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以下の記事は、Ethical Corporation誌2005年12月掲載の記事「The China model of development」を抄訳したものです。
(2005年12月20日、エシカルコーポレーション、Ben Schiller記者)
中国企業の「グローバル化」に伴い、NGOは中国の海外における開発モデルに懸念を強めている。
2004年、アンゴラ政府は長年にわたる内戦からの復興資金としてIMFから新たな資金獲得交渉を進めていた。1975年のアンゴラの独立以来、IMFは長期にわたりこの国に汚職とガバナンスの欠如が蔓延していると認識したため、アンゴラ政府に対し汚職を減らし、経済管理を強めるよう要請してきた。
しかしIMFが強く迫るとアンゴラ政府は突然この交渉を蹴った。ある別の国から申し出を受けたためだ:20億ドルの借款が中国輸銀から示されたのだ。北京の申し出は最低利子率かつ寛容な償還期間で、IMFのコンディショナリティのようなものは一切なかった。アンゴラ政府は中国の申し出を受けた。
2005年2月、グローバル・ウィットネスは世銀とIMFに対しこの契約条件が非公開であることについてレターを送った。このNGOはこれまでヨーロッパの銀行によるアンゴラへの融資について非難してきた。レターは中国がIMFの立場を弱め、中国企業が行う再復興事業プロセスは透明性に欠ける、と述べている。
アンゴラで活動するヨーロッパ大手石油企業の企業責任マネージャーは、中国のパッケージが透明性の水準を大きく引き下げることによって西洋の企業が資源産業からの資金の透明化イニシアティブ(EITI)等の反汚職スキームを推進するのを難しくしてきた、という。アンゴラはこのスキームに署名しているものの、まだ執行していない。
融資条件について指摘する人もいる:建設契約の70%は、中国企業だけが入札できる。これにより資金が地元の技術やビジネスの発展に結びつかなくなる恐れがある。雑誌、アフリカ・コンフィデンシャルは融資の一部が2006年に行われる政府の再選挙キャンペーンに使われるようだという。
建設の再加熱にも関わらず、「貧困を削減するための教育、保健、衛生に使われるお金ははるかに少ない。」という。アンゴラは国連人間開発指標において177カ国のうち160位だ。
中国のアンゴラへの融資はそれほど珍しくない。
北京はこれまで海外においてエネルギー供給を確保し、企業利益を拡大するため、アフリカ、ラテン・アメリカ、アジアの多くの国へ低利融資をしてきた。中国のエネルギー企業の「ビッグ・スリー」―CNPC、シノペック、CNOOCはこれまでアンゴラを含め多くの場所で石油とガス採掘権を買い取ってきた。
また中国の建設会社はアフリカにおいて独占的にダム、通信ネットワーク、鉄道、ホテル、空港と他の主要なインフラ・ストラクチャーを建設してきた。
中国研究者は、少なくとも短期的には中国の目的は必ずしも利益ではないという。途上国での影響力を強め、西側政府と企業の力を弱めるためだという。
国際問題における外国の「介入」を避けるこうした中国の国際開発モデルは、透明性、人権、あるいは貧困国の「キャパシティ」を改善しようとするNGO、国際金融機関、西側の企業から懸念が強まっている。北京は「グローバル化」政策においては何もせず、国内では汚職、労働者の安全、環境等の面で企業責任の水準を強めているにもかかわらず、海外における中国企業の活動には盲目的支持を与えているのではないか、と懸念されている。
かわってこれで西側企業が中国のカウンターパートと競争することになるのではないか、と恐れる人々もいる;安い融資、外交圧力、武器の販売、軍隊への支援に支えられ、中国企業は何でもありというように水準を引き下げている。
「他企業との直接的な競争に直面した場合、中国のアプローチはより少ない透明性、より少ない説明責任というものだ。」とロンドンの国際問題のシンクタンク、Chatham Housのアフリカ・プログラム長、アレックス・ビーナス氏は言う。
中国のエネルギー企業は、まだ企業責任を理解し始めたばかりである、とディべロプメント・オルタナティブズのジョナサン・バーマン氏は述べる。この企業は途上国で営業する企業や政府にアドバイスを行っている。「中国の大手エネルギー企業は現在、多くの西側企業が企業責任プログラムの初期の段階で行ったように、健康、安全、環境に重点を置いたアプローチを取っている。」と彼は言う。
