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カンボジア土地問題 > 世銀パネルが住民の申立てに関する調査を開始

メコン河開発メールニュース2010年6月16日

世界銀行が約2,430万ドル(24億円)を投じてカンボジアで実施した「土地管理運営事業(LMAP)」に対して、2009年9月、プノンペン市内ブオンコク湖周辺に住む住民たちが世銀のインスぺクションパネルに政策違反の調査を要請した件は、先のメールニュース(2009年11月27日)でもお伝えした通りです。

住民の主張によると、LMAPは、慣習上の土地権を持つ住民の土地登録を促し、正式な土地権証の発行を推進する事業であったにもかかわらず、多くの住民が手続きから恣意的に除外されました。その結果、資格のある住民に土地権証が発行されず、一方で慣習上の土地権が弱体化し、ブオンコク湖周辺で持ち上がった開発事業のために、すでに900世帯もが強制的に立ち退かされました。残された住民も立退きの恐怖に脅えています。こうした事態は、世銀が自ら定めた政策である「住民移転政策の枠組み」に違反しているというのが本件の争点です(これまでの経緯については、メコン・ウォッチの「カンボジア土地管理運営事業」のサイトをご覧下さい)。

現地からの最新の情報によりますと、世銀のパネルは先月(5月)末に、いよいよ本件に関する現地調査を始めました。世銀の調査開始を機に、ブオンコク湖一帯の住民を支援している現地NGOのブリッジ・アクロス・ボーダーズ・カンボジア(BABC)がニュースを発しましたので、日本語部分訳でご紹介します。

昨今カンボジアで頻発している暴力的な強制立退きや土地紛争は、ブオンコク湖の例にも見られるように、カンボジアの民間による開発事業が引き起している場合がほとんどです。しかし、メコン・ウォッチでは、カンボジアに多額の開発援助を注ぎ込んできた援助国政府や国際機関にも責任の一端があると考えています。
カンボジアでは立退き住民の貧困化や土地紛争を予防・解決する制度が未整備であることを知りつつ、カンボジア政府に改善を求める政治力も発揮しないまま、多額の開発援助を投じてきたからです。しかも多額の援助で支えてきた道路改修事業などは、それ自体が立退き問題を発生させてきましたし、あるいは、LMAPに見られるように、制度整備を目的とする援助は約束された効果を達成できていません(詳しくは、メコン・ウォッチの「カンボジアにおける強制立退き問題」のサイトをご覧下さい)。

今後、パネルの調査が完了した時点で、結果は世銀の理事会に送られ、議論がたたかわされます。日本政府は米国に次ぐ大出資国として世銀に多額の資金を提供し、理事も派遣しています。日本政府がLMAPの引き起した問題にきちんと対処しつつ、世銀の出資国、さらにはカンボジアの大支援国として、カンボジアの強制立退き・土地紛争問題の解決にまで踏み込んで行けるのか、注目していきたいと思います。

数千人もの住民が強制立退きに直面する中、世銀がカンボジアの土地権事業を審査(部分訳)【訳注1】

ブリッジ・アクロス・ボーダーズ・カンボジア(BABC)
2010年6月2日

世界銀行の土地管理運営事業(LMAP)は、カンボジア全土で体系的に土地を登録し、土地権を発行することで、貧困層のために土地権を強化し、土地紛争を軽減するとのうたい文句で開始された。ところが、昨年ブリッジ・アクロス・ボーダーズ・カンボジア(BABC)と居住権・立退きセンター(COHRE)が発表した報告書【注】では、過去10年間に地上げや強制立退きが頻発し、その一方で、多くの社会的弱者世帯が土地権手続きから恣意的に締め出されている事態が明らかになった。手続きから除外されることで、これらの世帯は地上げから身を守り、収用された土地に対する十分な補償を得ることもできず、厳しい貧困状態へと追いやられている。
ブオンコク湖周辺【訳注2】に住む住民たちは、土地に対する法的権利を持つ有力な証拠があるにもかかわらず、2006年に一帯で土地登録が行われた際に土地権手続きから除外された。その後まもなく、カンボジア政府は一帯を民間のシュカク社に99年間リースするという違法な決定を下した。シュカク社は政権党であるカンボジア人民党の上院議員でフンセン首相の側近でもあるラオ・メン・キム(Lao Meng Khim)氏が会長を務めている。リースの対象となった一帯の住民の多くは、1979年のクメール・ルージュ政権の崩壊以降、一帯に法的に居住していたが、突然政府から、国家が所有する土地に違法に居座る者であるとの非難を受けることになった。

世銀のインスぺクションパネルは、ブオンコク湖周辺のような事態が発生しないために事業条件として盛り込まれていた環境・社会保全要件を、世銀がきちんと監督してカンボジア政府に実施させることができず、そのために世銀が自らの実施政策に違反したと言えるかどうかを調査している。「ガバナンスと法の実効に欠けることで悪名の高い国でこのようなリスクの高い事業を実施するには、そうした環境・社会保全要件が不可欠である」とCOHREの上級訴訟専門員のブレット・ティーラ(Bret Thiele)氏は語った。

 

【注】BABC, COHRE & Jesuit Refuge Service. 2009. Untitled: Tenure insecurity and inequality in the Cambodian land sector.
http://www.babcambodia.org/untitled/untitled.pdf

【訳注1】英語全文は、BABC. 2010. World Bank investigates Cambodian land titling project as thousands face forced eviction
http://www.babcambodia.org/newsarchives/World%20Bank%20investigates%20Cambodian%20land%20titling%20project%20as%20thousands%20face%20forced%20eviction.html

【訳注2】ブオンコク湖周辺の開発・立退き問題については、Save Boeung Kak Campaignのサイトをご覧下さい。
http://saveboeungkak.wordpress.com/

(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)

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