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JICA環境社会配慮ガイドライン第5回改定委員会
2003年4月25日 松本 悟
世界銀行の環境アセスメント政策(OP4.01)では、(1)大気・水・土地等の自然環境、(2)人間の健康と安全、(3)非自発的移転・先住民族・文化的遺産等の社会的側面、それに(4)越境的・地球的な環境の側面を対象にしている。その上で、自然環境と社会的側面を統合的に扱うとしている。
世界銀行のセーフガード政策見直しにも関係する「社会開発戦略」のイシューペーパーの中で、「社会的」には、(1)社会セクターということばで表されるものと、(2)社会福祉や社会的保護ということばで表されるものの2つがあると定義付けている。社会セクターとしては、衣食住・保健衛生・教育という基礎的ニーズ分野が対象となり、一方の社会福祉や社会的保護という視点からは、貧困層や社会的弱者(disadvantaged)が対象となる。
これは、国際協力銀行環境社会配慮ガイドライン第2部の「検討する影響のスコープ」の最初の項目と「社会的合意及び社会影響」の2番目の項目に相当している。国際協力銀行のガイドラインに盛り込まれている「検討する影響のスコープ」「社会的合意及び社会影響」「非自発的住民移転」「先住民族」は少なくとも含まれなければならない。
Frank Vanclay(Center for Rural Social Research, Charles Stuart University, Australia)が集めたところ以下の影響がしばしば社会影響として扱われている。景観面での影響、文化遺産への影響、コミュニティへの影響、文化的な影響、人口面での影響、開発への影響、経済・財政面での影響、ジェンダー的な影響、健康面での影響、先住民族の権利への影響、社会基盤への影響、制度的な影響、政治的な影響(人権、ガバナンス、民主化等)、貧困面での影響、心理的・精神的な影響、資源面での影響(アクセスや所有)、観光面での影響。このうち、過去の開発事業による環境社会被害を見ていると重要なのは、
JICAは2001年度に民主化支援について研究を行い、「民主化支援のあり方(基礎研究)報告書 民主的な国づくりへの支援に向けて―ガバナンス強化を中心に―」(国際協力事業団、国際協力総合研修所、2002年3月)をまとめた。この中で民主化の目的を「政治的自由などの基本的人権の尊重及び政治参加を促進し、また参加型開発の推進にも適した政治・行政・社会を構築する」とし、開発の視点から見た場合は「開発成果を持続させるための仕組みと能力」と整理している。その上で、「民主的制度」「民主化を機能させるシステム(政府と市民社会のガバナンス)」「民主化を支える社会・経済基盤」の3つが不可欠だとまとめている。別の言い方をすれば、日本が民主化支援を必要と考えるような被援助国では、程度の差はあれ「開発成果を持続させるための仕組みと能力」が不十分だということである。
この分析を環境社会配慮の点から再構築すれば、ここでいう民主化が進んでいない国では、開発事業に伴う環境社会影響に対して適切な配慮をする仕組みと能力の面で、問題があることが十分に予想される。「民主化と環境社会配慮の特性」とは、環境社会配慮において、事業を実施する国や地域で民主化に重要な上記の3つの側面がどのような状況かを考慮して適切な対応をとることを意味している。
具体的な事例として「【ビルマにおける調査の可能性と限界】国際労働機関(ILO)の2001年9月ハイレベルチーム調査〜ビルマでの強制労働に関する調査〜」という資料を添付した。軍事政権下で、上記でいう民主的制度や民主化を機能させるシステムが極めて十分なビルマ(ミャンマー)において、住民の自由な意見にできる範囲で近づくために国際労働機関(ILO)がどのような配慮をしながら現地調査を行ったかをまとめたものである。一方で、同時期に外務省・JICAがビルマで行った無償資金協力案件のバルーチャン第二水力発電所改修事業に伴う社会影響調査では、常に軍事政権が同行する中で、問題なしという聞き取りを住民から行っている。ビルマだけでなく、例えば隣国のラオスやベトナムといった社会主義政権の国でも、程度の差こそあれ、民主的制度やそれを機能させるシステムの現状を考慮した上での、事前調査・事業実施が必要である。また、民主化を支える社会基盤と定義された識字率や教育水準、あるいは経済基盤とされた道路整備が低い地域で実施する情報提供や住民参加を意味あるものにするために特別な配慮が必要であろう。
以上の背景から、事業の検討、調査、事業の実施やモニタリングにあたっては、当該国や地域の「民主的制度」「民主化を機能させるシステム(政府と市民社会のガバナンス)」「民主化を支える社会・経済基盤」に十分配慮すべきである。