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  ビルマ(ミャンマー)>アウンサンスーチー氏がイラワディ川ダム開発に懸念を表明

メコン河開発メールニュース2011年8月23日

ビルマ(ミャンマー)の民主化運動指導者アウンサンスーチー氏が2011年8月11日、「イラワディ・アピール」と題する文書を発表しました。この中で氏は、ビルマ北部カチン州を流れるイラワディ(エーヤワディ)川に建設または計画されている複数の水力発電ダムについて、深刻な社会・環境的悪影響が起きる可能性があると懸念を表明しました。「イラワディ・アピール」の日本語訳をご紹介します。

アウンサンスーチー「イラワディ・アピール」

2011年8月11日

イラワディ・アピール

「偉大な河」イワラディ(エーヤワディ)河はビルマを代表する河川だ。その流れは北のカチン州、メーカ川とマリカ川との合流地点に端を発し、南に向かってよどみなく流れながら、網の目のように広がり、肥沃なデルタ地帯を潤す中小の河川へと姿を変え、最終的にはインド洋へと通じる。イラワディ河は私たちの国を代表する地理的特徴だ。また自然がくれた立派な幹線道路であるだけでなく、豊富な食料の源、様々な水棲動植物のすみか、伝統的な暮らしの支え、数え切れないほどの散文や詩を生む霊感の源泉となったミューズ(詩の女神)でもある。

しかしイラワディ河はいま危機に瀕している。適切な計画が描かれず、必要な保護法制が整備されず、生態系に十分な配慮が行われないことから、様々な問題が生じている。河畔の豊かな森は、憂慮すべき速度で進む違法伐採と木炭製造により、消失しかねない状態にある。森林破壊によって土砂浸食が起こり、それによって河床の上昇と砂州の形成が進行中だ。建設地点と設計が適切であるかに十分に配慮しないまま橋梁が建設されることもまた、浸食と砂州形成を後押しする。ここ数十年の間に、乾期の水上交通と飲料水の採取はますます難しくなった。時宜にかなった効果的な対策が取られなかったことでイラワディ河は過去から現在に至るまでダメージを被っている。その評価にあたっては、気候変動も考慮に入れるべき要因だ。

比較的新しい問題に水質汚染がある。この10年で流域に工場が増えたことと、野放図な砂金の採集によって汚染が発生し、有名なイラワジイルカ(カワゴンドウ)などの希少種の生存や、イラワディ河から水や食料を得て生活する人々の健康が脅かされている。

ダムや水力発電所を建設すると、水利の規制や再生可能エネルギーの獲得などのメリットがあることは確かだ。しかし水力開発事業には負の側面も存在する。河川がぶつ切りにされ、水流が弱められる。堆積作用が弱まることで浸食が進行する。水の透明度は改善されても、不純物の大量集積が発生する。建設工事では大量の産業廃棄物が生まれ、環境破壊と河川の汚染が深刻化する。

このほかにもイラワディ河水系の水流が弱まることで生じる、特に深刻な問題がある。デルタ地域への海水の侵入だ。水稲生産に悪影響が出れば、米を常食とするビルマ国民全体が被害を受ける。さらに言えば米は有力な輸出品であり、生産量の低下は外貨獲得に影響を与える。

計画されている8つのダム

2010年に始まったミッソン水力発電建設を皮切りに、イラワディ河に「8つのダム」を建設する発電事業が動き出した。これはビルマと中国の合弁事業だ。ミッソンダム建設では、上述したダム建設が一般に引き起こす悪影響に加えて、新たな問題が持ち上がった。環境影響調査報告書の指摘によって、特にダムの安全面に関して大きな懸念が生まれた。ダムの近くには複数の断層があり、ダムの貯水池は巨大なものとなる。つまり、ダムの周辺で地震が起きれば甚大な被害が出る可能性がある。また、建設現場周辺の63の村から1万2,000人が移住させられた。その人たちが、生計手段を失ったり、伝統的な生活様式を続けられなくなったことへの十分な補償を受けられるかどうかはまだわからない。

ビルマと中国は良き隣人であり、互いに尊重し友好関係を保ってきた。私たちは両国とも、双方の利益にも配慮しながらも、人の生命や生活を脅かすような事態を避けたいはずだと信じている。ミッソンダム建設が始まって以来、カチンの人々が長年抱いてきた、歴代のビルマ政府はカチン側の利益を無視しているという思いが強まっている。ミッソンダム建設には既に多額の資金が費やされてきた。私たちはこのことを承知の上で、国内での、また国際的な協調関係を保つために、ミッソンダム建設の関係者に対し、建設計画を再検討し、望ましくない結果を避けるための解決策を探すために協力するよう求める。これはイラワディ河を守りたいと切に願っている者すべての懸念を軽減することにもなる。

イラワディ河を救おう

イラワディ河の環境に変化が起きれば、この大河に頼って生活している人すべてが影響を受けることになる。私たちの国の最北端にあるカチン州に住む民族から、デルタ地域で米を作っている地域まですべてだ。イラワディ河を保全することは、私たちの経済や環境を保護するだけでなく、文化的遺産を守ることでもある。もっとも重要なのは、イラワディ河を保護するために一体となって努力することで、相互理解も深まり、実際的な協力ができるようになる利点の存在だ。イラワディ河に関しては多数の個人や団体が貴重な調査を行ってきた。保全計画の基盤となる情報や実際的な提案には事欠かないだろう。森林や河川の保全に関する既存の法令や規制を厳密に適用するだけでも大きな前進となる。したがって私たちは、世界の環境専門家・保全事業家や自然・平和・調和を愛する人たちに、アジアでもっとも重要な河の一つであるイラワディ河が直面している脅威を全世界に伝える運動に加わるよう呼び掛ける。私たちが皆で協力すれば、イラワディ河に関する環境・経済・技術・政治面の問題への解決策を見つけることができる。

アウンサンスーチー(署名)
(日本語訳 ビルマ情報ネットワーク)

出典:Aung San Suu Kyi, “Irrawaddy Appeal,” August 11, 2011.
http://www.nldburma.org/media-press-release/press-release/377-irrawaddy-appeal.html

【参考資料】

イラワディ川ダム開発(メコン・ウォッチ)
イラワディ川ミッソンダム開発 「建設するべきではない」との勧告が無視されていた

(文責 秋元由紀/メコン・ウォッチ)

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