ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > メコン下流本流ダム>サイヤブリダムの行方(その9)〜ラオス政府が計画を延期
メコン河開発メールニュース2011年5月21日
建設されれば、史上初めてメコン河下流本流を遮ることになるラオス・サイヤブリダムですが、流域の市民社会をはじめ、各方面からあがる反対や懸念の声に抗しきれず、ラオス政府はついに計画の延期を決定しました。さまざまな情報を総合すると、サイヤブリダムがもたらす環境社会影響について、一年以内の追加調査を実施する模様です。メコン河の自然資源と人びとの生活への打撃はひとまず回避されました。
しかし、追加調査の詳細は明らかになっていません。これまで議論の場を提供してきた、メコン河委員会(MRC)の通報・事前協議・合意手続き(PNPCA)が今後どのように運用されるのかも不明です。すでに関連工事によって立退きを命ぜられているという地元住民の現状も分かりません。メコン・ウォッチでは今後もサイヤブリダム建設計画をめぐる動きを監視し、みなさんにお伝えしていきたいと思います。
以下では、ラオス政府の計画延期が報道されるきっかけとなったベトナム・ラオス首脳会談について、ベトナムThanh Nien紙の記事を日本語訳で紹介します。
Thanh Nien紙
2011年5月8日
土曜日(5月7日)、ベトナムのグエン・タン・ズン(Nguyen Tan Dung)首相は、ラオス政府がメコン河に計画しているサイヤブリダム事業の延期を決定したことを讃えた。
ジャカルタで開催された第18回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせて行われた、ラオスのトンシン・タンマウォン(Thoongsing Thammavong)首相との会談の中で、ズン首相は、同事業を停止するという決定は、ベトナムの提案(※)に対するラオス政府の協力と深慮を反映したものだと述べた。
ベトナムは、メコン河を各国および地域全体の利益に寄与する持続的な方法で利用するにあたって、ラオスや、中国およびミャンマー/ビルマの上流2カ国をも含むメコン流域国と協同することを望んでいる、とズン首相は述べた。
この会合で、両国首相は、4月に開催されたベトナム・ラオス合同政府委員会の第33回会合の成果を確認し、二カ国関係をさらに発展させることに合意した。
同じく土曜日に開催されたタイのアピシット・ウェーチャチワ(Abhisit Vejjajiva)首相との別会合でも、ベトナム・タイ両国は、特にビジネス・貿易・投資分野での協力関係の推進を約束した。また、メコン河の資源の管理と持続的な利用についても議論を交わした。
<ASEAN首脳会議>
ASEAN各国政府の高官は、今週末、ジャカルタで首脳会議に出席している。今年は、インドネシアがこの地域連合の議長を務めている。
土曜日の歓迎スピーチのなかで、インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領は、ASEAN地域は複雑な食糧・エネルギー問題に直面していると述べた。
「世界の人口は急速に増加し、現在の70億人から、2045年には90億人に達する。地球上の国々は、日々必要となる希少な資源をめぐって、競争状態に置かれるだろう」とユドヨノ大統領はASEANのウェブサイトに掲載された声明文の中で語っている。
「食糧とエネルギー価格の上昇は、これまでもこれからも、貧困の中に生きる人びとを増やすことになると、歴史が証明している」と大統領は述べている。
また、「国家レベルだけでこうした課題に立ち向かうことは不可能で、より包括的な解決策と、東南アジア地域の国家間のさらに強力な協力関係を築く必要がある」とも語っている。
ASEANには、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー/ビルマ、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムが加盟している。
※訳注:メコンデルタの農業・漁業に甚大な影響を被るベトナム政府は、ラオス政府に対して、サイヤブリダムにとどまらず、11カ所すべての下流本流ダム建設計画を最低10年凍結するよう要請している。
英語原文は以下のサイトで閲覧可能
http://www.thanhniennews.com/2010/Pages/20110508124455.aspx
(文責 メコン・ウォッチ、翻訳 東智美/メコン・ウォッチ)