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パクムンダム>メコン流域の未来を人々の手に

メコン河開発メールニュース2010年8月30日

東北タイを流れるメコン河の支流ムン川に世界銀行の支援で建設され、甚大な漁業被害を引き起こし続けてきたパクムンダム。メコン・ウォッチの木口由香は、このパクムンダムの影響地に、1999年から通い続けています。メコン河開発メールニュースでは、この問題の経緯と最近の現地情報について5回にわたってお届けしてきました。

最終回はパクムンダムと日本の関わり、そして最近のメコン河流域開発の状況を踏まえてお伝えします。

第5回:メコン流域の未来を人々の手に

「このプロジェクトを中止していたら、メコン河流域のもっと必要とされるダムプロジェクトを阻止しようとするNGOの動きに勢いをつけてしまっただろう」。

1992年1月19日付け地元英字紙Nation紙に、世界銀行日本理事のコメントとして報道された言葉です。当時の日本理事は元大蔵官僚の白鳥正喜氏で、アメリカ、ドイツ、オーストラリアが世界銀行理事会でパクムンダムへの融資に反対した際、途上国の票を取りまとめ、融資を決定する原動力になったと言われています。

世界銀行(国際開発復興銀行)は「電力システム開発プロジェクトV」として5400万ドルを融資することで、パクムンダムを支援しました。当時、住民や現地・国際NGOの強い反対があったにも関わらず、世銀が融資を決めたのは、日本の強い意向が働いている、と現地では報道されました。(メコン・ウォッチでは2000年ごろにこの件に関して当時の大蔵省に情報公開を求めましたが、記録は残っていませんでした。)

それだけでなく世界銀行は、1998年の業務評価報告書で、「元々の計画では2万5千人が移転を迫られるはずだったが、環境社会影響を考慮して被害を最小限度にした」と、パクムンダムを積極的に評価しているのです。

世銀は、ダム開発が貧困削減に結び付くと主張しています。世界中で議論を呼んだラオスのナムトゥン2ダムは、世界銀行の支援がなければ建設は不可能でした。このダムは環境に最大限配慮し、その収入を「貧困削減」に充てることを目的として作られました。しかし、それが実現するのかは疑問です。

詳しくはこちらをご覧ください:

また最近、温暖化対策として大型の水力発電ダムを見直す動きも世界的に広がっています。

パクムンダムの影響住民は「ダムによって生活が困窮した」と訴えています。確かに、大型の水力発電ダムは発電時には二酸化炭素を出しません。しかし、ダムの陰には非自発的住民移転、それに伴う困難な生計回復など、多くの社会問題が生まれます。また、生物多様性の保全の観点から、ダムは明らかに生態系に多大な負の影響を与えます。これらが、世界中の多くの場所で、大型のダム開発に異議が唱えられ続けられている理由なのです。二酸化炭素の排出量や売電の利益だけを見て大型水力発電ダムをクリーンなエネルギーで「貧困解決の有効な手段だ」と言う世界銀行は、その論理でパクムンダムの影響住民を納得させることができるでしょうか。

今年は、世界中のダムをレビューして問題点を分析し、今後に向けた勧告をすることを目的とした世界ダム委員会(WCD)の報告発表から10年になります。この委員会は世界銀行と国際自然保護連合(IUCN)が中心となって設立を働きかけ、政府・企業・市民社会が共同で運営する独立した機関として1997年に発足したものです。

詳しくはこちらをご覧ください:

WCDのケーススタディでは、パクムンダムも取り上げられ、「問題点をきちんと考慮していれば建設されなかったであろう」と結論づけられています。

今、日本政府は「グリーン・メコンに向けた10年」といった提案を打ち上げています。メコン河流域が直面している環境、気候変動などの課題に各国と協力して取り組み「適切な現状把握を行い,喫緊の問題として,及び長期的な視野で取り組むべき分野を明確に」するなどして、豊かな環境を維持した「グリーン・メコン」を実現するというものです

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/j_mekong/pdfs/1007_gmi_concept.pdf

それを現実のものとしたいのであれば、WCDの勧告を重視し、パクムンダムのような過去に実施された事業の問題の解決も踏まえ、生物多様性保全の観点を取り入れメコン河の環境と開発について新しい青写真を描くことが必要とされています。その際は、当該国政府だけでなく、生活者である地域の人々の声に耳を傾けることが何よりも重要と考えます。

(文責:木口由香/メコン・ウォッチ)

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