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実施体制その他
JICA環境配慮ガイドライン改定
2003年7月14日 メコン・ウォッチ 松本 悟
III 実施体制
1.JICAの実施体制
1−1 環境社会審査室(仮称)の設置
- 要請段階からモニタリング及びフォローアップ段階まで、JICAの協力事業が本ガイドラインを遵守して適切に実施されるよう、環境社会審査室(仮称)を設置する。
- 環境社会審査室(仮称)は協力事業を行う各部から独立した組織として設置されるべきである。
- 環境社会審査室(仮称)は環境配慮面のみならず社会配慮面での専門性を保ち、協力事業における本ガイドラインの遵守を確保できるよう十分な組織と体制を備えるべきである。
- 環境社会審査室(仮称)は、JICA協力事業に関わる各段階での意思決定において、環境社会配慮面の審査に責任を持つと同時に、役員レベルで環境社会配慮面に責任を有する者を置くべきである。
1−2 環境社会審査室(仮称)の責任と役割
検討のポイントは「JICAにとって審査とは何か?」である。JBICの場合は、『融資する』という意思決定をするかどうかを環境社会面から審査するという明確な役割があった。JICAの場合は意思決定が何なのかが明確化されていない。プロジェクト形成を一緒に進めたのでは審査にはならない。いわばJBICのF/Sとも言える案件形成促進調査(SAPROF)では、環境審査室がどこまで関与すべきか、議論があると聞いている。ここでは、『JICAが協力事業を進めるかどうかを判断する段階』及び『JICAが協力事業の結果を内部で決定する段階』が重要な意思決定ではないかと想定した。したがって、審査とは、@『JICAが協力事業を進める』という意思決定をするかどうかを環境社会面から審査すること、A『JICAが協力事業の結果を内部で決定する』際に、それが本ガイドラインを遵守しているかどうかを審査すること、という2つの側面があると考える。
- 協力事業の以下の段階で、環境社会審査室(仮称)は協力事業を担当する部局と連携をとりながら、協力事業を実施すべきかどうかというJICAの意思決定に反映するため審査を行う。
- それ以外の段階でも、必要に応じて環境社会審査室(仮称)は、協力事業を担当する部局に対して、アドバイスを行う。
1−2−1 開発調査
- 要請時の全案件のスクリーニングとそれに基づいた環境社会配慮面での審査及び外務省への意見/提言の作成
- 事前調査時のスクリーニングの再確認
- カテゴリーA及びB案件に関しては、S/W及びJICAが行う環境社会配慮調査の報告書の作成
1−2−2 無償資金協力
- 要請時の全案件のスクリーニングとそれに基づいた環境社会配慮面での審査及び外務省への意見/提言の作成
- 予備調査時のスクリーニングの再確認
- カテゴリーA及びB案件については、環境社会配慮調査のスコーピング及び調査報告書の作成(第12回委員会で、外務省の山田委員が、カテゴリーAが全て開発調査に回されるとは限らないと発言したため、一応カテゴリーAもここに含む。ただし、山田委員の発言内容は、相手国政府が適切な現地環境影響評価などを実施し、JICAによる調査そのものが必要ないカテゴリーA案件の場合を想定していたと理解している。その場合は、すぐに審査に入ってもいいのかもしれない)
- カテゴリーA及びB案件については、外務省は財務実行協議前に自らの意思決定を行うに先立ち、JICAに対して対象プロジェクトの環境社会面での審査を実施するように指示し、環境社会審査室(仮称)がそれを担当する。審査において環境社会審査室(仮称)は国際協力銀行の海外経済協力等業務に準じた手続きと環境社会配慮確認を行う。
1−2−3 技術協力プロジェクト
- 要請時の全案件のスクリーニングとそれに基づいた環境社会配慮面での審査及び外務省への意見/提言の作成
- 事前調査時のスクリーニングの再確認
- カテゴリーA及びB案件に関しては、JICAが行う環境社会配慮調査の報告書の作成、及びR/D
- 中間評価、終了時評価、事後評価
1−2−4 外部専門家委員会
- カテゴリーA案件については、協力事業の実施に助言を与え、事業の透明性とアカウンタビリティ向上を目的に、環境社会配慮のための外部専門家委員会を設置する。カテゴリーB案件についても必要に応じて設置する。
- 外部専門家委員会は、当該協力事業に直接利害関係を持たない研究者、学者、NGO、企業などから成る。
- 外部専門家委員会の議論は公開を原則とする。
1−2−5.職員研修の実施及びステークホルダーの理解促進
- JICA本部と在外事務所の職員(環境社会配慮だけでなく、協力事業や情報公開に携わる職員全て)、及びコンサルタントや専門家が本ガイドライン及び開発援助機関の環境社会配慮について十分理解するように研修等を行う。
- 関係府省の担当官や在外公館の経済協力担当官が本ガイドライン及び開発援助機関の環境社会配慮について十分理解する機会を設けるよう、外務省等の関係府省に求める。
- 環境社会配慮ガイドラインについては日本語/英語でJICAのホームページに掲載することはもちろん、主要な被援助国では、住民たちも読むことができるように、暫時現地公用語へ翻訳することが必要である。また、被援助国政府に説明すると同時に、関心を持つNGO、専門家、企業(現地コンサルタント)などを対象にしたセミナー等を通じて、ガイドラインの内容に関する市民社会の理解を深めることが重要である。
