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メコン河上流浚渫は、中国の主導によって現在強力に推進されているプロジェクトで、メコン河の早瀬(rapid)や岩礁(reefs)を破壊し、思茅(Simao)からラオスのルアンパバーンまで約886kmにわたる航路を整備、大型商業船の航行を可能にしようとするものです。早瀬の爆破によって流域の人々の生活を支える魚の生態系が破壊されるなど、環境への影響が懸念されています。
メコン河上流浚渫プロジェクトとは、中国雲南省、ラオス、タイ、ビルマ(ミャンマー)の4か国が上流域における河川交通を活発化する目的で、思茅(Simao)からラオスのルアンパバーンまで約886kmの距離にある早瀬・岩礁を爆破、浅瀬を浚渫し、将来的に300〜500トン級の大型商業船の航行を可能にしようとするものです。
2002年から04年までのフェーズ1では、中国?ビルマの国境石243番からラオスのフエイサイ、タイのチェンコンまでの331kmにおいて作業を行い、100〜150トン級の船の航行を目指し、続くフェーズ2、3ではラオスのルアンパバーンまで300〜500トン級の船を航行させることを目指します。フェーズ1の事業資金は調査から実施にいたるまですべて中国が出資し、計500万ドルに上ります。爆破作業はすでに始まっており、ラオス−ビルマ間では12ヵ所の早瀬が爆破済みだと報告されています。
環境面では、メコン河の浅瀬・早瀬は魚の産卵・繁殖地として重要であり、この地域の漁業資源への影響が懸念されます。対象地は絶滅危惧される世界最大の淡水魚の一つメコン大ナマズの繁殖地で、プロジェクトは大ナマズ絶滅の可能性をさらに高めます。また浚渫作業・航行に伴い中国雲南省に建設されたダムによる水位の調整が行われ、これによる川の生態環境に重要な川海苔への影響や、下流国における河岸の浸食が懸念されています。さらに商業航行が増えることで、人の幅程度しかない小舟を使った自給的な漁業の安全性が損なわれる恐れがあります。
プロジェクトの環境アセスメント(EIA)は、2000年4月〜9月に4か国共同調査団が実施、4か国政府によって承認されました。この中では、(1)魚への影響を回避するため、事前予告爆破をして魚を逃がす、(2)魚の回遊と産卵時期の爆破はしない、(3)早瀬の爆破により川の流れは遅くなるので回遊魚の遡上には好ましい影響がある、(4)爆破による影響範囲はほとんどが300m以内と極めて限定的、(5)河岸は岩場なので土壌浸食による崩壊が起こらない、などと多少の影響は認めるものの大きな影響はないと結論づけられています。しかしメコン河委員会(MRC)は2001年10月、当該EIAに関して独自に審査を実施、3つの報告書において内容が極めて不十分であると厳しく批判をしています。
住民・NGOの動きとしては、タイの住民グループを中心として4か国政府への働きかけが行われており、EIAのやり直しや住民参加、下流国との協議などを求めています。また、Oxfam, WWF, IUCNなどの国際NGOもメコン河への影響を懸念し、MRCやタイ・ラオス政府への働きかけを行っています。