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メコン河開発メールニュース 2006年5月24日
このところビルマの軍事政権の強硬姿勢が目立っています。2006年5月15日の朝日新聞夕刊は、『ミャンマー、強まる弾圧』と3段見出しで報じ、以下のように書いています。
『・・・軍政は反政府の少数民族組織「カレン民族同盟」(KNU)への攻撃も強める。この10年で最大規模と言われる攻勢は、数カ月前から始まり、避難者は1万人を超え、2千人近くが国境を越えてタイ国内に流入した』
万単位の少数民族を「貧困化」させているビルマ軍事政権に対して、日本政府は「中央乾燥地植林事業」という「貧困削減」のための無償援助(ODA)を出す予定です。人権侵害と貧困化を進めるビルマ軍事政権が要請した「貧困削減」事業に、多額の税金がつぎ込まれるのです。
ビルマ軍事政権がカレンの人たちに大規模な攻撃を続けるのはなぜなのか?その先にも、「巨大ダム」という更に大きな「開発」が控えているようです。
以下、メコン・ウォッチの秋元由紀の分析です。
2005年11月以来、ビルマ軍は東部のカレン人住民に対し1997年以来最大の攻撃を仕掛けています。人権団体などによれば、ビルマ軍は殺人、拷問、村や農作物の焼き討ちなどを行い、これまでに15000人以上が家を追われジャングルに逃げ込んでいます。一部は国境を越えてタイの難民キャンプにたどり着きましたが、大部分はビルマ軍の追跡を恐れつつ、屋根も食料もないままジャングルの中で生き延びるという絶望的な状態に置かれています。
カレン州はビルマ軍政の支配地域とカレン民族同盟(KNU)という反軍政武装勢力の支配地域とが入り組んでいますが、ごく単純化するとビルマ軍は西の平野部 、KNUは東の山間部を主な支配地域としています。ビルマ軍は毎年乾季(11月〜4月 ) にKNUやカレン人の一般市民に対して攻撃をしかけ、国境を越えたタイ側にまで攻撃が及ぶこともありました。攻撃の目的は支配地域の拡大、反対勢力の抑圧、木材などの天然資源の権益取得などとされています。
このように東に東にと支配地域を広げようとしているビルマ軍ですが、目指す先には何があるのでしょう。
ビルマ軍がこのまま東進すると、カレン州の東端に流れるサルウィン川に行き着きます。対岸はタイです。
タイ発電公社(EGAT)とビルマとは2005年5月に共同でタイ・ビルマを流れるサルウィン川上の複数の地点で水力発電開発を行う覚書(MOU)を交わしました (下記「背景」の項を参照)。
生産される電力の大部分はタイに輸出される予定です。開発予定の地点のうち、ウェイジーとダグウィンの2地点はタイ・ビルマ 国境上にあり、ビルマ側ではカレン州パプン県の東端に位置します。
ビルマとタイとはそれぞれ、内陸部からこれら2地点に到達する道路建設を始めています。ビルマ側ではウェイジー地点の近くに少なくとも800人の兵士が駐在しており、2005年12月にビルマ軍の歩兵大隊の監督の下、ウェイジー地点までの道路建設が始まりました。2006年3月下旬の時点で、この道路建設のために強制労働をさせられた500人以上のカレン人住民がこの地域から逃げ出しています。
さらに、2005年末にはパプン地区東部に駐屯していた守備隊が撤退し、入れ代わりに攻撃隊が到着しました。2006年5月5日現在、ビルマ軍による攻撃はパプン県東部にはまだ及んでいませんが、いつ始まってもおかしくない状態です。事実、現地からの報告によればパプン県の住民は、まもなくビルマ軍の攻撃が始まる予定なのでいつでも逃げられる準備をしておくように警告を受けているとのことです。
サルウィン川のさらに下流で水力開発計画が進んでいるハッジー地点の近くでは 、5月3日に測量作業をしていたEGAT職員が地雷を踏んで重傷を負いました(踏んだ地雷がどの勢力のものかは不明、ただし事故現場付近は軍政と停戦合意を結び、
KNUとは敵対関係にある民主カイン仏教徒軍の支配地域)。サルウィン川でのタイとの共同水力開発を進め、生産される電力をタイに輸出して収入を得たいビルマ軍政にとって、開発地点周辺を完全に支配下に置き「安心して」作業を進められるようにすることは火急の課題でしょう。サルウィン川でのダム開発が軍政の軍事戦略に組み込まれているとしても不思議はありません。
主な出典
タイ発電公社(EGAT)とビルマとは2005年5月に共同でタイ・ビルマを流れるサルウィン川での水力発電開発を行う覚書(MOU)を交わし、さらに同年12月には ビルマ・カレン州内サルウィン川上のハッジー地点を優先的に開発するという合意を結びました。
サルウィン川での水力開発については、環境破壊や周辺住民の生活手段の喪失だけでなく、カレン・カレンニー・シャン民族へのビルマ軍による迫害行為の悪化の恐れや不透明な意思決定過程などが問題とされています。詳しくはメコン・ウォッチのサルウィン川開発のページをご覧ください。
以下のメールニュースもご参照ください。