2.日本政府の体制【提言】
- 実施体制や専門性に鑑み、カテゴリーA及びB案件に相当する無償資金協力事業の環境社会面での審査を、JICAに委託することを強く求める。
- 全てのスキームにおいて実施の意思決定を行うのが外務省等日本政府であることに鑑み、特に外交的な判断等によってJICAの意見や提言と異なる判断を下す際に、それに対して政府としての説明責任を果たせる体制を整えることを強く求める。
3.作業監理委員会
- 環境社会配慮のための外部専門家委員会が設置された案件の作業監理委員会については、外部専門家委員会のメンバーを作業監理委員会に加える。そうでない場合で、環境社会影響が懸念される場合は、適切な環境社会配慮分野の専門家を委員として委嘱する。
- 作業監理委員会は、当該協力事業に直接利害関係を持たない研究者、学者、NGO、企業などから成る。
- 作業監理委員会の議論は、原則として公開とする。
4.ガイドラインの遵守
- JICAは、本ガイドラインに示された方針や手続きを適切に実施し、ガイドラインの遵守を確保しなければならない。JICAはその一環として、本ガイドラインの不遵守に関する異議申し立てを受け付け、必要な調査と意見具申をするため、協力事業を実施する部局や審査担当部局から独立した理事長直属の機関を設置する。
- その機関の主な役割は、JICA協力事業の対象プロジェクトによって引き起こされた、もしくは引き起こされる可能性が高い環境社会面での被害が、JICA協力事業における本ガイドライン不遵守に原因があるかどうかを現地調査等によって明らかにし、必要な対応策や解決策をJICA理事長に提言するというものである。
- 詳細な手続きに関しては、本ガイドライン制定後半年以内に、透明性と公開性を確保したプロセスによって新たに定めることとする。
5.ガイドラインの適用及び見直し
- 本ガイドラインは平成16年4月1日に制定し、平成16年度に要請が行われる案件から適用する。通常要請は8月末で締め切られるので、実質的には平成16年9月以降の施行になる。次の要請からとなれば、平成17年8月末に要請書が出された案件から対象となることを意味し、事実上1年半の準備期間があることになる。
- 本ガイドラインの運用実態については、施行後5年以内に包括的な見直しを行い、必要に応じて改定する。
- 包括的な見直しにあたっては、日本政府、発展途上国政府、発展途上国の住民やNGO、日本のNGOや企業、専門家等の意見を十分に聞いた上で、透明性とアカウンタビリティを確保したプロセスで改定を行う。
IV その他の重要事項
1.他のガイドラインとの関係
- 平成16年8月末までに、JICAがこれまで作成した課題別指針やガイドラインの準じる文書類において、環境社会配慮上の遵守が求められる項目を抽出し、本ガイドラインの遵守の対象とする。その際、透明なプロセスを確保し、関心ある人々の意見を十分にふまえたもにしなければならない。
- 必要に応じてセクター別ガイドラインを本ガイドラインに則って改定する。
- 本ガイドラインの目的を達成するため環境社会配慮上必要と考えられるガイドライン(世界銀行で言うセーフガード政策、例えば先住民族、非自発的住民移転、紛争地域におけるプロジェクト、国際河川におけるプロジェクト等)については適宜作成する。
2.無償資金協力
- 本ガイドライン改定委員会の端緒となった「外務省を変える会」の提言に立ち返り、無償資金協力についても同様のガイドラインを策定するか、内容面では本ガイドラインを適用した上で適切なプロセスを定めるべきである。
3.各省ODA
- JICAの開発調査に類似した機能を持っている機関(例えばJETRO)は、JICAの環境社会配慮ガイドラインと同様のガイドラインを策定するか、実質的に本ガイドラインを適用すべきである。
4.外務省等日本政府への提言
- 本ガイドライン改定委員会では、JICAの業務範囲を超えて、外務省等日本政府の役割にも踏み込んで提言を行っている。関係府省に対しては、この提言を踏まえた制度構築を強く求める。その結果については、本ガイドライン改定委員会のフォローアップ委員会で報告して欲しい。
5.経験等の組織的共有と蓄積
- JICAはこれまで様々なテーマで研究を行っている。本改定委員会でも民主化、経済評価、ソーシャルキャピタルなどの研究会について触れられた。こうした研究結果が、オペレーションにどこまで適切に反映されているのか、あるいはガイドラインの議論にどの程度反映されたのか疑問がある。JICA(国総研)による研究を、環境社会配慮ガイドライン等協力事業の適切・効果的な実施につなげる努力が必要である。本ガイドラインの次期見直しまでに、関連する研究・調査報告書をレビューした上で、ガイドラインの見直しに反映させるべきである。
- 今回の改定委員会では、JICA自身がレビューした過去の案件の問題点が提出され、議論の端緒となった。その一方で、「プロジェクト研究」の報告書が2年間もたなざらしにされた事実も明らかになった。JICAは、環境社会配慮ガイドラインの適切な運用を確実にするため、こうした過去の案件についての批判的な検証を外部者も交えて公開性を保ちながら積極的に行うべきである。
(了)