ホーム > 政策提言 > アジア開発銀行アカウンタビリティ・メカニズム
アジア開発銀行(ADB)は、メコン河流域国のみならず、アジア太平洋各地でインフラ建設を中心とする開発事業に資金を提供し、様々な環境社会影響を引き起こしています。事業によって引き起こされる問題を解決し、ADBのアカウンタビリティを確保するために、2003年から「アカウンタビリティ・メカニズム」が設置されています。メコン・ウォッチでは、制度設計に向けた政策提言活動を行い、現在はその運用の監視を行っています。
事業による影響を受ける住民やNGOからの声を受け、ADBは1995年、影響住民の異議申立てを受け付ける「インスペクション機能」を設置しました。この制度は、影響住民からの訴えに基づいて、理事会の下に設けられるインスペクションパネルが、事業がADBの政策・手続きに沿って行われているかどうかを調査し、改善策を提案するものです。
しかし、パネルの独立性が低く、英語で訴えなければならないなど住民にとって使いにくい制度だったため、実際にパネルによる調査が行われたのは2回だけでした。最初の調査となったサムットプラカン汚水プロジェクトでは、パネルが政策違反を指摘し、ADBの政策に多大な影響を与える一方で、インスペクション機能自体の問題点が明らかになり、ADBは制度の見直しを始めるに至りました。
制度の見直しの過程では、政策案が3段階で公開されパブリックコメントを募集したほか、世界各地で協議会が開催されるなど、透明性の高い議論が行われました。各国政府のほか住民組織・NGOを巻き込んだ制度改革の議論を経て、ADBは2003年に新しくアカウンタビリティ・メカニズムを設置しました。
アカウンタビリティ・メカニズムは2つのフェーズからなります。
コンサルテーション・フェーズでは、影響住民の訴えに基づき、ADB総裁直属の特別プロジェクト・ファシリテーターが、関係者からの聞き取りを行い、問題解決の方法を提案し、これに基づく対話・協議などが行われます。影響住民は、提案された協議の内容やそこでの合意内容に不満があれば、次の遵守レビュー・フェーズに進むことができます。
遵守レビュー・フェーズでは、理事会の下に置かれた常設の遵守レビュー・パネルが、訴えのあったプロジェクトについて、ADBの政策違反を調査し、ADBが取るべき措置について理事会に提言します。パネルは、理事会が承認したパネルの提言の実施状況について監視することとされています。
新しいメカニズムでは、旧インスペクション機能や世界銀行インスペクション・パネルと比較して、以下の点が改善されています。
一方、まだ改善すべき点も残っています。特に、パネルの現地訪問や事業への融資の停止・中止などについて、強制的な措置を取ることができない点について、NGOから批判の声が挙がっています。
アカウンタビリティ・メカニズムは現在運用段階に入っていますが、すでにいくつかの問題が生じています。特に、コンサルテーション・フェーズについては、特別プロジェクト・ファシリテーターに負うところが大きくなっています。メコン・ウォッチでは、メカニズムの実施状況を監視し随時改善策を提言すると同時に、メコン河流域での問題事業においてメカニズムを活用できるよう、情報提供を行っています。