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カンボジア北東部は、ラタナキリ州、ストゥントレン州、モンドルキリ州からなり、異なる生活様式・言語・文化を持つ先住・少数民族が多数居住しています。自然資源の豊富さと生物多様性でも知られており、ラタナキリ州とモンドルキリ州には、国内天然林の約4割が存在します。また、この地域にはメコン河の支流であり、国際河川でもあるセサン川、スレポック川、セコン川が流れています。流域の自然資源は、環境保全の視点からのみならず、自然資源に依存した生活を送る地域住民の食糧安全保障や生計を守るという意味で、非常に重要です。しかし近年では、森林伐採などの環境破壊が顕著になり、また、セサン川とスレポック川では、上流のベトナム側でダム開発が進み、下流カンボジアの村落に甚大な被害を及ぼしています。セコン川上流のラオス側でもダム建設は始まっており、近い将来に下流での被害が顕著となる恐れもあります。
セサン・スレポック・セコン川は、国際河川であると同時にメコン河流域最大の支流水系を形成しています。また、カンボジアの先住・少数民族人口の大部分がこの3河川流域に集中し、川の資源に依存した生活を営んでいます。(英語では3河川の頭文字をとって、3Sと称されることがあります)
ベトナム中部高原に源を発し、この山岳地帯から西南に流れ、カンボジア北東部のラタナキリ州を通り、ストゥントレン州でメコン河本流に合流します。川の総延長は、約462 キロ、そのうち210 キロがベトナム領内を流れます。流域総面積は、約1万8,570平方キロ。そのうち約60 %がベトナム側、約40%がカンボジア側に位置します。カンボジア領内の川沿いでは、75か村に約3万人(ラタナキリ州の60か村に約2万人、ストゥントレン州の15か村に約1万人)が暮らしています。
ベトナム中部高原に源を発し、カンボジア北東部のモンドルキリ州、ラタナキリ州、ストゥントレン州を流れます。流域総面積は、約3万平方キロ。うち1万8,200平方キロはベトナム領内を流れます。ベトナム国境から245キロの地点でセサン川と合流し、メコン河本流に流れ込みます。カンボジア領内の川沿いには、21か村に約1万1,000人が暮らしています。
ラオスのプールアン山脈(ベトナムではアンナン山脈)からカンボジア北東部ストゥントレン州に流れ込みます。スレポック川と同様、セサン川と合流して後にメコン河本流に合流します。ストゥントレン州のセコン川沿いには31か村、約2万8,400人が暮らしています。
セサン川
舟を漕ぐ少年
セサン川 | スレポック川 | セコン川 | |
源流 | ベトナム中部高原 | ベトナム中部高原 | ラオスプールアン山脈 |
全長 | 約462キロ | -- | -- |
流域総面積 | 約1万8,570平方キロ | 約3万平方キロ | 約2万8,820平方キロ |
川沿い村落数 | 75村 | 21村 | 31村 |
流域人口(カンボジア国内) | 約3万人 | 約1万1,000人 | 約2万8,400人 |
慢性的な電力不足に悩まされていたベトナムは、1993年、多くの援助国・機関の資金援助を受け、セサン川流域で初めての水力発電ダム・ヤリ滝ダムの建設に着手しました。 1996年から下流カンボジア側では洪水や水質の悪化による漁獲量の減少、健康被害などの影響が出始めています。しかし、これらの改善や住民に対する補償は行われないまま、次々とダム建設がすすんでいます。ダムの建設にあたっては、環境影響評価(EIA)が実施されていないか、実施されている場合でも、下流カンボジア住民への影響はほとんど考慮されておらず、内容は不十分です。 カンボジア国内のダム開発は、カンボジア・ベトナム両政府の合意のもと、ベトナム政府主導で進められています。
洪水で流された家畜
皮膚病に苦しむ子供
ヤリ滝ダムの建設以降も、ベトナム政府はカンボジア流域5か所のダム事業をカンボジア政府に提案し、2006年後半に、カンボジア側の水力発電計画が動き出しました。また、2007年には、日本国際協力機構(JICA)が、セサン川をふくむカンボジアの主要河川における既存の水力発電事業計画に優先順位をつける目的で、水力開発マスタープラン調査の実施を支援しました。 現在、ベトナム政府が提案した5か所のダムのうち、セサン下流1およびセサン下流2ダムについては、実施可能性調査が完了しています。
現在、ベトナム領内のスレポック川流域ではドライホリン・ニューダムが操業中で、4か所のダムが建設中(ブオンクオップ、ブオントゥアスラ、スレポック3、スレポック4)です。 スレポック川のダムも、セサン川の場合と同様、国境を越えた悪影響を検討しないまま建設が始まっています。ブオンクオップダムの建設が開始された2003年以降、スレポック川下流のカンボジア側では毎年洪水による被害が起こるなどの影響が出ています。2006年にまとめられた「スレポック事後EIA報告書」は、ダム建設が進行すればセサン川と同様の被害が起こると予測しています。 しかし、これらの被害が改善されないままダム建設計画は進められており、2012年には、三井住友銀行がスレポック4Aダムへの融資契約を結び、日本貿易保険が海外事業資金貸付保険を付けることが決まりました。 現在、カンボジア領内ではスレポック下流3の建設計画があります。
セコン川上流のラオス領域でのダム開発は、2006年から活発化し始めました。下流カンボジア側での影響が懸念される中、次々と計画が進められ、現在、ファイホダムが操業中、セカマン1ダム、セカマン3ダムが建設中、少なくとも11か所のダム(セカマン4、セコン3、セコン4、セコン5、ナムコン1、ナムコン2、ナムコン3、ダクエムル、ホアイラムパンヤイ、セピエン・セナムノイ、セカタム)が計画されています。ある調査によると、計画されている4つのダム(セコン4、セコン5、ラムコン1、ナムコン3)の累積影響によって、セコン川流域の漁業生産の50%が失われ、ラオス国内と下流カンボジア流域で深刻な被害が発生されることが予想されています。また、カンボジア領内でも、少なくとも1か所のダム(セコンダム)が計画中です。建設資金の大部分は、ベトナム企業など海外資本によってまかなわれ、電力の大半はベトナムやタイに輸出されます。