2000年に生産を開始したイェタグン田は、その開発から日本の政府と企業に深い関わりがあります。日本のJXミャンマー石油開発は、1991年に南部のイェタグン・ガス田がある鉱区M-13、14、そして翌92年にM-12の権益を取得、同ガス田を開発しています。
マレーシア国営企業ペトロナス・チャガリ社40.9% *事業オペレーター
ミャンマー石油ガス公社(MOGE)20.5%
タイ政府系PTTエクスプロレーション・アンド・プロダクション(PTTEP)19.3%
JXミャンマー石油開発19.3%
日本政府50%、JX石油開発40%、三菱商事10%(2013年から参画)の共同出資会社
イェタグンの天然ガスは100%輸出にあてられ、国内では使用されていません(ガスと一緒に生産されるコンデンセートは国内で販売されているようです)。ガスの販売先はタイ石油公社PTTで、日本企業が参画するタイ国内のラチャブリ発電所等の発電用燃料として供給されてきました。このオフショア(海上)の天然ガス田からガスを輸出先のタイに運ぶため、1990年代初めにヤダナ・パイプライン、同年代末にイェタグン・パイプラインの建設がテナセリム管区(現在のタニンダーリ管区域)で始まりました。2本のパイプラインは同じルートを通っていますが、この建設地域にはカレン、モン、タヴォイ(ダウェイ)など少数民族が暮らし、国軍(ミャンマー軍)と敵対するカレン民族同盟(KNU)が活動していました。建設の安全を確保するため、軍がルート沿いに展開し、それに伴って地域住民を管理しやすくするために、軍による強制移住や強制労働、兵士による村での略奪、さらには、女性への性暴力、武装勢力のスパイと疑われた村人の即決処刑などが行なわれたことが知られています。
イェタグンのガスは既に枯渇が近く、近年では生産量が減少しています。しかし、過去にはこのガス田からの収入はヤダナ・ガス田と共に、ミャンマー軍政を支える重要な収入源でした。クーデター以降、関連の税やロイヤリティ等が支払われていなかったか、また今後も支払われることがないのか、日本政府、JX石油開発、三菱商事は、これらの支払いについて公に何ら説明をしないまま、2023年4月に撤退しています。私たちは透明性を確保し、現地のコミュニティや市民社会のステークホルダーとの協議を行なった上で責任ある撤退を行なうよう強く求めてきました。しかし、私たちの要求は無視されてしまいました。ミャンマーの活動家グループが入手した情報によれば、イェタグン・ガス田事業はタイに拠点を置くノーザン・ガルフ・ペトロリアムのグループ企業であるガルフ・ペトロリアム・ミャンマー(GPM: Gulf Petroleum Myanmar)が引き継ぐようです。ノーザン・ガルフ・ペトロリアムは租税回避地であるバミューダにある複数のペーパーカンパニーによって組織されています。このような企業が後継に選ばれていることは、撤退に際し、ENEOS と日本政府、三菱商事が負の環境社会影響を特定、防止、軽減し、そして救済するための十分な手段を講じなかったことを示しています。 (2025/2/5改定)。