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2000年12月19日
大蔵大臣 宮澤 喜一 様
国際協力銀行総裁 保田 博 様
タイのヒンクルット火力発電所に関する要望書
不十分な環境影響調査と現地住民への情報公開と参加の欠如が問題になっているタイ南部プラチュアップキリカン県のヒンクルット石炭火力発電所について、2000年10月10日のタイ政府の閣議後、投資している日本のトーメン社などが発電所の建設に向けて国際協力銀行に融資を要請していると聞いています。しかし、このプロジェクトのプロセスにはいまだに多くの問題が残されており、国際協力銀行に対して、現地住民グループや地方自治体それにNGOなどからの意見聴取を含め、一層の慎重な審査を強く求めます。
(1) 新しい環境影響調査報告の問題点
タイ政府が承認したと伝えられている新しい環境影響調査報告に対しては、およそ500世帯ある漁民のうち2割しか調査の対象になっていないとの批判が出されています。調査では船を登録している人だけを漁民と見なし、小船の所有者や船を未登録の漁民、あるいは船を持たずに貝などを採っている人たちを含んでいないということです。更に海産物の加工や漁具の生産などに従事している人たちへの影響を考慮していないと地元住民グループは指摘しています。
(2) 地元のクルット市は反対を決議
ヒンクルット石炭火力発電所によって最も影響を受けるクルット市の市議会は、10月9日にプロジェクトに反対することを決議しました。また決議文の中でクルット市長は『ヒンクルット発電所モニタリング合同委員会(タイ語通称名コーローソー)』が、クルット市がモニタリングに加わっていると主張していることに対しても、そのような事実はないと批判しています。
(3) 三者協議会の不当性
プロジェクト推進派が宣伝している行政・投資企業・住民が参加した三者協議会は、トーメン社を含む投資企業のユニオン電力開発会社が資金を出して作ったもので、地元の反対住民はこの協議会をボイコットしています。なぜなら参加しているのは地元の商人や行政など利益を得る人たちばかりだからです。本来の三者協議会の目的はユニオン電力開発会社の活動をモニターすることですが、実際には地元の反対住民に対抗するための戦略的な存在になっており、この三者協議会を過大評価すべきではないと考えます。
(4) 公聴会の実効性への疑問
2000年2月末に開かれたヒンクルット発電所計画の公聴会について、10月10日の閣議で報告されたと伝えられていますが、この公聴会への出席者は200人だったのに対し、ボイコットして抗議集会を開いた人たちは千人に及びました。理由として、公聴会の委員長がヒンクルット石炭火力発電所を承認した国家経済社会開発委員会(NESDB)の議長なので公平性に欠けることや、ユニオン電力開発会社がすでに用地買収や売電契約など必要な承認を政府機関から得ていて公聴会が形式的なものに過ぎないこと、などを挙げています。多数の反対住民抜きで開かれた公聴会を、地元のコンセンサスを得たものと考えるべきではないと考えます。
以上の点を考慮しますと、本プロジェクトにつきましては、これまで指摘された問題に対応するため環境影響調査が数回にわたってやり直されてはいるものの、調査や開発のプロセスには情報公開や、地域住民や影響を受ける地方自治体の充分な参加とそれに基づく合意がなされているとは言いがたい状況にあります。また、新たに出された環境影響調査報告書につきましても、現地住民グループは必ずしも上記(1)に挙げた調査対象漁民の範囲の狭さだけを問題にしているわけではなく、専門家の協力などを得て現在調査報告書の合理性を分析していると聞いています。私たちはこうした現地の状況を充分考慮しないまま国際協力銀行が本件への融資を検討することに重大な危惧を感じます。投資している日本企業やタイ政府の情報や見解だけに頼った審査をせずに、プロジェクトに疑問を持っている現地住民グループや専門家、NGO、地方自治体などからも積極的に意見や情報を聴取するよう強く求めます。
添付資料:クルット市議会反対決議(英文、1頁)
【賛同団体・個人】
A SEED JAPAN 鈴木 亮
アジア開発銀行(ADB)福岡NGOフォーラム 土井利幸
APECモニターNGOネットワーク 石中 英司
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)斎藤 友世
金原隆(タイ在住)
国際問題評論家 北沢 洋子
『地球の木』(特定非営利活動法人) 横川 芳江
地球の友ジャパン 松本 郁子
筑波大学環境サークル・エコレンジャー 村林里絵
長崎外国語短期大学 小鳥居 伸介
名古屋工業大学元教員 寺尾 光身
ネットワークしもまるこ『地球村』 向達 壮吉
一橋大学社会学部 浅見 靖仁
福岡女学院大学人文学部 池田 真里子
メコン・ウォッチ 松本 悟