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タイの2つの石炭火力発電所計画と国際協力銀行
2000年11月18日
1.2つの石炭火力発電所とは
1)ヒン・クルット(Hin Krut)
- 建設予定地:プラチュアップ・キリカン県バーンサパン郡トンチャイ区コックタホム村
- 開発事業主:ユニオン電力開発会社(Union Power Development Co.Ltd.)
- 出資者:トーメン(34%)、フィンランド国営Fortum社(28%)、米企業の子会社Consolidated Electric Power
Asia社(CEPA, 28%)、タイのSaha UnionグループのUnion
Energy社(10%)
*ただし2月下旬にFortum社とCEPA社が撤退を表明。タイのEGCOがシェアを買い取ると報道あり。しかしFortumとCEPAの名前がUPDCに残っているとの指摘もあり、現在出資企業とその率については再確認中。
- 事業内容: 1400MWの石炭火力発電所建設。第1フェーズが2002年10月までに700MW、
第2フェーズが2003年1月までに700MW。民間独立発電事業体(IPP)としてタイ発電公社(EGAT)と25年間の電力売買契約を締結。原料の石炭はオーストラリアとインドネシアから輸入。
- 資金協力: 日本輸出入銀行(現国際協力銀行)が5億ドルの投資金融を供与する計画。しかし、タイ国内で見直しが始まり白紙撤回。総事業費は12億ドル。
2)ボー・ノック(Bor Nok)
- 建設予定地:プラチュアップ・キリカン県ムアン郡ボーノック区
- 開発事業主:ガルフ発電会社(Gulf Power Generation Co.Ltd.)
- 出資者:タイの合弁企業Gulf
Electric社(60%)、アメリカのエディソン・ミッション・エナジー社(40%)
*ただしアメリカ輸出入銀行の資料によると、Gulf
Electric社の出資分のうち9%を東京電力(株)が引き受けるとある。また輸出業者として三井物産が関与している。
- 事業内容:1468MWの石炭火力発電所建設。民間独立発電事業体(IPP)としてタイ発電公社(EGAT)に4つのフェーズに分けて売電する。第1フェーズの367MWが2002年4月、第2フェーズの367MWが同年10月まで、第3と第4フェーズは未確定。売電契約は未締結。
- 資金協力:総事業費は8億2千万ドル。米輸銀が融資に積極的と伝えられていたが、2月に取り下げた。国際協力銀行が検討中。
2.何が問題か?
- 大量の温排水による魚の生態系への悪影響
- 総延長3.5キロの原料荷揚げ用埠頭の建設による魚の回遊への悪影響
- 近くの珊瑚礁への悪影響(燃焼後の固形廃棄物の投棄や温排水)
- 炭塵による大気汚染・健康・観光産業への悪影響
- 石炭火力発電所による大量の温室効果ガスの発生
- 電力供給過剰の中で、電力価格の値上がりにつながる
- 住民を無視した国内の決定プロセス
- 環境影響調査の度重なる不備
3.現在どうなっているのか?⇒2000年10月10日の2つの動き
★動き1−タイの閣議「プロジェクトを進める+社会影響を調べる委員会を設置する」
- 当初は時間稼ぎと見られていた。11月9日下院解散、来年1月6日選挙
- 閣議承認は必要ない。閣議では公聴会の結果が報告されただけ。
*ヒン・クルット発電所に関する公聴会が推進者側を中心に2月末に開催。公聴会出席者200人に対して、ボイコットして抗議集会を開いたのが千人に及んだ。
- 社会影響を調べる委員会は、副首相によれば住民を理解させプロジェクトを受け入れさせるためのもの。何の法律にも基づいていない。
- タイ政府が承認した新しいEIAについてはある文書の一部なのでそこから切り離して独立させ英語に翻訳する予定。反対派が簡単な分析をしたところ影響を受ける漁民の数をかなり低く見積もっており今後しっかりと分析する予定。
★動き2−トンチャイ区のクルット市議会が全会一致で反対決議
- トンチャイ区議会はプロジェクトに賛成しているが、ヒン・クルット発電所の建設予定地から北へ2〜3キロ離れたクルット市は人口も多く最も影響を受ける地域で10月10日付け市として反対決議を発表した。
*タイの地方自治行政の最小単位は区(タンボン)だが、都市部では130余りの市が存在する。直接選挙で選ばれた市議会議員によって市長と副市長が選ばれる。クルット市はトンチャイ区の中にあるが、市として独自の自治を行なっている。
*ちなみに、ボーノック発電所が予定されているボーノック区は区議会としてプロジェクトに反対している。
4.国際協力銀行の反応
- 1998年後半の段階では融資調印直前の状態だったが、住民の激しい反対運動とそれに伴うタイ政府による見直し作業が始まったことで白紙状態に。タイ政府の動向を見守ると国会答弁。
- 2000年10月10日のタイ閣議後、トーメンや三井物産からはプロジェクトにゴーサインが出たと報告を受けた。
- 銀行としてFact-Findingが必要。特にEIAの内容、地元の議会の反応、タイ電力公社との売電契約進行状況。
- 地元のトンチャイ区が賛成していること、また三者協議会(政府、住民、企業)の枠組みができていることから、JBICとしてはヒン・クルットの方はボーノックより支援の可能性が高いと見ている。
*三者協議はUPDC社が資金を出して作ったもので、地元の反対住民はこの協議会を完全に無視している。なぜなら参加しているのは地元の商人や行政など利益を得る人たちばかりだから。本来の三者協議の目的はUPDCの活動をモニターすることなのだが、実際には地元の反対住民に対抗する戦略的な存在になっている。
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