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メコン・ウォッチ ファクトシート
ラオス・ナムトゥン2ダム計画
1. ナムトゥン2ダム計画とは
概要
東南アジアの内陸国ラオスの中部に計画されている水力発電ダム。フランス電力公社(35%)、ラオス電力公社(25%)、タイ発電公社(EGAT)の子会社EGCO社(25%)、イタルータイ開発会社(15%)が出資したナムトゥン2電力会社(NTPC)が事業実施者。総事業費は約13億ドルで、2002年のラオスのGDP(20億ドル)の70%に匹敵するラオス最大の公共事業。高さ48メートルのダムを建設し、高原の湿地帯450平方キロメートルを水没させる。発電能力1070メガワットのうち995メガワット分をタイに輸出し、残りを国内供給にあてる予定。目的は売電収入による貧困削減。2003年11月8日にタイ発電公社とナムトゥン2電力会社の間で電力購買合意(PPA)が交わされた。
財源
4社の出資金が合計3億3000万ドル、借り入れ予定が8億5500万ドル。
2. 日本との関わり
世界銀行
世界銀行は、1997年に日本の信託基金の1つである開発政策・人材育成(PHRD)基金から99万5千ドルを供与し、社会・環境調査を行い、このプロジェクトの準備を積極的に支援してきた。さらに、出資企業の政治的リスクをカバーする部分的リスク保証(5000万ドル)とラオス政府出資分に対する2000万ドルの融資、多国間投資保証機関(MIGA)による保証(1億ドル)が検討されている。日本はアメリカ合衆国に次いで世界銀行の第二の出資国である。
アジア開発銀行
これまでプロジェクトの準備のために技術援助特別基金(TASF)から170万ドルが使われており、さらに公共セクター融資(2000万ドル)、民間セクター融資(5000万ドル)及び政治的リスク保証(5000万ドル)の供与が検討されている。日本はアメリカ合衆国と並んでADBの最大の出資国である。
尚、日本の担当は財務省国際局開発機関課である。
3. プロジェクトの問題点
開発プロセスの問題
- 1993‐94年から水没予定地でダム計画を前提として、山岳開発公社によって大規模な森林伐採が始まった。
- 大規模な伐採の後に行われたプロジェクトの環境・社会影響評価は、山岳開発公社による森林伐採の経緯を無視し、この地域の森林劣化の原因を住民による定住地の拡大や焼畑だとしている。
- 林産資源(竹、筍、樹脂など)の採取・販売、水田・焼畑農業、小規模な伐採や狩猟を生計手段とする水没予定地の住民は、伐採によって生活の糧を失い始め、生計の維持が難しくなっている。伐採によって生活が破壊されたにも関わらず、この地域はいずれダムに水没するという前提から積極的な生活改善プロジェクトも実施されていない。住民がダム計画に賛成するのには、伐採で失った生計の回復のためにダムの補償に期待せざるを得ないという背景がある。
自然環境への影響
- 「東洋のガラパゴス」と呼ばれたナカイ高原の450平方キロメートルが水没することによって、アジア象、ハジロモリガモ、20世紀に初めて確認された大型哺乳類のサオラーなど、絶滅が危惧されている希少な動植物の生息地が破壊される。
- ナムトゥン2ダムはナムトゥン川の水を堰き止めて貯水池を作り、発電後の水はセバンファイ川に転流される。水位が低下するナムトゥン川と上昇するセバンファイ川では、魚の生息地が破壊され、回遊パターンが妨害されるため、多くの在来種の絶滅が危惧されている。
社会環境・生計手段への影響
○強制移転
- もともとナカイ高原に住んでいた約6200人の人々が移転を強いられる。
- 1996年に山岳開発公社によって、一部の住民の移転が行われた。環境・社会影響調査や代替案調査の前に住民移転が行われたプロジェクトに融資すれば、世界銀行の政策違反が問われることになる。
- 現在ナムトゥン2電力会社が進めている住民移転計画のパイロット村では、焼畑農業と水田耕作を行っていた人々が商品作物の栽培や漁業など慣れない生業を営まなければならないという状況が報告されており、移転後の生活再建が適切に行われていない。
○セバンファイ川流域での漁業・農業被害
- セバンファイ川とその支流で生活を営む12〜13万人の人々が、転流による増水によって、漁業被害、乾季に耕作する河岸の畑の通年水没などの影響を受ける。
○経済・財政的リスク
- 世界銀行はダムからの電力をタイに売った収入はラオスの貧困削減につながると謳っている。しかし、世界銀行が同じコンセプトで石油開発を支援しているチャドでは、現地政府のガバナンスの問題から、プロジェクトの利益を貧困削減につながる分野に配分することに失敗している。
- ラオス政府も出資しているナムトゥン2電力会社が民間銀行などからの8億5000万ドル以上の借金を抱え込むことで、重債務貧困国のラオスの財政リスクは高まる。
タイの電力需要に関する疑問
- ナムトゥン2ダムで発電される電力は主にタイに輸出されるが、タイでは発電能力全体の3分の1にあたる7500メガワットが余剰電力である。
- タイ発電公社がナムトゥン2ダムから購入する電力料金は、タイ国内の独立発電事業体(IPP)に支払っている額よりも10%程度高い。
- タイで新たに開発可能な小規模発電事業体(SPP)による電力はおよそ4000メガワットであり、ナムトゥン2ダムから購入する予定の電力の4倍以上である。そこには、環境への負荷が小さい再生エネルギーや自然エネルギーが含まれる。
- タイでは電力需要を管理することで、2000-3000メガワットの需要を抑えられると見積もられている。
解決されていない過去のダム問題
- 過去10年間に、ラオスではナムソン導水プロジェクト(ADB融資)、トゥンヒンブンダム(ADB融資)、ナムルックダム(日本の円借款とADB融資)、ホアイホーダム(韓国企業の投資)といったダムが建設されてきた。これらのダムが引き起こした環境社会問題はいまだに解決に至っていない。
世界ダム委員会(WCD)のガイドライン違反
- 社会の支持や代替案の調査など、世界ダム委員会の7つの戦略的優先事項のうち6つに違反している。
4. 今後の流れ
2005年1月28日、世界銀行は融資審査を開始した。ナムトゥン2電力会社は、タイ発電公社との電力購買合意に基づき、2005年5月までに資金を確保する必要があり、それまでに世界銀行の融資決定を目指している。早ければ3月末にも、世界銀行の理事会で支援の是非が各国の投票によって決定される。ADBは世界銀行の決定に追従すると見られている。
作成:2005年3月3日