ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > メコン下流本流ダム>サイヤブリダムの行方(その7)〜事業承認前に開始された工事
メコン河開発メールニュース2011年4月19日
本日、ラオス・サイヤブリダム建設計画の是非を協議するメコン河委員会(MRC)の特別会合がラオスの首都ビエンチャンで開催され、議論を各国大臣レベルにあげ、ダム計画の是非をめぐる決定は延期されることが決まりました。(本日のMRCの特別会合については、次回のメールニュースでお伝えします。)
その一方で、サイヤブリダム建設予定地近辺では、ダム建設を前提とした道路の拡張舗装工事が何カ月も前から開始されており、地元住民たちはラオス政府から立退くよう命ぜられているとの報告が、数日前のタイ英字紙『バンコクポスト』で紹介されました(以下のサイトで英語原文をご覧下さい。現場の写真が多数掲載されています)。
http://www.bangkokpost.com/news/local/232239/xayaburi-dam-work-begins-on-sly
建設計画の是非を協議する前に、建設を前提とした工事が開始されているというのでは、メコン河の水資源の持続的な管理のための協調と開発をめぐる加盟国間の紛争の回避といったMRCの理念や手続きはまったくないがしろにされていると言わざるを得ません。MRCの存在意義が失われようとしています。
MRCは組織の使命にたちかえるためにも、サイヤブリダム建設計画を白紙に戻すべきです。
『バンコクポスト』
2011年4月17日
タイに安価な電力を供給すると云われる一方で、論争の的ともなっているラオスのサイヤブリダムだが、正式な事業承認を受けていない一方で、周辺の工事がすでに始まっている。
先週、『バンコクポスト』日曜版がメコン河本流下流部のサイヤブリダム建設予定地周辺を訪問して調査したところ、幹線道路での工事が進行中で、現地に住む人びとも移転の準備を始めていた。
住民数名は、立退きの補償としてわずか15米ドル(450バーツ)を受取ることになっていると語った。
ラオス政府との合弁により、35億米ドルの大事業に関与しているタイ企業「チョー・カンチャーン(Ch Karnchang)」の社名の入ったトラックや削岩機が、道路を整備・地ならししている様子が見てとれた。
メコン河委員会(MRC)の加盟国であるタイ、ラオス、ベトナム、カンボジアが来週火曜日(4月19日)に会合を開き、サイヤブリダムを承認すべきか否か決定することになっている。
ベトナムとカンボジアはこの事業に反対の立場で、懸念を深める環境保護団体やNGO関係者も、事業がきちんとした環境影響評価(EIA)を実施していないと指摘している。
しかし、加盟国は(MRCでの)決定に拘束されず、加盟国の意思によっては一国で事業を進めることもできる。
『バンコクポスト』の調査によって、Ban Nara村からBan Talan、そしてサイヤブリダム建設予定地に近いBan Houay Souyまで30キロ以上にわたって道路工事が行われていることが明らかになった。
ダム建設予定地の近くに住む村民によると、道路工事が始まって約5カ月経過している。
これは、ラオス政府が、EIAをはじめ、MRCでの検証手続きに必要な書類を提出して1カ月後のことである。
サイヤブリの町を目指す人びとがメコン河を渡るTha Dua港から約17キロのBan Nara村では、でこぼこの2車線道路が河と平行に走っている。
ところが、道路が山側のBan Talan and Ban Houay Souyにそれるにしたがって、幅は5から8メートルに広がり、表面も固くならされていた。
道端では削岩機が作業をしているところが見え、Ban Nara村から約10キロ離れたところでは、何十台ものトラックや削岩機が仮に建設した飯場に駐車してあった。車体には、サイヤブリダムを建設・運転する目的で、ラオスに「サイヤブリパワー(Xayaburi Power)」という子会社を設立した「チョー・カンチャーン社」の社名が入っている。
さらに3キロ進むと、重機、燃料タンク、セメント製造器、屋台、売店などのある、さらに規模の大きな飯場があった。作業員の姿が見え、500メートル先には「工事現場」という看板のかかった検問所があり、進入をはばんでいる。
新しくならした道路は15キロほど伸び、今は船でしか行けないBan Houay Souyで急に終わる。
「会社は、雨季が始まらないうちに工事を終えたいんだよ」とある作業員が言った。
県外のラオス人が仕事を求めてやって来ている。売店や屋台を構える者もいれば、道路工事の作業員になったり、ダムの建設工事が始まるのを待っている者もいる。
ビエンチャン出身の作業員は、何人かで仕事を探しに来たと語った。来月、事務所開きがあると聞かされたと言った。
村民の立退きも始まらんとしている。Ban Talanでは、村人から、政府関係者が訪ねてきたと聞かされた。村人たちは立退くよう命ぜられたが、何月何日にとは言われていない。村人たちは、政府が近くの山にコンクリート製の新居を提供すると約束したと語った。
また、村人たちは、15米ドルの補償金を約束されたと言った。「役人が言うんだから、従うしかない」とある村人は語った。チョー・カンチャーン社からコメントを得ることはできなかった。
2010年9月、ラオス政府はMRCに対して、サイヤブリダム建設を承認するために正式な手続きを開始するよう要請した。サイヤブリダムはメコン河下流域で計画されている11カ所のダムの第1号である。
これによって、同種の開発事業を対象に、加盟国が1995年に署名したMRC協約が規定する手続きが開始されたのである。
この協約によれば、国境を越えた環境影響の発生を疑われる開発事業は、開始前に検証と協議が必要となる。
流域の社会開発に努力するPrasarn Marukpitak元タイ上院議員は、サイヤブリダムのための準備工事が急ピッチで進んでいることは明らかだと語った。
Prasarn元議員は、サイヤブリダム建設計画がMRC全加盟国の同意なしに進められるようなことがあれば、国際問題に発展する可能性があると述べた。「ラオスはMRC加盟国である。国際社会はラオスがMRCの規則をないがしろにしないか注視している」。
「ラオスは明らかに流域の戦略的環境評価と協議手続きを無視している」とPrasarn元議員は語った。
サイヤブリダムは、2019年1月に商業運転を開始する計画である。
昨年12月、タイ国家エネルギー政策委員会(National Energy Policy Committee)が買電契約を承認し、これによってタイ国内の電力供給を担当するタイ発電公社(EGAT)がチョー・カンチャーン社の子会社であるサイヤブリパワー社と契約を結ぶに至った。サイヤブリダムの発電能力は1,260メガワット(MW)で、約95%が単位当り2.15バーツでタイに輸出されることになっている。
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)