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カンボジア土地問題>世銀融資の土地管理事業に対して住民が異議を申立て

メコン河開発メールニュース2009年11月27日

カンボジアで激化する強制立退きや土地紛争についてはこれまでもお伝えしてきた通りですが、これに関連して、今年(2009年)9月4日、カンボジアの住民が世界銀行(世銀)のインスペクションパネル(調査委員会)に対して異議を申立てましたので、今回はその件をお知らせします。

世銀(国際開発協会=IDA)は2002年より約2,500万米ドルを投じて、ドイツ政府やフィンランド政府とともに、「カンボジア土地管理運営事業(Cambodia LandManagement and Administration Project=LMAP)を支援してきました。LMAPは本来、カンボジアの土地登録管理制度の強化、都市・農村部での土地権証の発行の促進、土地紛争を調停する手続きの整備などを通して、カンボジア国民、とりわけ貧困層の間で土地所有権の法的安定を確立し、貧困削減に寄与する目的で計画されました。実際、農村部を中心に100万件以上の土地権証発行を実現するなど成果をあげ、この点はカンボジアのNGOも評価しています。

ところが今回の住民の異議申立てによると、LMAPを通して土地権を取得できるはずの住民が、「開発地域に居住している」といった理由でLMAPから除外され、強制立退きの対象になってしまっているということです。住民たちは現在のところに長年居住しているので、カンボジアの土地法でも認められた慣習上の土地権を根拠に強制立退きに対抗しますが、なまじLMAPによって土地権証が普及しているため、慣習上の土地権が以前ほど重要性を持たなくなっていると訴えています。

私たちは、現下の強制立退きや土地紛争の頻発の背景には、カンボジアの国内の土地制度の未整備や投機的開発問題があると考えています。LMAPを誠実に実施しなかったばかりか、投機的ディベロッパーの跋扈を放置あるいは公共用地の使用権を提供しさえしてきているカンボジア政府やプノンペンの市当局の責任は大きいでしょう。それとともに、大規模インフラ建設を優先するあまり国内制度の強化を十分に支援してこなかった国際機関や援助国、とりわけ世銀に多額を出資し、カンボジアの大援助国でもある日本政府にも責任があると考えています。

この問題で最も被害を受けているのは、またもや貧困層の人々です。世銀も日本政府も、今回の異議申立てに真摯に対応し、早急に問題解決に努めるとともに、これを契機に、依然としてインフラを偏重する対カンボジア援助政策自体を見直し、土地制度整備への支援などにもっとまじめに取組むべきでしょう。

メコン・ウォッチでは、LMAP専用のウェブページを新設しましたので、ご覧下さい。

また、11月28日(土)15時〜17時に、カンボジア市民フォーラム、上智大学アジア文化研究所と共催で、セミナー「カンボジアにおける立退き問題」を開催いたします(詳細はこちらをご覧下さい)。こちらにも、ぜひ、ご参加下さい。

なお、世銀の「インスペクションパネル」とは、世銀の支援する開発事業で、世銀が自らの政策や手続きに違反したせいで物理的な損害を被った(あるいは将来被ると考える)住民が、世銀内に常設した独立の調査委員会に直接異議を申立て、調査を要請することのできる制度です。詳細は、パネルのHPをご覧下さい。

また、パネルの活動の成果をめぐっては、メコン・ウォッチの出版物『被害住民が問う開発援助の責任:インスペクションと異議申し立て』をご覧下さい。


以下では、LMAPの概要と異議申立ての内容を簡潔にまとめてあります。

【カンボジア土地管理事業(LMAP)とは?】

LMAPは、カンボジアにおける土地権保障の改善と効果的な土地市場の育成を目指し、以下の三点を目的として導入された。
1.土地管理のために十分な国家政策、規制の枠組み、機関を確立
2.全国10県およびプノンペン市で土地権を登録・発行
3.効果的で透明な土地管理制度を確立

また、上記の目的を達成するために、以下の五分野で活動が実施された。
A.土地政策と規制の枠組みの確立
B.関連組織の確立
C.土地権プログラムと土地登録制度の確立
D.紛争解決手続きの強化
E.土地の管理

LMAPによって土地管理制度の整備が進み、農村部を中心に100万件以上もの土地権証が発行された点は評価できるが、同時に将来土地紛争が発生する地域は土地権証発行対象から除外されたため、そこに住む貧困層の住民は土地権証を取得できない。一方でLMAPが慣習上の土地権を土地権証の保持に転換しているので、土地権証のない住民が慣習上の土地権を盾に強制立退きから身を守ることは一層困難になってきている。

【住民の異議申立て内容】

1.住民は当該の土地の所有者であり、慣習上の土地権を示す文書も持っている。LMAPは正式な土地登録手続きを確立する目的であったにもかかわらず、住民たちに土地権証を発行しなかったことで、結果的に住民たちの慣習上の土地所有権を弱めた。

2.すでに900世帯以上の住民が立退かされ、今後も立退きが実施される恐れがある。立退きの可能性はIDAの「開発クレジット協約」でも想定されており、世銀の「移転政策の枠組み」が適用されなければならなかったが、実際には適用されていない。

3.事業の一部である「市民啓発・住民参加」活動を通してNGOを雇用し、住民に宣告・登録過程を周知し、LMAPへの住民参加を促す予定だったが、 NGOも雇用されておらず、多くの住民が土地権や登録制度について知らされていない。

4.LMAPで設立された紛争処理手続きである土地登記委員会は、受理した5,000件の申立てのうち2,000件が未処理のままであるなど、十分に機能しておらず、有力者が関与する案件では貧困層が不利な立場に立たされることもある。この問 題は、LMAPの評価でも指摘されており、貧困層に対しては法的支援が提供されるはずだったが、LMAPの実施後7年になる今でもそうした支援は実施されていない。

5.以上の点が、「非自発的移転」および「事業監督」といった世銀の政策・手続きに違反する。特に後者については、異議申立て住民の居住区をはじめ多くの地域で問題が発生していることを認識したにもかかわらず、その後のミッションがLMAPの各分野の実施状況に「適切」の評価を出し続けた。また、問題を解決する措置を講じないまま、2007年にLMAPを2年間延長した。


カンボジアにおける強制立退き問題」のページもあわせてご覧下さい。

(文責 土井利幸/メコン・ウォッチ) 

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