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タイのヒンクルート石炭火力発電所計画と国際協力銀行
2001年9月10日
1.ヒンクルット石炭火力発電所とは
- 建設予定地:プラチュアップ・キリカン県バンサパーン郡トンチャイ区コックタホム村
- 開発事業主:ユニオン電力開発会社(Union Power Development Co.Ltd.=UPDC)
- 出資者:トーメン(34%)、中部電力(15%)、豊田通商(15%)、タイのSaha UnionグループのUnion
Energy社などタイ企業(36%)
当初出資していたフィンランドのFortum社と米企業の子会社のCEPA社は経済性や環境への問題から昨年撤退を表明した。そのシェアを結局日本の中部電力と豊田通商が買い取る結果となった。
- 事業内容: 1400MWの石炭火力発電所建設。第1フェーズが2002年10月までに700MW、
第2フェーズが2003年1月までに700MWの予定だったが、現在は2005年をターゲットにしている。そのためには2002年中の着工が必要。民間独立発電事業体(IPP)としてタイ発電公社(EGAT)と25年間の電力売買契約を締結。原料の石炭はオーストラリア、インドネシア、南アフリカから輸入。
- 資金協力:
1998年に日本輸出入銀行(現国際協力銀行)が5億ドルの投資金融を供与する計画だったが、タイ国内で見直しが始まり白紙撤回。総事業費は12億ドル。
2.何が問題か?
- 大量の温排水による魚の生態系への悪影響
- 総延長3.5キロの原料荷揚げ用埠頭の建設による魚の回遊への悪影響
- 近くの珊瑚礁への悪影響(燃焼後の固形廃棄物の投棄や温排水)
- 炭塵による大気汚染・健康・観光産業への悪影響
- 石炭火力発電所による大量の温室効果ガスの発生
- 電力供給過剰の中で、電力価格の値上がりにつながる
- 住民を無視した国内の決定プロセス
- 環境影響調査の度重なる不備
- トーメン社(UPDC)の不当な地元切り崩し策と在バンコク日本大使の企業寄り姿勢
- 事業予定地の取得をめぐる汚職疑惑(国家汚職防止委員会が訴えを受理―4月24日)
3.環境影響評価の問題点
投資企業は、何度か環境影響評価のやり直しをしている。以下は最新の評価報告の問題点。
- 魚種の多様性:EIAでは164種→漁業局の専門家は470種を確認。
- 漁業従事者の実態:EIAでは漁民は99世帯で船は百艘以下→実際は500世帯300艘以上。近隣の漁民が加味されず。加工業や漁具の産業に従事している者も含まれず。
- 水源地への影響:郡の水源地への影響が検討されていない。
- 影響緩和策:EIAで提案されているのは7種の養殖→魚種の多様性を守れない。
- 珊瑚礁:EIAではタイ湾の珊瑚礁を過小評価→大学の専門家は、珊瑚礁は美的価値だけで測れないと指摘
- 住民参加:EIAに住民参加がないので、正確な社会経済状況を把握できない。
- 最近沿岸でクジラやイルカが確認されたが、それへの影響は含まれていない。
4.タイ政府の動き
- 2000年10月10日に閣議(民主党政権)―プロジェクトを進める+社会影響を調べる委員会を設置する。1997年の閣議決定は今も有効で、それを確認したと言われている。
- その後2001年1月6日の総選挙で政権交代。プロジェクトの見直し。5月の上院環境委員会で建設予定地や燃料の変更を含めた見直し案が可決。本会議では否決。
5.地元の動き
- 2000年10月10日にトンチャイ区のバンクルート市議会(テッサバーン)が全会一致で反対決議。建設予定地をカバーするトンチャイ区議会がプロジェクトに賛成しているが、ヒンクルート発電所の建設予定地から南へ2〜3キロ離れたバンクルート市(テッサバーン)は人口も多く最も影響を受ける地域。憲法でもテッサバーンの自治権は認められている。
*タイの地方自治行政の最小単位は区(タンボン)だが、都市部では130余りの市(テッサバーン)が存在する。直接選挙で選ばれた市議会議員によって市長と副市長が選ばれる。バンクルート市はトンチャイ区の中にあるが、市として独自の自治を行なっている。
- 2001年3月には千人を超える地元住民がプロジェクトに反対してバンコクでデモを行なった。2001年4月9日付けでバンクルート市議会は国際協力銀行保田総裁宛てに、本プロジェクトを支援しないように求める書簡を送付した。
6.国際協力銀行の反応
- 1998年後半の段階では融資調印直前の状態だったが、住民の激しい反対運動とそれに伴うタイ政府の見直し作業によって白紙に。タイ政府の動向を見守ると国会答弁。
- 2000年10月10日のタイ閣議後、トーメンからはプロジェクトにゴーサインが出たと報告を受けた。
- 銀行としてFact-Findingが必要。特にEIAの内容、地元の議会の反応、タイ電力公社との売電契約進行状況。
- 地元のトンチャイ区が賛成していること、また三者協議会(政府、住民、企業)の枠組みができていることから、JBICとしては支援の可能性があると見ている。
三者協議はUPDC社が資金を出して作ったもので、地元の反対住民はこの協議会を完全に無視している。なぜなら参加しているのは地元の商人や行政など利益を得る人たちばかりだから。本来の三者協議の目的はUPDCの活動をモニターすることなのだが、実際には地元の反対住民に対抗する戦略的な存在になっている。
- 2001年8月に本件を担当する審議役(当時)がタイの首相府大臣を訪問。本件へのタイ政府の承認について質す。
7.トーメンを中心とする企業が地域を分断
- 現地の住民グループ等の話によると、トーメンから出向した熱田社長率いるUPDC社はトンチャイ氏を10万バーツという高給で現地事務所長に採用し、反対派の切り崩しを任せている。M16ライフルを肩にかけたUPDC社の警備員がピックアップの荷台に乗りバンクルート市周辺を回るようになった。反対運動が激しくなると反対派住民リーダーの自宅(ジラウットさん宅)がM16で乱射された。
- 現地の住民グループ等の話によると、UPDCは関係する行政組織に、地域開発の名目で資金を提供する見返りとして、プロジェクトを支持する旨のレターを要求(トンチャイ区800万バーツ、近隣の3区各400万バーツ、バンサパーン郡500万バーツ、三者協議会300万バーツ、バンクルート市200万バーツ)。
- 企業側のこうした行動によって、地域社会は分断され、親戚同士の人間関係までが大きく歪められた。
8.駐タイ日本大使の企業寄りの動き
タイ政府が慎重に再検討し、国際協力銀行や財務省が慎重な立場を公式に表明し続けているにも関わらず、在バンコク日本大使館は赤尾大使を中心に本プロジェクトを支援。大使館員が企業代表と一緒にエネルギー担当大臣を訪問している。中村敦夫参議院議員の質問主意書に対して外務省は、日本企業の利益を守るのは大使館の役割と明言。
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