ホーム > 現地での活動 > イン川漁業・湿地利用調査プロジェクト > 背景と概要
メコン河から遡上してくる魚によって、豊かな生物多様性を有してきたイン川や周囲に点在するノーンと呼ばれる氾濫原の池では、近年、違法漁業やノーンの管理形態の変化によって、漁業資源が枯渇し、漁業を生活の糧としてきた住民の生活にも影響が出ている。また、イン川河口部に位置するチェンコンの大規模商業港の建設やメコン河上流浚渫も、イン川やメコン河流域の生態多様性や人々の暮らしに影を落としつつある。
ノーンは、一般に公共の土地として村によって管理されてきたが、近年、自然のノーンを掘り下げて貯水量を増やす「ノーン整備事業」が公共事業として進められている。ノーンの掘り下げによる生態系の破壊が起こると同時に、ノーンが行政の管理下に置かれることで、住民が伝統的に培ってきたノーンの管理形態が失われつつある。
爆薬や電気ショックなどを使った違法漁業は、漁獲量の減少の一因となっている。
メコン河支流のコック川とイン川の水を、チャオプラヤ川支流のナン川に導水して、水不足の中央平原を潤そうという計画。開発調査をJICAが実施した。現在は計画が中断されているが、仮に再開されれば、洪水の減少や水位の低下によって、農業・漁業・生態系が深刻な影響を受ける懸念がある。
北タイからラオス北部、ビルマ北部、中国南部雲南地方に至る地域は、現在新たな経済開発の可能性の高い地域として、アジア開発銀行などにも注目されている。メコン河のチェンコン(イン川河口部付近)に大規模商業港の建設が始まり、イン川流域に工業地帯を作る計画もある。
また、中国・ラオス・ビルマ・タイの4カ国によって、メコン河上流域での商業船航行推進プロジェクトが実施されており、メコン河上流の浚渫問題が浮上している。チェンコンでも、メコン河の早瀬が爆破対象になっているが、環境影響評価(EIA)が不十分であるとの指摘があり、浚渫による環境社会影響が懸念されている。
プロジェクトの目的は、住民による河川と湿地における自然資源の持続的な管理と利用方法を地元NGOと住民とともに調査し、また住民による資源管理に関するセミナーを開催することで、住民の環境保全に対する認識を高め、自主的な保全活動につなげることである。
川や湿地の環境及び住民による利用と管理について調査し、その実態を明らかにすると同時に、住民自身の調査への参加を通じて、住民が川や湿地の重要性を認識し、環境意識を高めることを目的とした。住民グループ及び地元NGOとの協力で、漁労を行う場所、使用する漁具、魚種、住民による資源管理の形態などに関する調査を行った。
チェンライ県に隣接するナーン県を流れるナーン川とその支流のヤオ川では、住民による魚類保全区の設置によって、違法漁業とそれにともなう魚の減少の抑制に成功している。イン川流域の住民からの要望を受けて、イン川流域で環境保全に取り組むための参考にすることを目的として、ナーン県の住民グループを訪問した。
2001年8月、イン川流域の中流から下流の住民が集まり、現在流域に起きている問題や流域環境に影響を及ぼすと考えられる政策に関する情報を共有し、解決策を共に考えることを目的としたセミナーを開催した。
2002年4月29日〜5月1日、プノンペンで開催されたメコン流域漁民会議に参加し、イン川の保全活動や上流浚渫問題などの情報を発信するとともに、他の流域国の漁民・NGO・研究者との交流・情報交換を行った。
2002年10月10・11日、イン川の源流であるパヤオ湖とその上流域での森林・水資源の保全に取り組む住民グループ・NGOの活動を学び、意見交換をするための見学研修を行った。