ホーム > 追跡事業一覧 > タイ > ヒンクルート石炭火力発電所 > ストップ!ヒンクルート&ボーノック第10号:日本企業とJBIC、どちらが嘘つき?
2002.4.15
メコン・ウォッチ&地球の友ジャパン
日本の企業と政府機関が、現地の議会や地域住民を無視して進めているタイの石炭火力発電所計画を止めるため、皆さんの力を貸して下さい!
ヒンクルート発電所:トーメン、豊田通商、中部電力
ボーノーク発電所:電源開発
支援検討:特殊法人国際協力銀行(JBIC)、貿易保険(経済産業省)
4月12日の朝日新聞でも報じられました通り、タイ政府は、ヒンクルートとボーノークの2つの石炭火力発電所計画を進めるかどうかの決定を、4月30日に先送りしました。
現在タイで大きな論点になっているのは、「もしタイ政府がこのプロジェクトを中止した場合、タイ政府は日本企業等が出資している開発業者に違約金を支払わなければならないかどうか」という点です。
それについて、4月4日付けのタイ字経済新聞のクルンテープトゥラキット紙が詳細なレポートを報じました。その中で、ヒンクルート石炭火力発電所の開発業者で、トーメン、中部電力、それに豊田通商が出資しているユニオン電力社(UPDC)の幹部職員は、「・・・日本の国際協力銀行は、タイ政府が発電所建設を決定した際に融資を行なう契約に署名することになっている」「すでに建設計画に投
資するための融資の交渉を行ない、期限までに計画を完了する準備を整えている」と述べていると報じられています。
これに対して、谷ひろゆき参議院議員が3月29日付けでJBICから受け取った回答書では、JBICは融資の申請を受けていないし、審査すら始めていないと明言しています。また、同じプロジェクトに貿易保険を付保すると言われている日本貿易保険(NEXI)も、同議員宛ての4月2日付けの回答書で、審査に入っていないと断言しています。更に、両金融機関は、もしこのプロジェクトが今後審査対象となった場合でも、今年4月1日付けで制定された新環境ガイドラインを実質的に適用する意思を、谷議員への回答書で述べています。
新環境ガイドラインでは、社会的合意を求めていますので、地元の自治体や住民が断固反対の立場をとっているこのプロジェクトに融資や付保を行なうことは、現状では不可能なはずです。
こうした経緯を考えますと、日本企業3社が中心になっているUPDC社は、すでに JBICからの融資を確実にしていると嘘の主張をして、タイ政府に対して、「中止 すれば多額の違約金を要求する」と恐喝まがいの行動に出ていることになりま す。それとも、「審査をしていない」とか「融資を約束していない」と言っているJBICやNEXIの方が、日本の市民や新ガイドラインの精神を欺いているのでしょうか?
もしJBICが本当に審査を始めておらず、融資の密約もしていないのであれば、 UPDC社、ひいてはその最大出資グループであるトーメン、中部電力、豊田通商の 日本企業三社に対して、抗議の意思を公に表明するべきです。それをせずに黙認 しているのはどうしてなのでしょうか?
以下、情報源となりました、クルンテープトゥラキット紙の記事を、ウボン大学 教員の土井利幸さんが翻訳して下さいました。長文ですが、極めて重要な情報が 盛り込まれていますので、ご参照下さい。
『クルンテープトゥラキット』紙2002年4月4日(部分訳)
タイ弁護士協会は、「政府がボーノークとヒンクルート両発電所を中止にできる 可能性について」と題するセミナーを開催したが、その席で、Wasant Phanich国 家人権委員会委員は、ボーノーク発電所計画の問題について触れ、様々な情報を 検討した結果、政府が望むのであれば、建設地問題をたてに即座に契約を破棄で きることが明らかになった、と述べた。
1971年11月4日に発行された公的文書によると土地面積は931ライ(訳 者注:タイの土地単位で1ライ=0.196ヘクタール)であり、ユニオン電力社 (訳者注:ガルフ電力社の誤り)は1996年にこの土地全体を50年間借り入 れる申請を行なった。借り入れの理由は、石炭積み下ろしの埠頭と水質を変える 工場を建設するためである。
Wasant氏によれば、土地に関する情報を整理してみると、地区協議会が発電所事 業主に土地利用を許可する権限を持っていたわけだが、その際土地面積が10ラ イを超えてはならず、一方でユニオン電力社(訳者注:ガルフ電力社の誤り)は 土地全体の利用を申請したので、これは地区協議会の権限を超え、県が権限を持 つ事項も超えていることが分かった。地区協議会は地区評議会に改組され、後者 は土地使用を断った。それで土地使用許可証は2001年に失効したままであ る。事情はヒンクルート発電所についても同じである。
