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インタビュー : タイ国立ウボンラチャタニ大学 スラソーム・クリサナヂュータ専任講師 

ダム建設予定地のあるウボンラチャタニ県には、県名を冠した国立大学があります。同大学は、政府と住民が20年近く対立するパクムンダムの水門解放時の調査を行ったことでも知られています(フォーラムMekong vol.4 No.4参照)。ここで社会学の教鞭をとり、バーングムダム建設予定地で村落調査を実施しているスラソーム・クリサナヂュータ専任講師にお話を伺いました。(インタビューは2008年10月に実施)

事業の不明遼なプロセス
イタリアンタイ社による調査が継続しています。サマック政権は就任後1か月という時期に民間企業に実現可能性調査を発注することを決めています。タイとラオスの間でメコン河における電力開発協力の覚書の議論が始まったのは2008年3月11日で、25日には締結されてしまったのです。バーングムダムに関する調査はこの覚書の下に行われていますが、外務省が覚書の草案を作った際、奇妙なことがありました。調査を担当する会社名が最初から記載されていたのです。イタリアンタイ社とアジアコープホールディングスという会社です。しかし、内閣の話し合いで具体的な社名があるのはおかしいということになり、社名の部分は「民間」という言葉に置き換えられたということです。結局、調査はイタリアンタイ社が行っていますが、同社がそれを担当することに法的根拠があるのかどうか不明確といえます。
現状
現在、イタリアンタイ社によって地質調査とおぼしき作業が予定地で行われています。また、一部の公務員が現地に入り、ダムに賛成するように住民に働きかけています。一方で、住民に情報提供がないまま企業による活動が活発化する点を懸念し、地元の市民が働きかけた結果、上院の委員会による現地調査が8月に実現しました。上院議員訪問の際、予定地の郡長は事業の詳細を知らないことが分かりました。また、ウボンラチャタニ県に問い合わせたところ、イタリアンタイ社から書簡は受け取っているが、調査許可を出した覚えはない、という回答だったのです。この問い合わせを受けて県は、エネルギー省に事業に関する事実確認を行っています。8月末、県知事は同省から正式な指示があるまで作業を中断するよう郡などに命じました。しかし、会社は作業を続けている。実は、建設予定地付近のメコン河上の国境に関して、ラオスとの間でまだ定まった見解が両国の間にないのです。今行われているのは、国境が定まっていない場所でのダム建設の準備でもあります。
予想される影響
影響を受けるとされるのは50村。その中にはモン・クメール系の少数民族の村も含まれています。ダム湖に水没し移転する村は4村、244世帯とされています。ラオス側は3村が移転対象と言うが、詳しい情報は分かりません。これはあくまで、代替エネルギー開発・エネルギー保全局の委託した調査による情報です。住民の移転地には付近の山地が予定されています。私は既存の調査では影響が少なく見積もられている、と考えています。建設予定地では、乾季にメコン河の河岸で大規模な畑作が行われています。住民はそこで5か月間は耕作をしている。それに関する影響は調査されていないのです。また、貯水池は110kmの長さになります。ウボンラチャタニ県の建設地から隣のアムナートチャルン県チャヌマーン郡まで至る広大なものです。この間には、漁業で生活するたくさんの人々がいる。加えて、最近の私たちの大学による現地調査で分かってきた点を挙げると、ダム影響地の住民は負債が少ないことがあります。東北タイの農民の負債は社会問題になっていますが、その問題が他地域より軽いようなのです。逆にいえば、建設予定地の農村は他の地域よりも豊かだといえるでしょう。例をあげると、Pという村は川岸の畑から年400万バーツ(約1200万円)の収入を村全体で得ている。また、Sという村の近くにはサンパンボークという景勝地がある。これはメコン河の早瀬です。村は自然の観光資源から年間100万バーツ(約300万円)の収入を得ています。サンパンボークは海抜101m、ダムの貯水は海抜115m、当然水没するでしょう。またこの早瀬は非常に良い魚のすみかだと言われています。多くの住民が半農半漁の生活をしていますが、農地を持たない人は漁が生計の柱です。Tという村には最近タイで話題となっているメコン河の鬼火(バンファイ・パヤーナーク)が見られます。これは人々の信仰にも関わり、最近では観光資源となっているのです。こういった自然現象は保全されるべきだと考えます。



建設予定地は景勝地でもある
(写真提供TERRA)


研究者として懸念する点
ダム建設では事前にきちんとした調査をしなければ、正当な補償もされません。それに、今十分に自立している住民の生活を変えることは、「開発」といえるかどうか疑問です。村人は「反対運動などしたくない」、と私たちに語ります。地域の亀裂が深まる前に、各方面を交えて話し合いを持つべきだと考えます。建設の是非の判断は知識を持って行われるべきで、今集まっている情報は不十分です。各方面の声を聞くと同時に、少数者の意見を尊重し、住民を周縁者として社会の片隅に追いやるべきではない、と考えます。特に予定地は国境に近く、婚姻によって無国籍者が多く暮らしています。しかし、ある村人がダムに意見したら、タイ国籍のない彼の妻を「強制送還する」と脅された、ということが既に起きています。このような行為は人々の発言の自由を奪うものです。
今、大学としてはダムに反対も賛成もしないという立場です。決定は情報分析と話し合いを経て、将来に行われるべきだと考えるからです。しかし、現段階でも指摘しておきたい問題があります。住民参加の明らかな欠如です。これは憲法で保障された権利であるにもかかわらず、現実には侵害される場合が多い。また、民間企業の力が政府より大きくなっていることも問題です。公的資金を使わず、民間からの資金でこのような大型開発が進むと、市民によるチェックはますます難しくなっていく傾向にあります。


  (文責:木口 由香 メコン・ウォッチ)

 

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