ホーム > 政策提言 > JICA環境社会配慮ガイドライン > JICA環境・社会配慮ガイドライン案へのコメント
2004年2月6日
(特活)メコン・ウォッチ 代表理事 松本 悟
緊急時の例外を認めるとするならば、ガイドラインの手続きをとると明らかに人命に重大な影響を及ぼす場合に限るべきである。その点で、原案の例示としている「紛争後の復旧・復興」は不適切である。紛争後は内部対立などが残っており、「2.7社会環境と人権への配慮」がより重要になる。また、開発調査や技術協力プロジェクトで緊急時の例外規定は必要ない。したがって、「緊急無償(一般無償などではない)の場合で、かつ自然災害の救援など、ガイドラインの手続きを全て遵守すると明らかに人命に重大な影響を及ぼす場合」というように限定すべきである。
例外を認める場合のアカウンタビリティの確保は、透明性を確保した審査諮問委員会での検討が現在考えうる中では最も適当な措置と考える。しかし、原案の記述はあまりに曖昧過ぎて、歯止めが公開性にしかない。したがって以下のような文言を加えるべきである。「緊急時においてもカテゴリ分類は必ず実施し、カテゴリAについては緊急時の例外措置を認めないことを原則とする。その上で、審査諮問委員会は(1)緊急時に相当するかどうか、(2)カテゴリ分類は適切かどうか、(3)ガイドライン手続きのどの部分を簡略・省略できるか、(4)簡略した手続きに沿った調査等が適切に実施されているか、(5)調査結果を受けて支援を行うべきかどうか、(6)支援する場合の留意点・モニタリングの方法をどうすべきか、について検討を行い答申する。答申の内容とそれに対するJICAの対応については、情報を公開する」。
詳細設計調査については、「入札行為に影響を及ぼさない範囲で最終報告書を完成後速やかに、ウェブサイト上、JICA 図書館と現地事務所で情報公開する」とある。「入札行為に影響を及ぼす範囲」が明確ではなく、濫用される懸念が残る。一方で、同様に入札に関わる無償資金協力の基本設計調査については、全て公開になっている(3.5.2カテゴリBの調査、項目2)。また、ODA予算、とりわけ一般無償の縮減に伴い、詳細設計調査を基本設計調査に入れ込むことをJICAが検討していると聞く。そうなると、基本設計調査段階から、「これは詳細設計調査だから」と言って、情報公開を限定的にする懸念が強い。入札の公平性は公開することによって担保されるし、非公開こそが官民癒着を疑われる元凶である。「入札行為に影響を及ぼす範囲」を削除すべきである。更に、万が一に、どうしてもJICAが原案を変更しない場合、「入札が終了すれば詳細設計調査の最終報告書が公開される」という文言は、最低限明記すべきである。
項目2で、「JICAは、環境影響評価が実施されている場合又は本ガイドラインに基づいて開発調査がなされている場合であって、改めて環境社会配慮調査を行う必要のない場合、基本設計調査(B/D)を行う」とある。しかし、当面旧ガイドライン下での開発調査が無償資金協力に回されることが考えられる。その場合、開発調査を新ガイドラインに基づいてやり直させるだけの意思がJICAにあるのかどうか疑問である。もし、なし崩し的に質の悪い開発調査に基づいて基本設計調査に入ってしまった場合、新ガイドラインには基本設計調査中の環境社会配慮が全く記述されていないので、ガイドラインの実効性に疑問が持たれる懸念がある。この点について、JICAの考えを明らかにして欲しい。
JICA環境・社会配慮ガイドライン改定委員会の提言では、ガイドラインを実施するためのJICA側の実施体制を提言しているが、原案では実施体制はガイドラインに含まれていない。実施体制の記述がガイドラインにそぐわないというのであれば、ガイドラインと不可分の文書としてパブリックコンサルテーションに提示すべきである。実施体制の案がなければ、このガイドラインの実施をどのように担保するかがわからない。特に、環境社会審査を行う部局がどこまで権限を持つのか、人員などの面でその権限を行使できる体制を持てるのかが重要である。