また、Banjert氏(訳者注:後に発言するBancherd Singhanaetiタマサート大学 講師)は建設計画に関する契約を破棄できる可能性について触れ、行政裁判所設 立法第3条によると、タイ発電公社(EGAT)が事業主と契約を交わしたのである から、発生した問題については、行政裁判所が解決の権限を持つと述べた。同時 に政府には契約の変更を無効にする権限もある。なぜなら、政府には変更された 一般法を保護する義務があるからだ。
「問題は、当初より政府が契約をあつかうにあたって不利な条件を改善する権利 を履行しなかったことなんです。ヒンクルート発電所の場合で言えば、1999 年9月30日にユニオン電力社によって契約の変更がなされましたが、同社が 「不可抗力」を理由にあげたため、3%の準備費用が支払われることになりまし た。これが政府の責任であったかどうかは調査されていません。ユニオン電力社 は環境影響評価を行なう上で、特に珊瑚の調査で間違いをおかし、これは会社側 がおかした間違いですが、政府は抗議しませんでした。今一度は2001年5月 17日で、この日開催が遅れていた公聴会が実施になりましたが、これも追加費 用の支払いにつながり、やはり審査されませんでした。契約違反をおかしてきた 者がいるわけですから、契約を破棄をすることもできると思います。」
また、タマサート大学法学部の教員(訳者注:Bancherd Singhanaeti講師)は、 今年4月30日と5月1日にボーノーク・ヒンクルート両発電所の事業主との間 で買電契約が完了するが、もしユニオン電力社が融資元を特定できていなかった り、融資確約の書類を提示できなければ、EGATには契約を破棄する手段が開けて くる。同教員が知っている限りにおいては、日本の大口融資元である国際協力銀 行(JBIC)は現時点で融資を承認していない。同様に、米国の輸出入銀行もボー ノーク発電所に対する融資を検討していない。
したがって、もし両社が期限内に融資元を特定できない場合は、契約違反とする ことができる。そうすればEGATは補償金を支払ったり、補償請求を受けることな く契約を破棄できる。
国家経済社会開発諮問委員会の科学技術・環境資源エネルギー作業部会に所属す るWikhur Phermphongsajarern氏は、これまで見てきたように、政府は二つの発 電所建設計画の契約を破棄することができる、と締めくくった。
政府も市民社会も問題のリスクを背負うことはない。その理由はユニオン電力社 が、1)建設費用の準備と、2)建設地の準備の二点において契約違反をおかし ているからである。Siuwong JangkhasiriEGAT理事長が、1997年5月15日 に任期切れになったにもかかわらず同月17日に買電契約に署名した件について も、法律に従って契約の無効を主張することができる。
ユニオン電力社(UPDC)の幹部職員は、ヒンクルート発電所建設に投資するため に内外の金融機関から9億米ドルの融資を受ける交渉に成功してきたと述べた、 と伝えられている。
これらの金融機関は、バンコク銀行を筆頭とする国内の銀行団(全融資の15% を拠出)、日本の商業銀行(30%)、そして日本の国際協力銀行(JBIC=5 5%)である。これらの金融機関はタイ政府が発電所建設を決定した際に融資を 行なう契約に署名することになっている。
ヒンクルート発電所建設計画には総額で12億米ドルが投入され、1400メガ ワットの電力を発電する。ユニオン電力社への出資者から3億〜3億7000万 米ドルの資金が投入され、残りの9億米ドルは融資による。同社はすでに1億2 000万米ドルを出費した。
ユニオン電力社はすでに建設計画に投資するための融資の交渉を行ない、期限ま でに計画を完了する準備を整えている。あとは政府が建設か中止かの決定を下す のを待つばかりだ。もし発電所建設が許可されたら、即座に計画を開始すること ができる。したがって、政府が融資問題をたてに計画中止を主張することはでき ない。政府が発電所建設を許可したのに、同社が期限内に融資元を特定できない 問題に遭遇した場合は、政府が買電契約を破棄することも可能だろう。職員はこ のように述べたと伝えられる。
また、情報によれば、ユニオン電力社は、政府に対して二つの選択肢を示したこ とを確認した。これは、すなわち、発電所建設の承認か中止かである。同社が翻 意して、他の選択肢、例えば建設地を変更したり、天然ガスなどに燃料を変えた りすることはない。ユニオン電力社は、比較上でもヒンクルート発電所の電気が 最も安価であることを確信しており、その価格は単位当り1.58バーツであ る。