADB)といった国際機関が技術や資金を提供してきたダム建設とは違い、タイの民間企業が建設を請け負い、タイの市中銀行が資金提供に協力し、タイ政府が電力のほとんどを輸入するといった具合に、タイが中心的な役割を果たしています。

こうした経緯から、タイの人びとは、アピシット首相をはじめ各方面に対して、サイヤブリダム建設中止に向けた働きかけを強めようとしています。

サイヤブリダムの詳細については、こちらのぺージをご覧下さい。

メコン河ダム開発を進めるタイに、相次ぐ厳しい批判

Marwaan Macan-Markar
Inter Press Service(IPS)
2010年7月29日【1】

(バンコク)東南アジアで最も大きな水系の本流に、11基ものダムをカスケード方式で建設する計画に対し、メコン河沿いに住むタイ北部の住民たちは高まる反対運動の流れに合流した。

タイ北部のチェンライ県の出身者が多くを占めるこれらのコミュニティでは請願書を作成し、来週以降にもタイのアピシット・ウェチャーチワ首相に提出する予定である。

住民たちはこれを、何世代も受け継がれてきた河とともにある文化や生活を守るための、長い戦いにおける第一歩だとみている。

タイ住民の怒りの矛先は隣国ラオスを流れるメコン河の一部に建設予定の、サイヤブリダムである。

このダム建設反対で、住民たちは事業の裏にいる強力な利害関係者に立ち向かっている。

1,260メガワット(MW)の設備容量をもつサイヤブリダムは11基あるダムの中でも計画が最も進んでおり、その次が360MWの設備容量をもつドン・サホンダムだ。
計画予定地は共にラオス国内で、残りの9基はいずれもメコン河下流域に建設予定で、カンボジアでは本流に2基のダムが計画されている。

サイヤブリダムの支持者は、タイを拠点とするダム開発業者、融資を約束したとされる4つの民間金融機関、そして新たに建設されるこのダムの電力買い取りの契約に署名したタイ発電公社 (EGAT)である。

「地元コミュニティは恒久的に自分たちの生活を損ないかねないダム建設に、タイ政府が直接関与していることに憤りを感じている」と、バンコクを拠点とする環境活動家で、草の根運動家のネットワーク組織であるセーブ・ザ・メコン連合(the Save the Mekong Coalition)のコーディネーターでもあるピヤンポーン・ディテート氏は語る。

「メコン河本流ダムは産卵のための魚の回遊パターンに悪影響を及ぼすことになり、住民たちの漁業による生活は影響をうける。地元コミュニティは、魚の回遊を助けるためにダムに建設される魚道を全く信頼していない。住民たちはこういった技術がタイのパクムンダムで失敗に終わったことを良く知っている」。

この請願書によって、アピシット政権はダムに対する姿勢を明らかにし、地元住民との協議を行ったかどうかを問われることになると、ピヤンポーン氏はIPSに語った。

今のところ、歴史は住民たちの味方をしているようである。というのも、タイ、ラオス、カンボジア、そしてベトナムを流れるメコン河本流下流部は、これまで水力発電によって流れがさえぎられることがなかった。メコン河に建設されたダムで、かつ下流に住む6,000万人もの人々を激怒させたのは、上流中国にできた3つの巨大なダムだけである。

このような経緯から、11基の本流ダムとその地域コミュニティや環境への影響に関する未解決の議論で、対立する利害関係者のどちらにとって有利にことが進んでいくのかを見定める上で、サイヤブリダムはその評価基準となってきた。

こういった問題とは別に、ダムはメコン河の象徴ともいえるメコンオオナマズの絶滅を招くものとして非難されることになるだろうと、NGO関係者たちは言う。

World Wildlife Fund(WWF)はタイのチェンライ県とラオスのボーケ県近郊のダム建設予定地近くに重要な産卵域がある点を指摘し、「メコンオオナマズは絶滅の危機に瀕している種で、サイヤブリダムを通って回遊できなければ、生き残ることはできないだろう」という。

「この地域は絶滅の危機にひんしているメコンオオナマズが野生で産卵するのを見られる、最後の場所のひとつである」と、今週発行された報告書、River of Giants: Giant Fish of the Mekongは指摘している。

この魚が350kgもの重さがあることを指摘し、最後にメコンオオナマズが見られたのは、2009年5月、タイ北部チェンライ県を流れる川の一部だったと、WWFメコン河エコ・リージョン・コーディネーターであるTrang Dang氏は話す。

ここ100年間でその数が95%も激減しているこうした魚類は、モンスーンの時期が5月に始まると、カンボジアのトンレサップ湖からチェンライ県近くの上流にある産卵域まで遡上するが、時にその距離は1,000kmにも及ぶ。

オオナマズはメコン河に生息する大型の淡水魚4種のうちの1種で、他の3種は大型のコイ、犬食いナマズ【2】、最大のものが巨大淡水エイでバス半分の体長と600kgもの重さがある。

「世界最大の淡水魚のトップ10のうち4種がメコン河で見られる。地球上のどこよりも数多くの大型魚がこの雄大な河に生息している」と、WWFの調査は指摘している。

一方で、タイ住民と環境NGOの活動家たちにとっては、ラオス政府高官の言葉にいくばくかの希望を見出すことができるかもしれない。

「我々は数多くのダム建設計画事業を調査してきたが、何も決定していないのが現状であり、サイヤブリとカンボジア国境に近いラオス南部の2つのダム事業に関し、調査を行っているところだ」と、ラオスのエネルギー鉱山省スリウォン・ダラウォン大臣が7月にコメントしたとの報道があるからだ。

サイヤブリダム建設が不確実なままである一方で、はっきりとしているのは、これまでこういった投資を主導してきた世界銀行やアジア開発銀行に取って代わり、ダム開発における民間企業の役割が大きくなっていることである。

こういった状況の変化は、チベット高原から中国南部、ビルマ、そして南シナ海まで4,880kmを流れるメコン河を守ることしか頭になかったNGO関係者たちに、新たな課題を突きつけている。

「水力発電開発が民間主導となると、利益を上げることが主目的となり、水力開発に混乱をもたらす。それぞれの開発業者が独自の事業を立ち上げ、最も安価に発電を行おうとするからだ。こういったやり方は、ラオス側のニーズとのすり合わせや環境・社会問題への十分な対応もなされない、総合的な視野に立つアプローチに欠けたものとなる」と、米国を拠点とする環境監視団体であるインターナショナル・リバーズメコン・プログラムコーディネーターのカール・ミドルトン氏は語っている。

【訳注】
【1】英語原文は以下のサイトで閲覧可能
http://ipsnews.net/news.asp?idnews=52314

【2】「犬食いナマズ」は、犬の肉を餌に釣るためこう呼ばれる。

(文責 メコン・ウォッチ/翻訳 舎川正美)

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