メコン河開発メールサービス 2000年8月21日
旧海外経済協力基金(OECF)及びアジア開発銀行(ADB)の融資によって建設が進んでいる、タイ・サムットプラカン県クロンダン区の汚水処理プロジェクトについて、新たな問題が生じていますので報告します。今回の最大の問題点は、中村敦夫参議院議員が提出した質問主意書に対する森善朗首相名の返答書の内容と、アメリカのNGOが会談したADB理事代理の回答に大きな違いがあることです。具体的には、森首相名の返答書では最近実施されたEIAにより環境影響がほとんどないことが判明したとしている一方、アメリカのADB理事代理はこのEIAは質に問題があるとしてタイ政府は却下したと語っています。EIAなしでプロジェクトを進めてきたツケが、ますます大きくなっています。
以下、メコンウォッチの福田健治の報告です。なお本プロジェクトの概要と問題点についてはメコン・ウォッチのホームページをご覧ください。
メコン・ウォッチでは、今後もJBICの担当者との情報のやりとりを続けるほか、大蔵省を通じてADBに対する働きかけも行っていきたいと考えています。本件について情報・提案等ありましたら、メコン・ウォッチまでお寄せください。
ADB総会において、本プロジェクトの建設地であるクロンダン区の訪問とプロジェクトのレビューを約束していたADBは、現地訪問後、6月28日にエイド・メモワールを発表しました。この文書は、プロジェクトの概要、これまでの経緯、ミッションの結果、懸念されている問題点に対するADBの立場が包括的に記されています。住民参加が不十分であることは認めているものの、EIAの不在・環境ガイドライン違反、環境破壊、汚職の存在、経済的妥当性などについては住民の主張を退けています。
エイド・メモワールは以下のホームページにてご覧いただけます。
すでにお伝えしているとおり、中村敦夫議員を通じて、政府に対し質問主意書を提出していました。これに対する内閣総理大臣名での答弁書が8月8日に送付され、10日に国際協力銀行(JBIC)及び経済企画庁の担当官からの説明を中村議員の事務所で受けました。質問主意書への答弁・事務所での会見の要旨は以下のとおりです。
フィジビリティ・スタディに含まれているIEEにより、大きな環境影響がな いことを確認しており、環境ガイドラインの違反はない。
その後も、プロジェクト地の決定・詳細設計の進展と共に、コントラクターが行う環境配慮を確認してきている。
現在行われているEIAにおいても重大な環境影響はないことが確認されている。これは7月にドラフト(タイ語)が提出され、英語版を作成し各機関のチェックを受けた後、11月に最終版が公開される。
以上により、現在の時点でJBICが貸し付け実行を止める必要はない。
現地では今月中にNGOとの会合、9月に地域住民との会合が予定されている。また紛争解決委員会が組織され、環境影響の緩和策、コミュニティ・ファンドなどについて議論している。すでに4回の会議が持たれ、これにはNGOの代表も参加している。
質問主意書等は以下のホームページをご覧ください。
一方アメリカにおいては、多国間金融機関の政策提言活動に取り組むNGOであるBank Information Centerと、ADBのアメリカ理事代理及び財務省担当官との間で会合が行われました。この中でアメリカの理事代理は、
IEEはクロンダン区を含んでおらず、本プロジェクトはADBの環境ガイドラインを満たしていない。
現在事業者により行われているEIAのドラフトは、7月にPCDに提出されたが、"poor quality"のため却下された。
本プロジェクトの契約スキームであるターンキーコントラクトは、住民参加、透明性、アカウンタビリティ等の観点から問題があり、今後公共セクターでこのスキームを用いているプロジェクトには融資を行わない。
ADBのガイドライン違反を理事会で取り上げるにはInspection Functionにかけるしかない。
等のコメントをしています。
この中で、IEEがクロンダン区を含まないという認識は、これまでのタイ政府・JBIC・ADBマネージメントの見解から大きく踏み出すものです。また現在進行中のEIAが却下されたという点については、明らかに上記のJBICの見解と矛盾しています。もし理事代理の発言が正しければ、新EIAが環境影響が小さいことを確認しているという質問主意書の答弁は嘘だったということになり、重大な問題となるでしょう。
この件については現在JBICに照会中です。