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カンボジア国道1号線改修事業ファクトシート
2008年2月16日
1.国道一号線(プノンペン〜ネアックルン区間)改修事業について
- 計画の概要
- カンボジアの首都プノンペンからベトナムの商業都市ホーチミン市を結ぶ国道1号線のうち、カンボジア国内のプノンペンからネアックルン(メコン河渡河地点)まで56kmの改修事業。なお、ネアックルン・ベトナム国境間は、既にアジア開発銀行(ADB)による融資で改修事業済み。
- 事業実施主体
- カンボジア国公共事業運輸省(MPWT)。住民移転は省庁間移転委員会(IRC)が担当。
2.これまでの経緯
- 調査
- 国際協力機構(JICA)が2003年3月にまとめた開発調査で実施可能とされたが、大規模な住民移転等の問題を軽視しているとJICA・外務省内部で批判が出た。このため異例の調査のやり直し(環境社会配慮支援調査および移転予定住民を対象とした基本合意意向調査)が行われた。
- 無償資金協力
- 事業は3期に分けられており、2005年6月に第1期分7億8600万円(橋の架け替え)、2006年6月に第2期分47億4600万円(ネアックルン〜13km地点区間)の無償資金協力供与決定。2008年度に第3期(13km地点〜プノンペン区間)交換公文締結予定。
- 現状
- 第1期の工事は完了。第2期区間の住民移転も終了し、拡幅工事中。第3期区間についても住民との合意取得が進められている。
3.指摘されている問題点と現状
○住民移転計画の情報公開・住民参加
- 経緯
- 2005年3月、JICAが第二次環境社会配慮支援調査において住民移転計画案を策定。
- 現状
- 最終的に決定・実施されている住民移転計画の公開をNGOが求めたが、IRC・JICA共に公開せず、日本政府は存否も回答拒否。現在被影響住民は移転計画の内容を知ることができない状況。
○補償単価
- 経緯
- 2005年の段階では、カンボジア政府が2000年に定めた補償単価に12%を増した額での補償を予定。この単価の問題点が国道一号線改修事業ADB融資部分の監査で指摘され、カンボジア政府は再取得価格に基づく再補償を行う方針。
- 現状
- 2006年後半にIRCが単価決定の基礎となる市場価格調査を実施したが、結果はIRC・JICA共に公開せず。再補償の単価は密室で決定されようとしており、再補償方針はカンボジア国内では被影響住民に伝えられていない。このまま建設が始まれば、問題解決が長引く危険性。
○移転地
- 経緯
- 現在地から後方に移転できない世帯について移転地を用意、土地権を無償付与。基本設計調査報告書は移転地の選定の考慮要素として、@現住所から近い、A国道1号線に近い、B勤務地に近い、C同等の社会・経済サービス施設を挙げている。
- 現状
- 移転地住民は、井戸の水質、トイレ、電気、廃棄物処理など多くのインフラについて苦情。また国道1号線から離れた場所にも移転地が設けられ、生計手段の喪失が深刻な問題となっている。土地の所有権証書を受理した世帯はない。
○苦情処理
- 経緯
- 2005年住民移転計画案は、IRC以外の関係者からなる苦情処理委員会の設置を規定。資産調査(DMS)及び補償支払いに不満を持つ影響住民は、地方自治体(コミューン)を通じて苦情を申し立てることができ、委員会は30日以内に書面で回答するとされ、申立てはJICAに転送されることになっている。
- 現状
- 制度が十分コミューンに知らされておらず、受け取りが拒否されているほか、受け取った場合でも回答がないケースがほとんど。カンボジアのNGOが日本大使館に対応を求めている。
4.移転住民に対する影響調査の結果から
- 調査概要
- カンボジアNGOフォーラムの移転行動ネットワークが2007年8月、7コミューン269世帯の沿道住民を対象に住民移転の影響について面接調査。
- 資産調査
- 3世帯が資産の一部について補償対象外となったと主張。
- 補償額
- 補償を受け取った世帯の59%が補償額は不公正、同じく64%が補償額では移築費用に満たないと回答。不足額の平均は1,470ドル。
- 生計の変化:
- 影響世帯の48%が移転後生計悪化、69%が収入減少と回答。沿道で小売業を営む多くの世帯で顧客減。36%の世帯が移転のため平均1,264ドルを借り入れ。
- 情報付与:
- 57%の影響世帯が全世帯配布予定の移転冊子を受け取らず、85%が移転単価を知らず。
- 苦情処理:
- 85%の影響世帯は苦情申立て先を知らず、最多の苦情申立て先はNGO。苦情がコミューンに受理されたのは3世帯のみ、いずれも書面での回答は受けていない。多くの住民が「補償額は政府が決めたため苦情を言うべきでない」「苦情を申し立てても意味がない」「報復が恐ろしい」として苦情を申し立てず。
5.JICA新環境ガイドラインとの関係
- 経緯
- 2004年4月に施行されたJICA新環境社会配慮ガイドライン(GL)では、無償資金協力案件の事前の調査段階における環境社会配慮で求められる要件を明記している。国道一号線改修計画は、新ガイドライン施行以前の要請案件だが、JICAは新ガイドラインの理念を先行して適用する初めての案件だと明言している。
- 補償基準
- GLは被影響住民に対する「十分な」「適切な時期」における補償を定めているが、実際には補償単価は移転費用すらまかなうことができず、また再補償の時期が明らかにならないまま移転作業が進められ、拡幅工事が始まろうとしている。
- 生計回復
- GLは収入機会、生産水準の改善又は回復を定めているが、生計手段の喪失に対する支援は何らなされていない。
- 移転住民の参加
- GLは補償等の対策の立案における被影響住民などの適切な参加の促進を定めているが、実際には住民移転計画すら公開されず、住民は補償等の対策立案や実施に参加できない。また苦情申立て手続も機能せず。
本件に関する問い合わせ先:
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
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