ホーム > 追跡事業一覧 > カンボジア > 土地管理運営事業(LMAP)
LMAPは、カンボジアにおける土地権保障(land tenure security)の改善と効果的な土地市場の育成を目指し、以下の三点を目的として導入されました。
1.土地管理のために十分な国家政策、規制の枠組み、機関を確立(the development of adequate
national policies, a regulatory framework, and institutions for land administration)。
2. 全国10県およびプノンペン市で土地権を登録・発行(the issuance and registration of titles)
3. 効果的で透明な土地管理制度を確立(the establishment of an efficient and transparent land
administration system)
また、上記の目的を達成するために、以下の五分野(components)で活動が実施されました。
分野A)土地政策と規制の枠組みの確立(development of land policy and regulatory framework)
分野B)関連組織の確立(institutional development)
分野C)土地権プログラムと土地登録制度の確立(land titling program and development of land registration
system)
分野D)紛争解決手続きの強化(strengthening mechanisms for dispute resolution)
分野E)土地の管理(land management)
LMAPによって土地管理関連法制度の整備が進み、政府職員に訓練が施され、農村部を中心に100万件以上もの土地権証が発行された点は、NGOもLMAPの成果として評価しています。
ところが、同時にLMAPでは、将来土地紛争の発生が予想される場所などは土地登録・土地権証発行から除外されたため、土地投機や開発を目論む企業などが目を付けた場所に住む貧困層の住民は、本来であればLMAPによって土地権証が発行されるのに、実際には土地権証を取得できませんでした。一方で、LMAPによって、これまで慣習上の土地権のみを保持していた人びとにどんどん土地権証が発行されてゆきます。そのため、土地権証を取得していない住民が、慣習上の土地権を盾にして土地投機を目論む企業などから身を守ることは一層困難になってきました。つまり、LMAPは、最も土地権証を必要とする人びとに土地権証を発行できなかったとも言えます。
2002年
2月 世銀がLMAPを承認
2006年
その後異議を申立てる住民の居住地するコミューンがLMAP下で土地登録の宣告区域(an adjudication zone)になると知り、住民がLMAPで確立した手続きによる土地所有権の調査を要請したが、当該の土地が開発区域にあたるとの理由で却下される。
2007年
1月 コミューン事務所に宣告区域であることが公示される。当局が当該および周辺の土地を民間業者にリースする協約に署名。この頃までに、開発区域外に住む400世帯に土地権証が発行される。
2008年
7月 世銀が定期事業監督ミッションで現地を訪問。ミッションはLMAPの問題を認識するがその後解決措置を取ったかどうかは不明
8月 リースを受けた民間業者の作業開始とともに、住民に対して立退きを強要する脅迫や嫌がらせが発生。同月、150以上の世帯に1週間以内の立退きを求める正式な勧告が出される。住民は、8,500米ドルの現金補償、20キロ以上離れた住宅への移転、20キロ以上離れた仮設住宅で移転前の土地に住居が建設されるまで約4年の待機、といった三つの選択肢から一つを選ぶよう言われる。
2009年
2月 NGOが世銀カンボジア担当課長にLMAPの問題点を指摘
4月 世銀が強化監視ミッションを実施
8月 世銀がセーフガード審査ミッションを実施。住民は世銀のセーフガード政策の適用による緊急措置を要請。同月、世銀副総裁がカンボジアを訪問、カンボジア政府高官と本件を協議
9月4日 カンボジア政府が世銀の対LMAP支援を停止。同日、住民代表が匿名で、「LMAPの事業計画・実施の不備により深刻な損害を受けた」と世銀インスペクションパネルに異議を申立てる。
9月24日 世銀パネルが異議申立てを登録
1. 住民は当該の土地の所有者(owners)であり、慣習上の土地権(ownership under customary tenure)を示す文書も持っている。LMAPは正式な土地登録手続きを確立する目的であったにもかかわらず、住民たちの土地権証を発行しなかったことで、結果的に住民たちの慣習上の土地所有権を弱めた。
2. すでに900世帯以上の住民が立退かされ、今後も立退きが実施される恐れがある。立退きの可能性はIDAの開発クレジット協約(Development Credit Agreement)でも想定されており、世銀の移転政策の枠組み(Resettlement Policy Framework)が適用されなければならなかったが、実際には適用されていない。
3. 事業の一部であるPublic Awareness Community Participation (PACP)を通してNGOを雇用し、住民に宣告・登録過程を周知し、LMAPへの住民参加を促す予定だったが、 NGOも雇用されておらず、多くの住民が土地権や登録制度について知らされていない。
4. LMAPで設立された紛争処理手続きであるCadastral Commissionは、受理した5,000件の申立てのうち2,000件が未処理のままであるなど、十分に機能しておらず、有力者が関与する案件では貧困層が不利な立場に立たされることもある。この問題は、LMAP Project Appraisal Document (PAD)でも指摘されており、貧困層に対しては法的支援が提供されるはずだったが、LMAPの実施後7年になる今でもそうした支援は実施されていない。
5. 以上の点が、世銀の政策・手続きのうち、OP/BP 4.12 Involuntary Resettlement(非自発的移転)およびOP/BP 13.05 Project Supervision(事業監督)に違反する。特に後者については、異議申立て住民の居住区をはじめ多くの地域で問題が発生していることを認識したにもかかわらず、その後のミッションがLMAPの各分野の実施状況に「適切」の評価を出し続けた。また、問題を解決する措置を講じないまま、2007年にLMAPを2年間延長した。
以下のページもあわせてご参照下さい。
「カンボジアにおける強制立退き問題」