世銀等、より大きな機関の関与や、西側からの資本の必要性など企業責任の評判による利益は中国企業がこの問題に真剣に取り組むことを促進すると考える研究者もいる。
しかし問題は、バーマン氏が言うように「ノーム(基準)が中国に影響を与えるかというより、中国がノーム(基準)に影響を与えはしないか」というところにある。
OECDによる中国の企業ガバナンスに関する報告書は、民間セクターの活動を育てる政府の制度改革について賞賛する。しかしまだ多くの国有企業が改革されず、取締役会など本質的なガバナンスの仕組みを作っていないという。この報告書では中国企業は独立性を欠き、強い政府の介入、政府がコントロールする市場規制、気まぐれな司法システムの中で活動している、と述べられている。
他の旧社会主義国(もし中国がそうであれば)同様、中国のビジネスは長年、労働者や地元コミュニティへの住宅供給、医療、娯楽施設など社会的規定への責任を負ってきた。北京のERM social consultancyディレクターのマーク・エディ氏は、こうした活動はしばしば企業責任キャンペーナーが中国企業を批判する時に見過ごされてきた、と言う。彼は中国における近年の国内反汚職政策の進歩―中国は近年、多くの汚職ビジネスマンを刑務所に入れ、刑を執行してきた―、や環境管理プログラムの発展における進歩を強調する。
しかし中国の海外でのビジネスについては、これまであまり注目されてこなかった。理由はこうした中国企業はまだ国境を超え始めたばかりだからだ。中国はまだOECDの反汚職条約やEITIのような国際的な反汚職イニシアティブに署名していない。2003年には国連腐敗防止条約に同意したが、この条約はOECDの条約よりもずっと弱いという。
最近、ビジネス原則プログラムを国内で始めたトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)アジア部ディレクターのピーター・ロッキー氏は、中国が汚職を真剣に捕らえていると信じる。しかし彼はまた海外のより厳しい水準と中国の国有企業についてのしっかりした考察が必要だと考えている:「中国企業が他国への投資を拡大しているため、より良い国際水準が必要だ。」
中国の企業責任の水準の弱点は、多くの中国の投資が集中する途上国で顕著にあらわれる。そしてまたこの弱点はしばしば石油がらみだ。アフリカでは、CNPC、SinopecとCNOOCはナイジェリア、アンゴラ、スーダン、アルジェリア、ガボンなどを含む17の国との開発交渉がストライキにより決裂したままだ。
ラテンアメリカでは、三大企業はベネズエラ、ペルー、エクアドル、アルジェンチーナ、ボリビアなどで活動している。
中央アジアでは2005年10月にCNPCがカザフスタン石油を獲得し、CNOOCがビルマで操業を開始した。2004年10月には中国は1000億ドルをイランの石油とガスに投資することに合意した。
多くの世界的な主要石油供給はすでに契約下にあるため、中国は(人権やイデオロギー等の理由で)現在、ワシントンと関係の悪い国々に目を向けている。
中国の石油会社は少なくとも20億ドルをスーダンに投資した―アメリカの制裁、ダルフールでの虐殺、NGOの大々的な反投資キャンペーンを無視して。スーダンは現在、中国の石油輸入の少なくとも5%を占めている。また中国の投資は(特にヒューマン・ライツ・ウォッチによると)武器輸入や中国の技術に頼った武器産業に資金を提供しているという。
北京はまた世界的に評判の悪いジンバブエにも盲目的である。ロバート・ムガベ大統領はたいへん親中国的だ。国営の中国国際水電は25万エーカーのトウモロコシ畑を提供、北京政府は戦闘機や軍用トラックなどを提供している。2005年夏、支援を失ったムガベ大統領は自国の鉱山採掘権を中国の融資と引き換えに売却した。
中国の環境に関する行動もまた非難を浴びている。国際河川ネットワーク及び地球の友が2005年7月に出したレポートは中国輸銀がビルマのイェユワダム、スーダンのMeroweダム、ラオスのナムマン3ダムなどのプロジェクトに資金提供していることを非難している。
ここでは中国輸銀が韓国やトルコ同様、OECD諸国の多くのECA(輸出信用機関)が採用している環境ガイドラインに署名をしていない、と指摘されている。こうしたガイドラインは「コモン・アプローチ」と呼ばれ、ECA(輸出信用機関)に対してプロジェクトの環境レビューを関連するホスト国と国際標準に従うことを強制するものだ。
