ホーム > 現地での活動 >メコン河流域における住民間の経験共有による生態系劣化防止活動
本事業では、メコン河とムン川の流域住民の生態系についての認識とダム被害の体験を、聞き取りや既存文献情報を使って映像として再現しました。まずタイ語版を制作、パクムンダムの建設されたウボンラチャタニ県のウボンラチャタニ大学で上映会を実施し(2010年6月)、タイのNGOと住民組織、大学に配布しました。そして、現在複数のダム計画が進行中であるラオスの公用語ラオス語に翻訳し、ラオス語版を制作し現地のNGOに紹介しています。タイ語版はタイのNGOによってインターネットの動画サイトへ投稿され、Facebook上でメコン河に関心のある人々の集まるグループに紹介されています。また、英語字幕版も下記から配信しています。今後、タイの地方で活動するNGOと共同で、各地でミニ上映会を継続して行きます。また、カンボジア語版も制作の予定です。
メコン河流域では様々な生物が生息しており、その水棲生物の多様性はアマゾン河に次ぐとも言われています。流域で生活する人々は何世代にも渡って、河の資源の恩恵を受けてきました。今、そのメコン河流域では、電源開発が本格化し、中国国内の本流やラオスやタイの支流での水力ダムの開発が進んでいます。また、本流下流域でのダム建設も現実味をおびてきました。
ダムは人間の生活を便利にしてきましたが、川の自然な流れをせき止めることで、必然的に河川内とその周辺の生態系を劣化させてしまいます。生態系の劣化は周辺で自然資源に依存する地域住民の生活にも影響します。メコン河流域の各国の農村部では、自然から採取できるものに頼っている人たちが多く暮らしています。ダム建設によって引き起こされる環境の変化は、特に自然と近い暮らしをしている人に大きな影響を与えます。過去に実施されたメコン河流域でのダム開発は、地域住民の河岸を利用した漁業や採取、水利用、そして漁業に負の影響を与えてきました。
ダムによって生態系が劣化しても、自然からの採取や自然のサイクルを利用した生業を主にしていた人たちが、すぐに生活スタイルを変えることは難しく、劣化した環境に更に負荷をかけるような採取を行うことにも繋がります。こういった問題を防止するため、また、開発への住民参加やガバナンスの観点からも、ダム開発の影響を受ける地域の人々に情報が行き渡り、その意見が計画に反映されることが重要です。また、メコン河流域の住民は日々の生業を通して、地域の生態系に高い知見を持っています。まだ科学的な知見の積み重ねが十分とは言えないメコン河の流域で、このような伝統的な知識は生態系保全に生かされるべき貴重な情報でもあります。
しかし、メコン河の流域のほとんどが農村部であり、そこで暮らす住民が開発に関して受けている情報は非常に限られています。一方で、計画を立てる機関は、流域の自然や暮らしについて、非常に限られたことしか知りません。そのため地域住民は、ダム開発が始まってから自分たちの暮らす地域の生態系の価値や、ダムによる生態系の劣化と生活への影響を認識することがしばしば起こってきました。ダムが完成した後で大きな反対運動が起こったケースもあります。事前に開発による負の影響が検討されないことは、その開発が行われた国や地域にとって、後々まで大きな社会的負担を強います。今回事例として取り上げているパクムンダムは、その典型例と言えるでしょう。
メコン河支流で東北タイを流れるムン川の下流部は、本流からの魚の回遊により、漁業の盛んな場所でした。しかし、1994年に完成したパクムンダムは、生態系に深刻な打撃を与えました。ダムの建設後、住民はダムの撤去を要求して運動を展開してきました。2003年からはタイ政府もその要求の一部を認め、影響緩和のため、年間4ヶ月の水門開放を実施しています。ムン川の経験は今後のメコン河開発において重要な示唆に富んでいます。ダムによって、地域の生態系や生活へどのような影響があったのか、地域の人々が多くの指摘をしているからです。また、それを裏付ける社会的な調査も行われています。
パクムンダムについては、こちらをご覧ください。
■「メコン河流域の声、ムン川の経験」
映像はこちらをご覧ください。