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ホーム > メコン河の開発と環境 > タイ > ヒンクルート石炭火力発電所 > [要請] 在タイ大使によるタイ政府への「圧力」に関する抗議文

2002年5月2日

時野谷敦在タイ日本国大使館特命全権大使
在タイ日本国大使館
1674, New Petchburi Road, Bangkok 10320
Thailand
Tel: (66-2) 252-6151
Fax: (66-2) 253-4153


時野谷敦大使、

タイ国内の複数の報道機関は、タイ政府のポンテープ・テープカンチャナー国務大臣(エネルギー政策担当)の発言を引用して、2002年4月25日に時野谷敦在タイ日本国大使館特命全権大使(以下、「時野谷大使」)が同大臣を訪問した際、プラチュアップ・キリ・カン県に計画されているヒンクルートとボーノークの二つに火力発電所計画に言及し、「計画中止はタイの投資環境に悪影響を及ぼすと警告した」と報じています。私たちは、時野谷大使のこの言動に対して、大きな驚きと憤慨を感じています。そこで、以下の要請文を送付致します。日本の市民社会からの声として真摯に受け止めて下さい。

時野谷大使が言及したヒンクルートとボーノークの両火力発電所の建設は、予定地周辺の自然環境に大きな悪影響を及ぼすと同時に、住民の生計手段である漁業や観光資源となるクジラやイルカの生存をも脅かすことから、各方面から問題視されています。このため、ヒンクルート発電所に対してはバンクルート市議会、ボーノーク発電所に対してはボーノーク地区評議会といった、被影響地域の行政機関が反対の決議を上げ、多数の地元住民が参加する反対運動が起こっています。

一方で、建設計画を推進する側は、反対意見を表明する機関や住民ときちんと話し合いをしないばかりか、これまでに反対運動の中心になる人々の家に銃弾が打ち込まれたり、爆弾がなげこまれる事態も発生しました。また、タイ政府が発電所事業主と結んだ契約内容に事業主が不当に利益を得るよう改定された点が見つかり、このため地元住民だけではなく、大学関係者、メディア、学生、作家、ビジネス界の一部を含むタイ社会の各層から建設計画反対の声が上がっています。

いったい時野谷大使は、二つの火力発電所がこのように大きな問題をはらみ、多くのタイの人々が建設計画の意義を疑問視している事実に対してきちんとした認識をお持ちなのでしょうか。私たちは日本の市民として、日本国政府を代表する大使が、日本企業の代弁者としてこのような計画を推進するようタイ政府に圧力をかけることは非常に不当であると思います。そして、大使の言動が日本社会の総意であるかのような印象をタイの人々に与えることに深い懸念を感ぜずにはおれません。

前任者である赤尾信敏前大使も、在任中にタイ政府に対して同様の働きかけを行ないました。その言動を問題視した中村敦夫参議院議員は、2001年6月21日に小泉純一郎内閣総理大臣に対して質問主意書を提出しました。「タイの主権をないがしろにしかねない在タイ日本国大使館の行動については、強い疑問を感じざるを得ない」とする中村議員の指摘は、今回の私たちの気持ちとも共通するものです。一方、答弁書の中で小泉首相は、「在タイ日本国大使館においては、タイ政府の決定及び意向を尊重しつつ」と再三にわたって述べていますが、近日中にタイ政府が最終決定を下すと言われている状況下で今回のような「警告」を発することは、明らかにタイ政府の決定に影響を与えようとするもので、どう言い逃れをしても「尊重」と呼べる行為ではありません。

二つに発電所建設計画をめぐっては、事業主から、日本の特殊法人国際協力銀行(JBIC)と独立行政法人日本貿易保険(NEXI)に対して融資や付保の期待が寄せられています。ところが、2002年3月22日に谷博之参議院議員が両機関に問い合わせたところ、両機関とも書面で、「融資(付保)のための審査には入っておらず、プロジェクトを取り巻く状況、タイ政府等関係当事者の対応等の進展を待って具体的な融資審査に入る」旨の回答を行なっています。つまり、政府系である両機関ともがタイ政府の最終決定を静観しているわけであり、今回の時野谷大使の言動は、両機関の公式的な立場を逸脱し、もって日本政府の外交姿勢の整合性をも危うくするものです。

外務省・大使(館)のあり方については、先般より改革の必要が叫ばれています。川口順子外務大臣は自ら、「開かれた外務省のための十の改革(2002年2月12日)」の冒頭で、「外交は、国民の皆様に理解され、支持されなくては機能しません」としたあと、具体的な改革の方向として、「誤ったエリート意識を取り除き、国民全体の奉仕者としての意識を徹底し」、「時代の流れに敏感な感覚を養います」と述べています。そして具体化的な活動として、「在外公館の領事業務サービスや大使館の日本企業への支援状況などの活動をモニターするため、アンケート調査を実施し、意見を反映」することを提案しています。今回の時野谷大使の行動は、「日本企業への支援」という外務省改革の一環なのでしょうか?問題のある大規模事業を、一部の日系企業が投資する事業主の利益のみを代弁する形で日本大使館がタイ社会に押し付けることが改革なのでしょうか?。大使の今回の言動は、日本や日本の市民・企業に対するタイの人々の反感・反発を強めるだけで、長期的に考えても「日本企業への支援」になるとは思えません。このプロジェクトをめぐる問題については日本の市民社会や国会議員から何度も疑問の声が挙がっており、「意見を反映」していないばかりか、すでに出された意見を無視するものです。「国民全体の奉仕者としての意識を徹底し」ているとも、「時代の流れに敏感な感覚」に基づいているとも思えませんし、したがって私たちが「理解」し「支持」することのできない言動です。「十の改革」に逆行するものだと思います。

以上のことから、私たちは、今回の時野谷大使の「警告」に対して、強い抗議の声を発します。そして、すぐさま記者会見を開くなどして、タイ社会に対して先の言動について撤回・謝罪を表明し、今後このような言動を二度と繰り返さないよう明言することを強く要請いたします。

賛同者一覧

団体:

個人:

会津菜穂、青木智弘、吾郷健二、吾郷成子、浅見靖仁、天野稔、井草清志、今井高樹、梅村幸平、大江正章(コモンズ代表)、大林ミカ(環境エネルギー政策研究所)、岡本和之、小沢隆太郎、帯谷博明、金子麻実、神村厚利、神子直美、川上豊幸(APECモニターNGOネットワーク事務局長)、川村暁雄(神戸女学院大学専任講師)、神崎尚美、久保健一郎((有)スペック代表)、久保英之、栗野良、小鳥居伸介、斎藤久美子、斎藤忍、清水俊生、下川雅嗣、白岩佳子、角田望、武市常雄、堤かなめ、出口綾子、寺尾光身、豊田護、那須幸男(PARC会員)、東智美、藤井由美(タイ在住)、二見孝一、古屋泰、保屋野初子、前田久幸、前田美穂、松本修、松本妙子、宮崎直緒子、物江陽子、森透、山崎典子、山中悦子(草の根援助運動)、渡邊重夫(A SEED JAPAN)

以上51名

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