2004年末、中国輸銀は、輸銀自身の環境ガイドラインを採用した;しかしNGOはこのガイドラインが一般の人々、あるいは輸銀にかわり資金を提供する商業銀行にさえ公開されていないことを指摘している。
この報告書は中国輸銀がビルマやスーダンなど人権面でひどい過去を持つ国に融資をしているにも関わらず、人権などに関する何の明確な政策を持っていないと述べている。
一方で、アフリカでは中国が経営する鉱山開発の影響についてさまざまな懸念が表されている。この中にはザンビアやコンゴにおける銅山、モザンビーク、ケニヤ、タンザニア、マダガスカルなど一部の生態的に脆弱な地域におけるチタン砂プロジェクトなどが含まれる。
さらに中国はインドネシア、カメルーン、コンゴ、あるいは赤道直下のギニアにおける違法伐採の主要輸入国である。正確な数字を把握するのは困難だが、www.globaltimber.org.uk によれば、2004年、中国により輸入された木材の50%が違法であった。中国のビジネスもスーダンやジンバブエ等で象牙の密輸を行っている。Care for the Wild Internationalによれば中国企業はスーダンの象牙の75%を買っている。
拡大要求のなかで開発の専門家は、中国がより古い、原始的な開発のスタイルを再び活気づけ、現地の人々に役立たない「役立たずの無用の長物」や「巨大事業」を再建するだろうと言う。
エチオピアでは洪水による被害の後に中国の国営企業である江西国際が400万ドルの新たな住宅を建設した。しかし住む場所のない人々への住居を提供するかわりにこの住宅は結局、軍の職員によって使われることになった。江西のマネジャーは後にウォールストリート・ジャーナルに対して「これは私たちにとっても政治的タスクであり、エチオピア政府が満足する限りにおいて、われわれは目標を達したのだ。」と述べる。
中国の海外投資の特徴は、現地の人々ではなく中国人を雇用することだ。何千人もの中国人労働者と技術者がエチオピアの3億ドルのTakazeeダムを建設するため輸入された。スーダンでは中国人労働者が石油パイプラインを建設した;7万4000人の中国人がスーダン国内に留まり、1万人がCNPCによって雇用された。
中国人労働者はナミビア、ジンバブエ、その他の多くのアフリカ諸国でも雇用されている。ヨハネスブルグの南アフリカ国際問題研究所のアフリカ研究者、ロス・ハバート氏は、中国人労働者の雇用は現地の人々の何の長期的利益ももたらさないと言う:「財政的利益はすべて中国に還元される」。
Chatham Houseのアレックス・ビーナス氏は重要な点を繰り返す:「多くの若者を抱えるアフリカにおいては雇用問題が最大の焦点のひとつだ。中国は自国の労働者を運び込みながら、アフリカ人を雇うというリップサービスをしている。」
こうしたアフリカへの攻撃的な押しは地元の人々や一部の現地ビジネスから反発を招いている。
例えば、WTOは中国の繊維製品輸入の洪水が南アフリカの繊維産業の怒りを招いていることを扱っている(彼らはこれを中国の「繊維の津波」と呼ぶ)。結果としてケニア、レソト、スワジランド、ウガンダ、マダガスカルなどの地元の工場が閉鎖を余技なくされた。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際関係学部のクリス・オーデン教授は、これらの理由にからアフリカの一部では中国からの投資に対する不安が高まっている、と述べる。「こうした閉じた社会での特徴として、相対的な富は現地の怒りや対立さえ生む。こうした現象は東南アジアでも見られる。」
中国企業がこうした傾向を変えられるかどうかは疑問である。ケープタウンにある中国水準センターのマーチン・デービス氏は、中国企業は地元の人々との関係を築くための努力が必要だ、という。彼は緊張関係は文化的誤解に繋がると考えている:「多くは信頼の欠如によるものです。中国は市民社会との関係を打ち立てるため十分なことをしていません。」と述べる。
中国企業が「何でもありの奴ら」ではなく、良き企業市民、責任あるアクターとして自らを打ち立てるためには、多くの努力が必要だ。
北京の「グローバル化」キャンペーンに戻れば、中国の悪名高い企業行動は今後何ヶ月、何年間にわたり監視してゆく必要がある。