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タイ農業セクタープログラムローン ファクトシート
2002年7月作成
1.タイ農業セクタープログラムローンについて
概要
タイ農業セクタープログラムローン(Agricultural Sector Program Loan :ASPL)は、1997年のバーツ危機以降に行われた世界銀行の調査とマスタープランの中で最初に提案された。タイ国における農業セクターの改革を目的とし、アジア開発銀行(ADB)と国際協力銀行(JBIC)から3億ドルずつ協調融資された。
プログラムローンはプロジェクトローンと異なり、個別のプロジェクトについては規定していないが、Development Policy Letter
(DPL)とPolicy Matrix の中で融資に伴う条件が決められている。
- 総費用
- 6億ドル
- ADB融資分
- 3億ドル 1999年9月23日承認
- JBIC融資分
- 3億ドル 1999年9月29日調印
融資目的
- 農業生産力の増強(水資源管理の合理化、水源に係る計画・管理の導入、土地利用・管理の改善等)
- 農産物の輸出競争力の強化(調査・研究の強化、農民教育の改善等)
- セクター運営及び政策立案過程の改善(農業・協同組合省の組織改革、農村共同体及び農民組織の政策立案への参画)
この他、以下のような目的があげられている。自然資源、技術、人材の利用をより効率的に改善すること。地域的な所得格差を減少させる。地方での雇用推進と都市からの帰郷者の労働力吸収。比較優位性を活かし輸出を拡大する。地方の貧困を削減する。
主な融資条件
- 水管理に関する国家政策の制定(水資源法の制定及び水資源使用者からの水使用量の徴収)
※水料金(water charge)を条件として明記するかは議論があり、タイ政府が反対を受けて、cost recoveryなどの表現にとどめたという。
- 水配分において経済的手段を使用すること
- 灌漑政策の制定
- 灌漑の民営化と受益者の費用回収
- 政府による農業・農民への補助の削減 など
2.指摘されている問題点
- プログラムローンであること
個別プロジェクトに関してはタイ政府、王立灌漑局(RID)が決定するが、ADBの融資条件を満たす必要があること
- 国会の審議を経ずに大規模な金額が動くこと
- 水資源管理政策と水資源法の制定について
住民の慣行水利権が法的に成立していないところで、水資源を「政府のもの」と規定し、水使用を許可制にするとともに水使用料を徴収しようとしている。これは長く水資源を利用してきた住民の権利や住民による水利用のシステムを崩壊させてしまうと考えられる。水の有料化を織り込んだ水資源法は、2002年には国会を通過することになっていたが、法案への反対を受け、現在は法案の改定に向けた議論が行われている。
- プログラムローンの必要性について
ASPLの発送の基点は、1997年の経済危機によって外貨準備高が不足したタイ政府に外貨を注入することにあった。ところがタイ政府による融資条件のクリアーが予想より遅れたため、ADB・JBICともに全額を融資する前に、タイは経済危機を脱し、外貨準備高も以前の水準に戻り、融資の必要性はなくなった。現在、タイ政府はADB、JBICとも第二期貸付(second
tranche)を断る方向で手続きを進めているという。
3.ラオ川灌漑堰改修プロジェクトの事例
事業の概要
- 改修費用
- 6億8千万バーツ
- 灌漑面積拡大
- 110,000ライ→140,000ライ(1ライ=0.16ha)
- 受益世帯
- 35,000世帯
- 建設主体
- タイ王立灌漑局(Royal Irrigation Department :RID)
北タイ・チェンライ県を流れるラオ川の灌漑堰において、2000年9月より改修工事が始まった。これはASPLの8つのパイロットプロジェクトの1つで、建設後30年以上経ったラオ川堰本体と幹線・支線水路の改修を行い、灌漑面積の拡大と灌漑効率を上げることを目的としている。灌漑局は、このラオ川堰改修により灌漑地域の住民が使用できる灌漑用水が増加し、二期作が可能になり、農民の収入が向上するとしている。このプロジェクトでは受益者からの費用回収(Cost
Recovery)が行われることになっており、改修終了後受益者は改修費用の8.5%を負担することになる。
問題点
- 住民参加の欠如
このプロジェクトにおいて費用回収を行うということは、今もって地域住民に明確には知らされていない。地域住民に対する説明会等が開かれているものの、費用回収についての情報はない。ADBは住民参加を重視しているが、実際このプロジェクトでは、費用負担における「住民参加」はあるものの、プロジェクト決定過程における住民参加、情報公開がない。
- プロジェクトの必要性への疑問
ラオ川には古い灌漑用堰があり、十分灌漑に活用されていた。これを新しい堰と用水路に改修する必要があったかどうか。
- プロジェクトの効果への疑問
元来110,000ライあった灌漑面積が140000ライに増加するとしているが、実際には新しい支線水路の建設は予定されていない。どのように灌漑面積を増加させることが出来るのかが明確にされていない。また、プロジェクトの結果、農民の農業収益が増収するとしているが、農業投資額、農産物販売価格、収穫量等の見積もりが現状に合致していない。このため本当に農業収益が増えるとは考えられない。